練習を考えるうえでいつも念頭に入れていることは、理論をいかに実践に結び付けるか、ということです。
第一に重要なことは、水泳の練習や人体の仕組みに関する知識を蓄えることです。
私も20代の頃、マグリシオ著の『スイミングファステスト』やNSCAの『ストレングストレーニング&コンディショニング』をじっくり読み、他には分子栄養学研究所で栄養学を学んだり、専門学校で人体の生理学や解剖学を学んできました。
その時に学んだ知識をもとにトレーニングを組み立てていますが、理論がそのまま実践に当てはまるかというとそうもいかない部分は多いです。
例えばマグリシオの本によると、持久力を高めるためのトレーニングはトータル2000m~4000mで、1回に泳ぐ距離は200m以上、レスト時間は10~30秒となっており、これを週に4.5回、基本的に専門種目で泳ぐこととなっています。
これを練習メニューにすると、200m×20本(2:40)や400×10(5:00)、800×4(10:30)をすべて専門種目で泳ぐことになります。
このメニューに耐えられれば相当なる持久力は養われるはずですが、これを週に4.5回も常に出し続けていたら、おそらくバタフライや平泳ぎの選手はフォームが乱れ、いずれ心身ともに崩壊することでしょう。
このことはすべてが理論どおりにはいかないことを示しています。
最近は練習内容を強度や脈拍でカテゴリーに分類し、持久力トレーニングをEN1・EN2・EN3、スピード練習をSP1・SP2・SP3というように区分し、年間の割合を計算しているコーチも多いと思います。
パソコンを使えば練習カテゴリーや時間の計算などは簡単に行うことができます。
私も上記のような理論に基づいて練習メニューを組み立ててはいますが、あえてパソコンは使わず、手書きにこだわっています。
その理由は、数字を使った理論だけにとらわれず、常に実践を考えて練習を組み立てたいからです。
例えばこの日の練習はEN1を中心としたメニューで、1セット600m以上、休息時間は50mにつき5~10秒というマグリシオの理論に基づいてつくられています。
そのなかに含まれているKICK練習や600m→50mへ距離を落としていくトータル4000m以上をFr中心で行うプル・スイムのディセンディングセットにはこれまでの経験が生かされています。
日大豊山に伝わる「55の教え」のその15にも「実践的な練習をする」というものがあります。(https://blog.goo.ne.jp/buzanswim/e/1d5d7f78432c2dd9076691fee5058239)
前監督の井上先生にもよく言われたことですが、練習メニューを考えるときにコーチの自己満足になるようなメニューを作ってはならない、選手が喜ぶようなゴマカシのメニューであってはならない、ということです。
長年、競泳コーチとして経験を積んでこられた方から話を聞くと、不思議なことに理論と一致していることが多いということを実感しています。
そのため、常にレースのことを考えて、実践に生かせる練習をつくろうと心掛けています。
例えば日大豊山水泳部では、昔からパドルやフィンなどの道具を使った練習はほとんど行いません。
ドリル練習ではよく使用しますが、強化練習ではほとんど使いません。
その理由は、大会では道具の使用はないからです。
今まで道具を使った練習をもっとすればよかったなどと後悔したこともありません。
練習内容は実践的で厳しいものになりますが、それに耐えられないようであれば試合で勝つこともできません。
「55の教え」その7に「自信がつく練習をする」というものがあります。
(https://blog.goo.ne.jp/buzanswim/e/cf4267dab90f219f8f594c4ba05a93e1)
理論をもとにしていますが、それにとらわれすぎずに経験を生かし、選手の自信がつく練習メニューをつくることを心掛けています。
竹村知洋