今回読んだ本は、
「メリットの法則〜行動分析学・実践編」(奥田健次著)集英社新書、2012年発行
です。
小児科医として30年以上働いていますが、その間、働くお母さんが増えて現在では生後半年未満でも、子どもを預けて働く人も出てきました。
すると気になるのが育児です。
哺乳類が育って自立するためには、親の愛情がたっぷり必要なのです。
しかしスキンシップの時間は確実に減ってきています。
女性の社会参加は時代の要請で必要なことであり権利でもありますが、そのしわ寄せが次世代にきては本末転倒です。
以前から、「子育ての肝(スキル)を科学的に抽出して、少ない時間に効果的に使えればいいのに」と思ってきました。
そんなときに行動分析学・応用行動分析学に出会いました。
TVで発達障がいの子どもの育児・しつけに使われているTV画面を目にして、“使これはえる”と直感しました。
さて、本書は型破りの臨床心理学者、奥田健次氏の著書2冊目です。
自分でも使うことができるのか、という視点で読んでみました。
「行動分析学」は言葉の定義とその応用にコツがあるようです。
基本をしっかり覚えておかないと、用語に振り回されて理解しにくくなると感じました。
まず、以下の基本形を覚えなくてはなりません;
しかしこれをマスターすれば、人間の行動の奥にあるものを引き出してシステム化することにより、いろんな問題行動が解決に向かいます。
本文中に実例が多数紹介されています。
うんうん頷きながら読んだ箇所は“「ムチ」の副作用“です。
育児書や児童精神科医による書籍に書いてあることの裏付けがされているように感じました。
育児における叱ること(≒ムチ)にはたくさんの副作用がある。
それは、積極性を失うこと、叱られないと行動しなくなること、叱る方がエスカレートしやすいこと、自尊心が育たないこと、自分より弱い存在に同じことをしてしまいがちになること・・・等々。
また、人間の行動の“機能”は4つに分類される、という解説には目から鱗が落ちました。問題行動が発生した場合、それを見つめてどの“機能”が存在するかという分析の元に対策を立てると解決につながる、というのです。
<行動の4つの機能>
① 物や活動が得られる:その行動の結果、特定の事物や活動など、触れられる好子を得ることができる。
② 注目が得られる:その行動の結果、他者からの注目など、手に取ることはできないような社会的な好子を得ることができる。
③ 逃避・回避できる:その行動の結果、その場にある嫌子から逃れることができる、または嫌子の生じそうな場面を回避することができる。
④ 感覚が得られる:その行動の結果、特定の感覚的な好子を得ることができる。
・・・なお、一つの行動が複数の機能を持つことは日常的にあり得る。
①と③は直感的に肯けます。④はちょっとマイナーでしょうか。
注目すべきは②の「注目が得られる」です。子育て啓蒙書や児童心理学では「こっち向いて行動」などと表現されますが、のれが人間の行動を規定する重要な要素となるとは・・・“注目”は他人の存在が必須ですから、やはり人間は人との関係の中で生きる行動をしているのですね。
<メモ>
・行動分析学(Behavior Analysis)
・循環論ほど役立たない議論はない。
・記述疑念:ビデオカメラで撮影して誰もが認めることのできる行動の事実
・説明概念:事実を説明したものであって、見た人によって意見が分かれるかもしれないもの
・行動随伴性:行動の直前と直後を行動で表す方法
生理的な問題で説明したくなるような激しい行動ですら、その行動の起こる原因を説明概念に求めず、行動随伴性で記述していくことで行動を変えていく糸口が見つかる。
・行動分析学では、行動の原因を考えるとき、行動随伴性で記述することを優先する。
実用性の観点から、個人の内部で起こっていることは後回しにしてもかまわないとすら考える。そう考えれば考えるほど、問題解決が早くなる。
人や動物の行動がなぜ起きるのかについての理由を考えるとき、その行動の前に何が起きたのかを考えるよりも、その行動の結果として何が起きたのかを考えなければならない。各種ある心理学の中でも、行動分析学が他の心理学よりもユニークな点はここにある。
・症状と行動は違う。
行動分析学を正しく理解するためには「医学モデル」を放棄しなければならない。医学モデルで扱っているのは、行動ではなく症状(あるいは病態)である。実に多くの人(医師や心理士も含めて)が、行動と症状の区別を付けていない。
行動の原因を、医学モデルで説明することは明らかに間違いである。それは即座に「循環論」になってしまう。
・行動は「死人テスト」と「具体性テスト」で定義される。
