数学者として20年も前から国語と国語教育のたいせつさを説いてきた藤原正彦の言論には共感をもってきたが、ベストセラーになった『国家の品格』を読んでから、迷いだした。そして、いま、はっきり、彼の言う祖国愛は国粋主義にほかならないと思うようになった。
「祖国とは国語」はドイツに占領されてフランス語を使えなくなるときを描いた『最後の授業』の著者のことばだという。
同じことばでも、だれが言うのかによって、趣旨が変わってくる。
占領する側のドイツ人が「祖国とは国語」と言うときの心と、占領される側の人が「祖国とは国語」と言うときの心は90度ちがう。
今年いただいた年賀状に、逆縁の不幸を耐えた方からのものがあり、次の詩が紹介されていた。
「
しかし冬が過ぎ、私の星にも春が来れば、
墓の上に青い芝草が萌え出るように
わたしの名が埋められた丘の上にも
誇らしく草が生い茂るでしょう 」
作者は
尹東柱、朝鮮語で詩を書いた罪により福岡刑務所で27歳で獄死した。1945年、たった60年前のことである。
日本人が「祖国とは国語」と言うとき、この詩人を二重に殺す。
他国に侵略されたもののことばを用いて、侵略されたことのない国のものが国粋主義を吹聴するのは卑怯だ。
尹東柱について:
http://fuumaru.ld.infoseek.co.jp/kokoro8.html
http://www1.korea-np.co.jp/sinboj/%EF%BD%8A-2005/05/0505j1213-00003.htm
http://ww2.tiki.ne.jp/~sugui/index.html
http://homepage2.nifty.com/taejeon/Dongju/dongju.htm