108:
『殺してやる!』
カセムの声がこれ迄以上にハッキリと聞こえた。その途端、左上で何
かが光った。回避しようとしたキミは、その光に何か異質なモノを感
じてハッとなった。
─ダミーか!?
ドーベンウルフとインコムを繋ぐワイヤーには、リレーインコムと呼
ばれる中継器が取りつけられている。本体からの信号の増幅が主な機
能だが、マイクロレーザーによる威嚇射撃も出来る。破壊力はないが
発光は派手だからダミーとしては十分だ。
─リレーインコムか?
言葉にすると長いが、これらの思考は総て一瞬の内にキミの頭の中を
駆け巡った。
・回避運動を採る:195
・他の方向に注意を向ける:020
020:
左上からガザT目がけて走った光条はしかし、機体に届く前に拡散し
た。咄嗟に機体を沈める。1発目とは反対の方向から発射されたビー
ムが頭の先を掠めた。
・ビームを躱す内に、高度は9万に近づきつつあった:086
086:
空気抵抗による減速Gは既に耐え難いモノになっている。左のシール
ドを失っているガザTは不規則な振動に襲われていた。熱に弱い一部
のセンサーの中には、死んでいるモノもある。
さすがにこれ以上はワイヤーが保たないのか、ドーベンウルフはイン
コムを収容した。メガランチャーをこちらに向けたドーベンウルフを
睨みつけながら、キミはバリュートのオートパイロット解除スイッチ
に躊躇いながら手をかける。
シミュレーションによる突入戦闘の訓練を、キミは幾度か経験してい
た。その訓練で最も重要なのは、バリュートのオートパイロットを切
り、バリュート展張のタイミングを掴むことだ。
もし、突入戦闘中に敵より早くバリュートを開けば、減速した機体は
高速で落下し続ける敵機に対して背面を向けてしまうことになる。風
船のようなバリュートにバルカンの1発でも撃ち込まれれば、それ迄
だ。また、展張が遅れればバリュートは抗力に負け、開いた途端に破
裂してしまう。
しかし、キミはガザTが装備している新型バリュートの性能を知らな
い。オートで開くのに任せれば安全だろう。しかし、ドーベンウルフ
のカセムがオートを切っていた場合、それ迄だ。
・バリュートのオートパイロットを切る:049
・そのまま降下を続ける:064
049:
オートパイロット解除スイッチを押す。幾らも経たない内に高度は9
万を切った。途端に警報がコクピットを満たした。
─アイツは知ってるんだろうな…最小展張高度を…
激しい振動が襲ったかと思うと、左のシールドがマウントからもぎ取
られた。クルクル回転しながら宙を舞って爆発する。
高度は8万5千メートル迄下がっていた。
※151で情報を得ましたので、指示通りに170へ進みます。
170:
その時、キミの脳裏にサザダーンで聞いた誰かの言葉が浮かんだ。
─射出高度は21万…標準減速で7万9千まで…
・何だって今の今迄忘れていたんだ!:099
099:
高度が8万に近づいて行く。一際高い音で警報が鳴り、コンソールと
モニターの両方に表示が出る。バリュート展張用火薬異常加熱。
「もうちょいだ!保て!」
怒鳴った時、ドーベンウルフがバリュートを開いた。ガザTに背を向
けて上昇していくような形になる。
─勝った!
バリュート展張スイッチに手をかけながら、ナックルバスターをドー
ベンウルフのバリュートに向ける。
トリガーを引こうとした時、バリュートが消えた。キミの目の前に再
びあの砂漠の夕陽の光景が広がる。
そして、声。
『助けてくれ!』
ハッと我に返る。高度は7万8千、もう限界だ。展張スイッチを押す
と、軽い衝撃と共にバリュートがガザTを包んだ。ドーベンウルフの
バリュートが少し上の軌道を落下して行くのが見えたが、この距離と
角度ではもう撃てない。
─何故撃たなかった…何だったんだ、アレは?
