180720 西日本豪雨考その3 <緊急報告 西日本豪雨/下 ダム放流「人災では」>などを読みながらつらつらとふと考えてみる 7月22日補足
昨夜の上弦の月、薄赤銅色に染まり、なかなかの情緒を感じました。むっとした暑さは仕方ありませんが、それでも少し和らぎました。というか、谷間の底の方から少しひんやりした風が吹き込んできて、夜になっても30度近い温度をさほど感じないほどでした。
谷底には(それほど深くありませんが)、小さな小川が流れていてそこから少しひんやりした風が吹いてくるのかしらと思うのです。以前、鎌倉に済んでいた頃、滑川から50mくらい離れたところでしたが、とても涼やかな風が吹いてきて、おそらく若宮通りとかと比べると数度は温度が下がっている印象でした。まちのよさはそこに流れている川のよさと関係すると、どこの都市・まちにいっても思うのですが、ふとそんなことを思い出しました。
ところで、災害になると川は別の顔を見せますね。愛媛県の肱川は西日本豪雨で、上流のダム操作も影響して、悲惨な状況になりました。
さてこの件については、連日のように報道されていて、私も取り上げようかと思いつつ、情報不足で二の足を踏んでいましたが、とりあえずこれまでの情報などを少し見ながら、書いてみようかと思います。
7月15日付け毎日記事<緊急報告西日本豪雨/下 ダム放流「人災では」>は、被災した住民の立場から問題を取り上げているようです。
7月7日の被災状況について、<この日朝、地区中心部を流れる肱(ひじ)川があふれ、ユリ子さんら59~82歳の男女5人が死亡、約650戸が浸水した。複数の住民によると、午前6時半ごろから川は一気に増水。津波のような濁流が押し寄せ、同7時半ごろには住宅の屋根まで水が及んだ。>と氾濫が突然、起こったことを伝えています。
その要因をさぐるかのように、記事は<気象庁によると、このときまでの24時間雨量は同市で観測史上最大の347ミリ。約3キロ上流の野村ダム(総貯水容量1600万立方メートル)は、午前6時20分から、緊急的に流入量とほぼ同量を放流する「異常洪水時防災操作」を開始。その水量は、直前の毎秒250立方メートルから一時、最大7倍近くに達した。>と累積降水量とダム放流を一挙に7倍にしたことを指摘しています。
さらに混乱を招く自体があります。ダム管理事務所からの放水通告、市の避難指示の時刻について双方で違うのです。
<地区の約5100人に避難指示が出たのは、7日午前5時10分。>この点は一致するようですが、市側は<市関係者によると、その約3時間前の午前2時半ごろ、ダムの管理所長から市役所野村支所長に「7時45分に過去最大の毎秒1000立方メートルを放水する」と通告があったという。>
これに対し国側は<国は最初の連絡で「6時50分に放水開始予定」と告げた>と食い違っています。
もう一つ問題は市の避難指示が住民側にそれ自体が十分伝わっていなかったか、伝わったとしても正確に理解できるように伝わっていなかったおそれがあります。
その点記事は<市は避難指示後に計3回、各戸に配置されている防災無線と屋外放送で住民に避難を呼び掛けた。だが、ダムの放流を知らせるサイレンや放送は雨音でかき消され、無線は呼びかけ続ける形ではなく、20~30分おきの計3回。気付かなかった住民もおり、消防団は戸別訪問で地区を回った。>この消防団員による戸別訪問だと、相当時間がかかったはずでしょうね。
ダム放流操作の問題が指摘される中、国側の説明はほぼいつものようなものでした。
<ダムを所管する国土交通省治水課は、「避難指示が出てから操作までの70分間、川への流量も少なく道路への浸水もなかった。避難行動に貢献できた」と回答。四国地方整備局の長尾純二河川調査官は、「ダムの容量を空けて備えたが、予測を上回る雨だった。規則に基づいて適切に運用した」と説明する。>
専門家の意見は、この問題の要点を簡潔に伝えています。
<京都大防災研究所の角哲也教授(河川工学)は、予測を上回る降水時のダム操作の難しさを「ちょうど良く運用するのは神業」と表現。「ダムを操作する現場の切迫感を、いかに早く住民に伝え、避難行動につなげてもらうかが大事」とし、非常時にどう動くのか日ごろから想定しておく重要性を訴える。>
しかし、これはダム放流後に起こった災害についてよく言われることで、いつの間にか忘れ去られ、同じことを繰り返しているように思うのは私だけではないでしょう。
ではダム管理者の対応についてどう考えれば良いのでしょう。
改めてダム管理者の意見を聞いてみましょう。
7月12日付け愛媛新聞記事<愛媛豪雨災害 野村・鹿野川ダム 適切操作を強調>では、野村ダムの貯水率と放流量の推移をグラフで示して、<野村ダム(西予市)の48時間の流域平均雨量が計画の約1・2倍の419ミリに達するなど、想像を超えたことを明らかにした。鹿野川ダム(大洲市)も同約1・1倍の380ミリだったが、ともにダム操作は適切との認識を強調した。最大時間雨量は野村53ミリ、鹿野川47ミリだった。
洪水に備え野村では4日から、鹿野川では3日から事前放流したと説明。両ダムで実施した異常洪水時防災操作について両市との連絡体制を取っていたとした。>