オージャン・リンズレーの提唱した「死人テスト」の定義によると、行動とは「死人にはできないこと」である。具体的とは、ビデオで撮影して、誰が見てもそれとわかるもの(島宗理氏は「ビデオクリップ法」と呼んでいる)。
・オペラント行動:行動の原因は行動の前ではなく、後に続く結果にある行動。
・レスポンデント行動:
行動の前に生じた刺激により引き起こされる行動。飯蹠と呼ばれる種類の行動で、確かにこれらの行動の原因は、行動に先立つ刺激にある。
・行動分析学のとらえ方の例;
「青信号になったから横断した」 ・・・「青信号」が原因で「横断した」が結果と捉えるのが一般的
⇩
「青信号になったときに横断したら、安全に渡ることができた」・・・「安全に横断できる」という結果を期待して「青信号」で渡ると判断している。重要なのは「安全に横断」という結果である。
⇩
直前 → 行動 → 直後(好子)
安全に渡っていない 青信号で横断歩道を渡る 安全に渡ることができた
→ 好子出現の強化
★ 用語解説
(好子)行動の結果、直後(遅くとも60秒以内)に起きた好ましい出来事(メリット)
(嫌子)行動の結果、直後(遅くとも60秒以内)に起きた望ましくない出来事(デメリット)
(出現)直前と直後で見比べてみて、何かを得るという変化があること
(消失)直前と直後で見比べてみて、何かが消えるという変化があること
(強化)行動の直後に生じた結果次第で、その行動が強まること・増えること
(弱化)行動の直後に生じた結果次第で、その行動が消えること・減ること
(消去)行動の前後(直前と直後)で何の変化も起きていないため、行動が消えること(強化されていた行動が元のレベルに戻ること)
(消去抵抗)「消去バースト」とも呼ばれる。消去の前に一時的にその行動がエスカレートすること。頻度が増加するだけではなく、行動の種類にも広がりが見られるのも特徴である。
(基本随伴性)4つの行動随伴性(二つの強化の原理、二つの弱化の原理)をこう呼ぶ。
(阻止の随伴性)
(ルール)行動随伴性を言語化したもの。ルールはそれ自体、好子にも嫌子にもなり得る。
(ルール支配行動)ルールによって制御される行動
・行動が起きて60秒が過ぎてから好子や嫌子が出現、あるいは消失しても、ほとんど効果がない。
結果が出るのに時間がかかる場合、問題となる行動になかなか影響を与えない(ダイエットが成功しない理由)。
・「スキナーの心理学」 米国の心理学者B.F.スキナー博士による動物の行動原理
「罰」を使って人間や動物をコントロールしようとする行為に否定的である。
・「強化スケジュール」という研究
(連続強化)行動に好子が毎回伴う場合
(部分強化)何回かに1回の行動に好子が伴う場合
(消去)行動してもまったく好子が出現しない場合
(変動比率スケジュール)部分強化の一つで、何回かに1回の行動に対して好子が出現するが、その好子がいつ出現するかは変動している。実は部分強化で強化された行動の方が強く維持されることがわかっている。
・「あきらめない子」は性格ではなく環境が造る
「失敗しても試行錯誤を繰り返す人」、あるいは「執着心の強い人」などと、性格のせいと説明されがちな表現も、実はどんな強化スケジュールで成長してきたのか、今どんな強化スケジュールに置かれているのかが大いに絡んでいる。
・回復の原理:
嫌子出現の弱化により元のレベルまで行動が戻ることを「回復の原理」という。叱られても痛い目に遭っても、また同じ行動を繰り返すというのが、回復の原理の特徴である。別の言い方をすれば、叱ったって痛い目に遭わせたって、一時的に行動を抑制することは可能だが(弱化の効果)、弱化の効果は長続きしないということ。
・「アメとムチ」ではなく、「アメとアメなし」
行動分析学はムチを使わないで行動を変えることを研究する学問である。ムチ(嫌子出現の弱化)は新しい行動を教えるためには不必要である。よいコーチングとはこのようなものであろう。
・「ムチ」の副作用
弱化(世間一般で「罰」とか「ムチ」と呼ばれること)を多用することによる副作用一覧;
① 全体の行動自体を減らしてしまう:
叱られないようにするために、何もしないようになる。いわゆる「積極性」が失われやすい。
② 何も新しいことを教えたことにならない:
新しい行動は強化と消去の組み合わせによって生まれる。
③ 一時的に効果があるが持続しない:
回復の原理である。叱られないと行動しないのであれば、常に叱ってくれる人の存在が必要となる。
④ 弱化を使う側は罰的な関わりがエスカレートしがちになる:
虐待につながりやすい危険性をはらんでいる。弱化を使う側は「どうして、何度言ってもわからないの?」と考えがちになり、叩く強さやペナルティーが徐々に増していく。
⑤ 弱化を受けた側にネガティブな情緒反応を引き起こす:
極度に人を恐れたり、恨んだりすることが起こりやすい。いわゆる「自尊心」が傷ついた状態に陥りやすい。