モニター上の空が青みを帯びて来た。下は一面の雪景色だった。晴れ
た空に輝く太陽が起伏の多い地形に積もった雪を輝かせている。ガザ
Tは小さな窪地に着地した。
『殺してやる…』
ハッと顔を上げる。カセムもこの近くに降下しているのだ。
「まだ終わっちゃいない…」
右の尾根からドーベンウルフが飛び出した。咄嗟にガザTを跳ばし、
不利な窪地を脱出する。
『苦しい…頭が割れそうだ…何故オレが苦しまなければならない?』
『貴様の所為だ!』
ドーベンウルフの右腕が切り離された。ワイヤーを曳きながら宙を飛
び、ガザTの右に回り込もうとする。
「カセム!」
『F066も死んだ…オレも狂いかけている…何故貴様だけが正気で
いられる!』
「正気なものか!」
右脚のバーニアの反応が鈍かった。これまでの戦闘で機体にかなりガ
タが来ているのだろう。
「正気でいられるかどうかはオマエ自身の問題だ、カセム!」
『貴様の存在が許せない!』
この交換は一方通行だ。カセムはキミの声を聞いていない。
必死で放ったナックルバスターの一撃がドーベンウルフの右腕を砕い
た。ワイヤーを垂らしたドーベンウルフがガザT目がけて跳んだ。そ
の脇の下からグレネードが射出され、ガザTの正面に落下した。一瞬、
怯んだ隙にドーベンウルフが鼻先まで迫る。
右腕のあった位置からビームサーベルを持った隠し腕を伸ばし、斬り
つけて来る。それを左手で受け、頭部を叩き潰そうとした刀身を辛う
じて止める。ドーベンウルフとガザTは雪原の中央で組み合った。
『貴様を殺せば、オレは解放される!ミディがそう言った!』
ガザTがドーベンウルフのパワーに軋んだ。重量負けしている上に、
こちらはスクラップ寸前の状態である。ビームのエネルギーも推進剤
も底をつき、両肩の盾ももぎ取られ、サーベルは使えない。
─コクピットだ…ハッチをぶち抜く!
・頭部:051
・腹部:203
・胸部中央:204
・腰部:018
・左胸部:016
・右胸部:014
整備士がドーベンウルフの仕様について話してましたね。
ちゅーとこで、次週に続きます。
『殺してやる!』
カセムの声がこれ迄以上にハッキリと聞こえた。その途端、左上で何
かが光った。回避しようとしたキミは、その光に何か異質なモノを感
じてハッとなった。
─ダミーか!?
ドーベンウルフとインコムを繋ぐワイヤーには、リレーインコムと呼
ばれる中継器が取りつけられている。本体からの信号の増幅が主な機
能だが、マイクロレーザーによる威嚇射撃も出来る。破壊力はないが
発光は派手だからダミーとしては十分だ。
─リレーインコムか?
言葉にすると長いが、これらの思考は総て一瞬の内にキミの頭の中を
駆け巡った。
・回避運動を採る:195
・他の方向に注意を向ける:020
020:
左上からガザT目がけて走った光条はしかし、機体に届く前に拡散し
た。咄嗟に機体を沈める。1発目とは反対の方向から発射されたビー
ムが頭の先を掠めた。
・ビームを躱す内に、高度は9万に近づきつつあった:086
086:
空気抵抗による減速Gは既に耐え難いモノになっている。左のシール
ドを失っているガザTは不規則な振動に襲われていた。熱に弱い一部
のセンサーの中には、死んでいるモノもある。
さすがにこれ以上はワイヤーが保たないのか、ドーベンウルフはイン
コムを収容した。メガランチャーをこちらに向けたドーベンウルフを
睨みつけながら、キミはバリュートのオートパイロット解除スイッチ
に躊躇いながら手をかける。
シミュレーションによる突入戦闘の訓練を、キミは幾度か経験してい
た。その訓練で最も重要なのは、バリュートのオートパイロットを切
り、バリュート展張のタイミングを掴むことだ。
もし、突入戦闘中に敵より早くバリュートを開けば、減速した機体は
高速で落下し続ける敵機に対して背面を向けてしまうことになる。風
船のようなバリュートにバルカンの1発でも撃ち込まれれば、それ迄
だ。また、展張が遅れればバリュートは抗力に負け、開いた途端に破
裂してしまう。
しかし、キミはガザTが装備している新型バリュートの性能を知らな
い。オートで開くのに任せれば安全だろう。しかし、ドーベンウルフ
のカセムがオートを切っていた場合、それ迄だ。
・バリュートのオートパイロットを切る:049
・そのまま降下を続ける:064
049:
オートパイロット解除スイッチを押す。幾らも経たない内に高度は9
万を切った。途端に警報がコクピットを満たした。
─アイツは知ってるんだろうな…最小展張高度を…
激しい振動が襲ったかと思うと、左のシールドがマウントからもぎ取
られた。クルクル回転しながら宙を舞って爆発する。
高度は8万5千メートル迄下がっていた。
※151で情報を得ましたので、指示通りに170へ進みます。
170:
その時、キミの脳裏にサザダーンで聞いた誰かの言葉が浮かんだ。
─射出高度は21万…標準減速で7万9千まで…
・何だって今の今迄忘れていたんだ!:099
099:
高度が8万に近づいて行く。一際高い音で警報が鳴り、コンソールと
モニターの両方に表示が出る。バリュート展張用火薬異常加熱。
「もうちょいだ!保て!」
怒鳴った時、ドーベンウルフがバリュートを開いた。ガザTに背を向
けて上昇していくような形になる。
─勝った!
