180724 異彩に期待 <昔の仕事仲間が小説家としてデビューしたことに驚嘆>
先週末頃だったでしょうか、知り合いのIさんから「白い雲」という事務所報というより、個人的な定期便を頂きました。彼は弁護士として有能だけでなく柔和で包容力があり、どんどん事務所を大きくして、いまでは弁護士の数も100人を超えたのでしょうか。
その冊子はなかなか手の込んだ作りで、今回は謝さんという男性棋士とも互角以上に打ち合う女流本因坊との対談がメインでした。彼は宝塚通で、謝さんともそこへ招待して知り合ったそうで、今回は日本棋院幽玄の間というとても格式のある場での対談でした。
で、その話はこの程度にして、彼の本の紹介のところで、なにか引っかかりました。見出しで「弁護士作家が著す本格的時代小説」ということでしたので、私自身あまり時代小説に関心がないため、本来パスするところでした。ただ、「環境法の専門家」とか「日弁連嘱託」というのが目に入ったのか、えっと思いました。
まさに私と10年以上にわたっていくつもの環境事件を手がけたOさんでした。彼が文学部出身であることは知っていましたが、まさか小説を書いているなんて驚きでした。
彼との出会いは、20年以上前で、彼が弁護士になってまもなくの頃だったと思います。東京弁護士会の公害環境委委員会で、環境問題110番を始めるに当たり、想定問答集を作ることにしたのですが、そのときメンバーで原稿を提出してもらったところ、とびっきり優秀なのが彼ともう一人の新人会員だったと思います。それ以来注目する弁護士となりました。
その後彼はいろいろな経験をしながら、どういうきっかけか忘れましたが一緒に環境事件をやるようになりました。彼は当時、行政事件訴訟法など行政訴訟分野の改正が政府で議論しているとき、日弁連代表のサポート役としてずっと関与していたと思います。その一方で、環境訴訟を手がける私ともタッグを組むようになったのでしょうか。私とだけでなく、他の環境事件にも積極的に関与していたのではないかと思います。私の場合彼の強力な支援があって、いくつかの環境訴訟で勝訴を勝ち取ることができました。
彼は改正行政事件訴訟法について審議段階から準備作業をしていましたから、改正で新設された仮差止め制度など、熟知していました。それを有効に活用したのが、鞆の浦世界遺産保全訴訟でしょうか。そのとき彼の構想力のすばらしさやその実践的な遂行力も脇で堪能できました。
彼が書き上げる準備書面は、中身の濃い、説得力のある内容で、多くの優秀な仲間と仕事をしてきましたが、比類ないというと他の仲間に失礼になりますが、少なくとも遜色がない優秀さでした。
私は、若手の弁護士とも時折一緒に仕事をしたことがありますが、私がほとんど書いてしまうことになっていることがあります。しかし、彼の場合はむしろ私以上に書いてくれていたように思います。
その彼がある時期から大学教員となり、とても通読できそうにない(失礼)博士論文を書き上げ、准教授、教授になってもとくに驚きはありませんでした。研究者として将来楽しみな彼でした。
ところが、時代小説を彼が書いた、しかも日経小説大賞を受賞したというのですから、これは驚かざるを得ません。たしかに文学部出身ですから文才はありましたが、まさか小説を書いているとは・・・
で、早速、彼にメールしました。タイピングの早さでは群を抜く彼から素早い返信がありました。すでに相当数の原稿を書いているそうで、今回の受賞作が人気を呼んで、次々と大量の発刊の話になっているとのこと。そしてすでにもう次作が先日発刊されたというのです。
私の場合、時代小説は、とくに戦国時代ものについては、昔はおもしろく読みましたが、おそらくここ30年くらいは読んだことがないと思います。最近は古代にはまっていて、戦国時代の権力闘争とか関心がないといってよいかもしれません。でも彼の作品だからと、受賞作を早速注文していました。彼のメールを見たら、次作も注文することにしました。
彼は環境小説も書いているそうで、いまは時代小説の依頼が集中しているそうですが、将来はこの分野にも乗り出したい意欲を示しています。期待をしつつ、私なりに考えを伝えました。私がいま関心を抱いているのは、時代の権力者ではなく、庶民の生活や意識であって、庶民の目線で時代を捉えるような小説です。彼はそのような私の勝手な意見にも耳を傾けてくれます。年長者にとても丁重で、紳士なんですね。
さて、あまり本を買わない私が、しかも時代小説を購入し、さきほど手元に入りました。受賞作の赤神諒著『大友二階崩れ』と次作の『大友の聖将』です。
で、受賞作を数頁読みました。期待を裏切らない滑り出しです。時代小説ファンなら、次の頁を早くみたいと思うほど、序の舞のごとく何か起こりそうな、人物と状況描写を簡潔に、リズミカルに描いています。これを通読すると、他の本が読めなくなるので、少し楽しみをとっておこうかと思います。
やはり彼は文才があると改めて感心してしまいました。だいたい私なんぞがどうこういう話ではないですね。日経小説大賞では、選考委員の辻原登氏や伊集院静氏という大家が太鼓判を押しているのですから。
で、このブログの読者の中に興味が芽生えた方は、是非、「新人ですでに大家の風格」との書評すらある、彼の作品を読んでみてはとおすすめする次第です。
今日もそろそろ時間となりました。また明日。