⑥ 力関係次第で他人に同じことをしてしまう可能性を高める:
弱化を受けた側が、状況が変わって力関係の強い側に回った場合、力関係の弱い相手に対して同じような罰的な関わりを行ってしまいがちになる。
・日常生活上のおよその行動は、行動分析学の「行動の四つの法則」(基本随伴性)と「消去と回復の法則」の二つで説明することができる。
・行動分析学では数多くの実験研究から、人間と動物の行動の共通点と相違点を明らかにしている。
・行動分析学の応用には「阻止」という専門用語が必要になる。
・「阻止の随伴性」
・行動を強める強化の原理(応用形)
① 嫌子出現「阻止」の強化;
怒鳴られたり、恥をかいたり、ケガをしたり、事故を起こしたりしないためにしている行動を考えるときに便利な枠組みである。ポイントは、具体的でない行動(「気をつけます」など)ではなく、具体的な行動を目標にすること。
② 好子消失「阻止」の強化;
・行動を弱める弱化の原理(応用形)
①嫌子消失「阻止」の弱化
②好子出現「阻止」の弱化
阻止の随伴性の弱化で気をつけなければならないのは、行動の部分をどのように見るか、である。行動のように思えて行動でないもの、すなわち死人テストに引っかかるものを想定してしまう間違いを犯す。
例)保育園で年長児を相手に、保育士が「さあ、これから紙芝居をはじめます!」と声をかけたが、子どもたちはなかなか静かにならない。保育士は1回だけ、人差し指を口の前に持ってきて「静かにのポーズ」を取ったが、半分位しか静かにならない。そして保育士はただ待つだけで、静かに全員が前を向くまで紙芝居をはじめない。しばらくすると、年長児達は口を閉じ、静まった。この情景を図示すると、
(直前) → (行動) → (直後)
紙芝居が始まる 大声で騒ぐ 紙芝居が始まらない
となるが、しばしば以下のような間違いを犯す;
(直前) → (行動) → (直後)
紙芝居なし 静かにしている 紙芝居あり
どこが間違いかというと、行動に「静かにしている」を設定したところである。
静かにしていることは、死人にもできることなので行動ではない。状態と行動とは違うのである。
☆行動分析学では、行動随伴性の三つのボックスを一つのまとまりとして行動の1単位とする。
・阻止の随伴性(阻止の強化)の特徴・利点(杉山尚子氏);
① われわれが注意を集中し続けるのに役立っている。
(われわれが注意を集中し続けてそれを止められない)
② われわれのスムーズな運動機能を維持するのに貢献している。
(われわれの運動機能を儀式的に維持する)
③ 課題に従事する行動を促進する。
(強迫行為に従事する行動を促進する)
・阻止の随伴性によるマイナスな側面(長谷川芳典氏);
① 楽しく始めたはずのものが、いつしか義務的になってしまう行動
② 現状維持でよしとする行動
・強迫性障害(OCD)を行動分析学で捉える
阻止の随伴性がこの疾患に関与している可能性がある(著者)。
例1)「カギをかけたかどうか確認する強迫行為」が強化される随伴性
(直前) → (行動) → (直後)
やがて泥棒には入られる カギをかけたか何回も確認 泥棒に入られない
・・・好子出現の強化?
例2)「汚れを落とす強迫行為」が強化される随伴性
(直前) → (行動) → (直後)
やがて手が汚れる 念入りに手を洗う 手が汚れていない
・・・嫌子出現阻止の強化
例3)「風邪を引かないための手洗い行為」が強化される随伴性
(直前) → (行動) → (直後)
やがて風邪を引く しっかり手を洗う 風邪を引かない
・・・嫌子出現阻止の強化
・強迫性障害(OCD)の治療:エクスポージャー(曝露)
不安を引き起こす刺激をクライアントに提示し続けることにより「馴化」を得る。
※ 馴化:人間を含めた動物が、ある種の感覚を強く引き起こす刺激にさらされ続けると、その刺激によって引き起こされる反射が次第に弱くなる現象。
・強迫性障害への行動分析学的介入
[介入前]
(直前) → (行動) → (直後)
やがて手が汚れる 何度も手を洗う 手が汚れない
[介入後]
(直前) → (行動) → (直後)
手を汚してみる タオルでぬぐう 汚れが一部落ちる
☆ポイント
*介入前は手の汚れの実体はない
*エクスポージャーでは実際に汚れたものに触る
*行動を「手を洗う」から「タオルで拭く」へ変えてもらう(反応妨害)
*このような行動随伴性を繰り返し行うことが「馴化」を生じさせることにつながる
*手が汚れているという感覚や思い込みは手に取ることができないが、嫌子消失の強化では行動直前に嫌子が明確に存在する。
*エクスポージャーでは現実的な事物の扱い方を身につけてもらうので、他の方法より効果的である(カウンセリングでは患者の内的な感覚や限りなく広がる思い込みに長くつき合うことになる)。