バリュート展張スイッチに手をかけながら、ナックルバスターをドー
ベンウルフのバリュートに向ける。
トリガーを引こうとした時、バリュートが消えた。キミの目の前に再
びあの砂漠の夕陽の光景が広がる。
そして、声。
『助けてくれ!』
ハッと我に返る。高度は7万8千、もう限界だ。展張スイッチを押す
と、軽い衝撃と共にバリュートがガザTを包んだ。ドーベンウルフの
バリュートが少し上の軌道を落下して行くのが見えたが、この距離と
角度ではもう撃てない。
─何故撃たなかった…何だったんだ、アレは?
モニター上の空が青みを帯びて来た。下は一面の雪景色だった。晴れ
た空に輝く太陽が起伏の多い地形に積もった雪を輝かせている。ガザ
Tは小さな窪地に着地した。
『殺してやる…』
ハッと顔を上げる。カセムもこの近くに降下しているのだ。
「まだ終わっちゃいない…」
右の尾根からドーベンウルフが飛び出した。咄嗟にガザTを跳ばし、
不利な窪地を脱出する。
『苦しい…頭が割れそうだ…何故オレが苦しまなければならない?』
『貴様の所為だ!』
ドーベンウルフの右腕が切り離された。ワイヤーを曳きながら宙を飛
び、ガザTの右に回り込もうとする。
「カセム!」
『F066も死んだ…オレも狂いかけている…何故貴様だけが正気で
いられる!』
「正気なものか!」
右脚のバーニアの反応が鈍かった。これまでの戦闘で機体にかなりガ
タが来ているのだろう。
「正気でいられるかどうかはオマエ自身の問題だ、カセム!」
『貴様の存在が許せない!』
この交換は一方通行だ。カセムはキミの声を聞いていない。
必死で放ったナックルバスターの一撃がドーベンウルフの右腕を砕い
た。ワイヤーを垂らしたドーベンウルフがガザT目がけて跳んだ。そ
の脇の下からグレネードが射出され、ガザTの正面に落下した。一瞬、
怯んだ隙にドーベンウルフが鼻先まで迫る。
右腕のあった位置からビームサーベルを持った隠し腕を伸ばし、斬り
つけて来る。それを左手で受け、頭部を叩き潰そうとした刀身を辛う
じて止める。ドーベンウルフとガザTは雪原の中央で組み合った。
『貴様を殺せば、オレは解放される!ミディがそう言った!』
ガザTがドーベンウルフのパワーに軋んだ。重量負けしている上に、
こちらはスクラップ寸前の状態である。ビームのエネルギーも推進剤
も底をつき、両肩の盾ももぎ取られ、サーベルは使えない。
─コクピットだ…ハッチをぶち抜く!
・頭部:051
・腹部:203
・胸部中央:204
・腰部:018
・左胸部:016
・右胸部:014
整備士がドーベンウルフの仕様について話してましたね。
ちゅーとこで、次週に続きます。