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加藤秀行第一作品集『シェア』が刊行されます

 今週2月12日(金)、加藤秀行さんの第一作品集『シェア』が刊行されます。

 『シェア』は、文學界新人賞受賞第一作として、文學界2015年10月号に掲載されました。

 同作は、惜しくも受賞には至りませんでしたが、第154回芥川賞候補作品にもなっています。


 加藤さんは、第28期文演受講生でした。

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新人登場! 「いま」を描ける才能がここにある。
IT企業、シェアハウス……クールな文体でスタイリッシュな世界が秘める真実の感触に迫る! 文學界新人賞受賞作&芥川賞候補作。
吉田さん、綿矢さんが、その才能を高く評価しています。
吉田修一 「触れればすぐに破れる「今」という薄い膜に、作者の指は慎重に触れようとしている」
綿矢りさ  「新しい扉を目の前で開けてくれる」

 アマゾンサイトから表紙の写真をコピーしようとしたら、同じサイズではできませんでした

 アマゾン内の本の写真は、こちらです。

 加藤さんのスタートにふさわしい装丁という気がしました

 
 シェア        加藤秀行


 1

 「ふさわしいか、ふさわしくないか。それこそが、」

 元ダンナからメールが届いていて、それ以上読まなくても重い中身と分かる。

 飛行機のタラップをまたぐと同時に、カーソルもメールタイトルを素早く「またぐ」。一瞬以上カーソルが乗っかっていると既読判定されちゃうから。

 平常心、平常心。

 もう若くもないのだから、深夜便に乗ると自分でも気づかないような深いところで疲れてしまう。私はいま、携帯でメールチェックをすべきではなかったのだ。そんなに急を要するメールが来ることもないのだし、彼からメールが来ているであろうことは、容易に想像が付いたのだから。

 そう思ってみても、望んでもいないボールを馬鹿正直に受け取ってしまったことは事実で、そのことが無性に私を苛立たせる。

 羽田の動く歩道の上に立ち止まり静かに進みながら、違うことを考えようとする。そういえば元奥さんを略した「モトオク」という言葉の平板さを取り上げた小説は、あれは何だっけ。ふと左手を見ると、朝日に照らされた飛行機がつるりとした実にさわやかな表情でこちらを見ている。計算され尽くした、世界で一番抵抗が少ない表情をしているに違いない。思わず私は自分の顔をなでる。

 
(中略)

 羽田から池袋までバスで戻る。湾岸道は空いていて、その上をまっすぐ走っていく車内にも殆ど客はいない。後ろの方に座り、ラップトップを改めて開いてメールを処理する。時折ビルの間を抜ける朝日がモニターに反射して眩しい。思わず目を細める。

 私がオンラインになったと気付いたのであろう、元ダンナから矢継ぎ早にチャットが届く。

「おかえり。メール見たか」

「次いつオフィス来る」

「話を終わらせたい。なるはやで連絡頼む」

 その上何で勝手にネクストアクションが私みたいになってんのよ。

 もう社員じゃないし、家族でもないし。ていうか眠いし。

 そう思いひとまず投げられたボールの無視を決めこむ。ボールはミットに収まらずバス後方、ガラガラの道路に点々と転がって置き去りにされていく。既読にしないよう、揺れるバスの中、トラックパッドを動かし右肩の閉じるボタンをそっと押し込んで中指を離す。

 その動作が呼び起こしたかのように、ぽこん、とミーちゃんからチャットが飛んでくる。

「埋まる率とうとう九割こえますね!」

 ベトナム人のミーちゃんは時制が苦手。いつも通り「どっちだよ」と突っ込みたくなって、今月超えたの、来月超えそうなの、どっち、と思ったまま返信する。すると即座にテンション高く「こえるよ!」と返ってきて、眠いながらも苦笑してしまう。

 おそらく来月の予約が沢山入ったのだろう。

 大きく欠伸をして、座席のパイル生地を手のひらで撫でながら、ときおりビル間を細く抜けた朝日に照らされる「こえるよ!」という平坦な文字列を眺めていると、ざわついた心がすこしだけ落ち着いてくる。 
 
 ※冒頭部分を抜粋続きは以下書籍にてご覧ください。
 

 待ってくれる人がいる作家になりたい」とインタビューでは応えていました。

 仕事とかと関わりなく、親戚の子が著名になりつつあるというハラハラドキドキ感があります。

 ぜひ書店にて、加藤さんの最初の一冊を手に取ってみてください  






         ※クリエイト速読スクールHP                          
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