西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
本ブログ記事の無断転載および無断引用をお断りします。
 

芥川龍之介の恋人への手紙

2012年12月26日 | 文学一般 国内


芥川龍之介の手紙

 文ちゃん
 先達は田端の方へお手紙をありがとう。(中略)会って、話をする事もないけど、唯まあ会って、一緒にいたいのです。へんですかね。どうもへんだけれど、そんな気がするのです。笑っちゃいけません。

 それからまだ妙なのは、文ちゃんの顔を想像する時、いつも想像に浮ぶ顔が一つ決まっている事です。どんな顔と云って云いようがありませんが、まあ微笑している顔ですね。(略)
 僕は時々その顔を想像にうかべます。そうして文ちゃんの事を苦しい程強く思ひ出します。そんな時は、苦しくつても幸福です。
ボクはすべて幸福な時に、一番不幸な事を考へます。
そうして万一不幸になった時の心の訓練をやって見ます。その一つは文ちゃんがボクの所へ来なくなる事ですよ。(中略)
 もう遅いから(午前一時)、やめます。文ちゃんはもう寝ているでしょう。寝ているのが見えるような気がします。もしそこにボクがいたら、いい夢を見るおまじないに、そうっとまぶたの上を撫でてあげます。
以上

十月八日夜 芥川龍之介
塚本文子様

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 前の記事へ | トップ | "La marginalité dans l'oeuv... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

文学一般 国内」カテゴリの最新記事