要するに、ダム操作規定に則り適切だったとの見解です。ここでのポイントは、どのような操作規定のどの内容に適合しているかといった議論は書かれていません。
ではダム操作規定はどうなっているかというと、野村ダムも上流の鹿野川ダムも、当該規定をネット上で検索しましたが、見つかりませんでした。
とはいえ、多くは標準的な操作規定にそれぞれのダム諸元などを当てはめているくらいで、詳細の規定を用意しているわけではないと思います。
その<ダム操作 標準操作規程(滋賀県)>を見ると、一般的な状況での流水の貯留と放流の方法と放流時の措置と洪水時の特則が基本的な枠組みで、それは個別具体的な気象条件に対応するようなものではありません。
そこまで具体的な気象情報との連携の上で、操作することはいままで想定されてこなかったのではないかと思うのです。また、上流の鹿野川ダムと下流の野村ダム、それに放流先の肘川水系全体の流量を把握しつつ、操作するような仕組みができあがっていなかったのではないかと推測します。
現在のダム管理者にフリーハンドを与えるような操作規定では、今後異常気象が発生しても同様の問題が起こりかねないと危惧するのです。
その点、本日付愛媛新聞記事<愛媛豪雨災害 四国整備局河川管理課長 一問一答>は、少し国側に変化を感じました。
<―ダムの操作に問題は。
経験したことがない洪水の中で綿密に操作規則に従って操作できた。大きな洪水への課題はあったと思っており、検証の中でいい対策を練っていきたい。>とか
<―どのような規則の変更が考えられるか。
野村ダムがなぜ中小規模(の洪水に対応する規則)になったかというと、下流に堤防整備ができていない箇所が残っているからだ。中小規模想定を生かしつつ、大規模でも壊滅的にならない手法として、容量や流量の変更は検討の余地がある。容量を増やした分、うまく流す規則に変えないといけない。>とか
ところで、今回安倍首相の指示?で、第三者検証委員会でしたか、設置されましたが、多くのデータがあるので、それを公開して、ダム操作のあり方を、降雨量の予測や貯水量、放水量など推移を具体的に検討して、より洪水発生を回避する安全の立場に立って、放水時期・量を考えてもらいたいと思うのです。むろん、流域住民に対しても、放流量によってどのようなリスクが具体的に発生するかを事前に周知することも大事でしょう。
さて、私なりに<野村ダムの任意期間ダム諸量検索結果 2018年7月5日 ~10日>と<鹿野川ダムの任意期間ダム諸量検索結果 2018年7月5日 ~10日>を検索して、検討してみました。
これは興味深いダム放流の操作内容です。降水量との関係でも、貯水率との関係でも、気になります。今日は時間がないので、分析もできていませんが、いつか考えてみたいと思っています。それは専門家がしっかりこれらデータを見て、合理的に説明できる必要があると思います。7日に流入量を前部放流すると決めるに至った後の措置が合理性があったかというこれまでの議論の前に、それ以前の段階をしっかりと検証し、より具体的で適切な操作方針を立ててもらいたい(それに不足する情報があれば収集することも義務化すべきではないかと思うのです)ものです。
勝手な見方で、1時間あまりかけて書き上げたものですから、見当違いがあれば私の至らなさです。ただ、上記のわずか6日間の雨量、貯水量、流入量、放水量、貯水率の時間ごとのデータは、なぜそうしたのか、あるいはそうしなかったのか、公開の場で検討してもらいたいと思うのです。
今日は雷さんが元気に活躍しています。帰りをそろそろ急ごうかと思います。本日はおしまい。また明日。
(補足)
7月22日付け読売記事<ダム放流、国「ルール通り」住民「計画性ない」>では、<国土交通省四国地方整備局によると、二つのダムでは豪雨に備えて4日から事前放流を行い、通常の約1・5倍の貯水が可能になっていた。だが、7日に入っていずれのダムも水位が限界に近づき、水があふれ出る恐れが出たため、流入する量とほぼ同じ量の水を放流する「異常洪水時防災操作」を実施した。>とルール通りを国が改めて指摘しているようです。
しかし、そのルールがどのような前提で、どのような放流量・貯水率を定めているのか、具体的なデータを示されておらず、隔靴掻痒の感をぬぐえません。抽象的な議論を繰り返さず、具体的なルールを示して、説明して、住民の理解を得るよう努力してもらいたいものです。
ところで、上記ブログで引用した両ダムの7月5日~10日(4日からもデータは入手できます)では、放流量は控えめで、貯水率は一番低いのが7月6日21時で、69.4%です。異常時を想定して貯水率をもっと下げておくべきであったかどうかを、丁寧にぎろんしてもらいたいものです。そのときの貯水量6969×10³m³です。それが7月7日8時には13414×10³mとなっています。わずか11時間でです。いや正確に2時間前に貯水率が100%となっています。この間の降水量は累積140mm以上ですから、異常豪雨であったことは確かですが、それはずっと以前に気象庁が最高度の緊張感をもって予報していたのではないでしょうか。このような異常豪雨は特別警報制度を設けた平成25年度にダム操作においてもどのように見直されたのかも検証されるべきでしょう。