学校水泳の最大の特色は、「全人的な教育」ができるという点にあります。
クラブ活動において水泳指導をするのと同時に、授業では学習指導、寮生活では生活指導を行っています。
現在は引っ越しましたが、私は就職以来18年間にわたって生徒と共に寮生活を送ってきました。
寮生活をしている時は、学校への登校→朝練習→授業→午後練習→下校→夕食という一日のほぼすべての時間を生徒と共に過ごすという毎日を送っていました。
時には風呂も一緒になることがあります。
クラス担任をしているときは、さらに多くの時間を一緒に過ごすことになります。
授業ではクラブ活動では教えることができない内容を取り扱います。
私は公民科の教員として、現代社会や政治・経済、倫理といった科目を担当しています。
選択科目によっては大学の入学試験科目となりますので、大学入試対策の授業を受け持つことにもなります。
授業や寮生活では普段のクラブ活動では見ることができないような生徒の様子や考え方を知ることができます。
このような生活は親子の関係で考えると、母親と乳幼児期の子供に近いぐらいの濃密な時間を共に過ごしていることになります。
それだけの時間を一緒に過ごせば、自分の考え方が自然と生徒に伝わっていることでしょう。
共に過ごす時間が長いといっても、決してなれなれしいような関係ではありません。
あくまでも教員と生徒という立場が崩れるようなことはありません。
そうはいっても、一日中緊張しながら教員という立場で何かを教え続けるというわけでもありません。
共に過ごす時間が非常に長いということが大切であって、そこから多くのことが自然と伝わることになります。
時には難しい関係になることもありますが、それもお互いの人間関係の学びにつながっています。
人間というものは誰でもそうだと思いますが、その場面によって見せる顔が違うものです。
同じ子供であっても、家での姿、学校での姿、クラブ活動の姿はそれぞれ異なるものです。
「学校水泳」では、その変化をいち早く感じとることができます。
クラスではおとなしくしている生徒でも、クラブ活動では生き生きとしている姿を見ることもできます。
逆にクラブ活動で一生懸命になっていても学習成績が下がっている場合、気持ちの持ち方に何か問題があると考えています。
基本的に水泳の記録が向上しているときは、学習成績も向上しているものです。
何か問題があるときは挨拶の仕方や顔の表情にもあらわれます。
基本的な日常生活の習慣がしっかりしてこそ、水泳や学習の成果につなげることができます。
このように「学校水泳」では、水泳・学習・生活というあらゆる側面をみながら指導にあたることができるという特色があります。
それだけ重い責任を担っているということもありますが、これこそが教育の理想形であるともいえます。
人間関係の深いつながりは、水泳に対する取り組み方や仲間との関係、高校卒業後にもつながっていくことになります。
竹村知洋