・行動は形態ではなく機能である;
行動分析学の基本は、どんな行動か(What)というよりも、その行動はどのように機能するか(How)という見方をする。「機能」は「どのような働きをしているか」という意味である。一方、対照的な言葉として「形態」というものがある。
行動を正しく捉えるとき、その行動の形態よりも機能を重視することがきわめて重要なことであり、これが応用行動分析学(学校臨床や教育のみならず、社会問題全体への行動分析学の応用)の基本姿勢となっている。
・行動の機能は4つに分類される;
① 物や活動が得られる:その行動の結果、特定の事物や活動など、触れられる好子を得ることができる。
② 注目が得られる:その行動の結果、他者からの注目など、手に取ることはできないような社会的な好子を得ることができる。
③ 逃避・回避できる:その行動の結果、その場にある嫌子から逃れることができる、または嫌子の生じそうな場面を回避することができる。
④ 感覚が得られる:その行動の結果、特定の感覚的な好子を得ることができる。
・・・なお、一つの行動が複数の機能を持つことは日常的にあり得る。
・いわゆる「困った行動」について解決をこころみる際、行動の機能分析は役立つ。不登校しかり。医師や心理士の中には「子どもの甘えを全面的に受容すべき」という人もいるが、これらの無責任な助言のせいで子どもの召使いのようになっている親や祖父母と数多く出会う。
・“こころの中身”は不毛な議論
行動分析学に対する批判のパターンは、
①「行動だけ変化しても“こころの中身”はどうなっているの?」
②「学校に行くことが“本質的な解決”なの?」
③「“報酬で動かす”のはよくないことじゃないの?」
などである。
① 行動分析学では、“こころの中身”であろうと、(それが表出された結果としての)行動として取り扱う。
② “本質的”とう言葉が何を指しているのかを具体的に示していただきたい。
③ “報酬で動かす”というよりも、自発的に“動く”ように援助しているだけである。世間一般で言われる「罰」(嫌子出現の弱化)を使って“動かした”のではない。
・「学校へ行きたくない」行動の機能分析
学校を休む理由を尋ねると、「友達に意地悪をされた」「先生がえこひいきする」「おなかが痛い」などと子どもが主張しても、すぐに鵜呑みにしてはいけない。学校を休んで、家でどんな過ごし方をしているのか調べてみて欲しい。
① 学校を休むと家で遊べる(物や活動):
学校を休ませるとテレビゲーム、漫画やテレビ、パソコンなどで遊んでいるなら、上記のことは休むための口実である可能性がある。
対応方法は、自宅で自由にアクセスさせている好子をすべて親の管理下に置き、学校に行く行動の結果に応じて、少しずつ与えていくこと。つまり、学校で過ごす行動が設定した目標をクリアしたときに、子牛を与えるというプログラムである。目標はスモールステップでなければならない。
② 母親と一緒にいられる(注目):
学校を休ませると、やたらと母親の近くにいようとする。こうした注目の機能がある場合、母親が叱ってもダメである。母親に叱られることすら、注目という社会的な好子となり得るからである。
対応として、母親から得られる注目という好子を、学校に行く行動の結果に応じて、少しずつ与えていく。少なくとも、午後3磁までは母親との会話や接触は極力控え、逆に午後3時以降はたくさん話を聞いてあげるとよい。望ましい行動を集積していけば、週末に母親と2人だけで出かけるなどとするのも効果的である。
③ 学校にイヤなことがある(逃避・回避):
この場合の行動随伴性は、嫌子消失の強化である。もし学校に行かせようとすると、学校が近づくにつれて緊張が高まり、不安や恐怖が強くなる。自宅で安静に過ごすように求めてゲームやテレビ、母親との接触などを制限してもあまり文句を言わない。
対応として、すぐに綾が子どもを連れて学校の先生と話をしに行くべきである。親が出てくることによって、さらなるいじめが起こるという不安があるのであれば、そのような陰湿な問題を抱えている学校を放置することが大きな悲劇を生み出す。大人が介入すると言うことは、それに伴う陰湿ないじめの可能性すら時間をかけて断ち切っていくということである。
④ 機能が複合している場合、シフトしていく場合:
早退しなければならないほどの仲間はずれにされて様子見(結局は放置)されたことは気の毒だが、もう仲間はずれにされないような状況になっていても、学校に行きたがらない子どもは多い。「逃避・回避」の機能だったのが、「物や活動」の機能にシフトチェンジしてしまったのだ。しばらく休んでいたので、勉強や話題にもついて行けそうにないという、さらなる逃避・回避の機能が加わる可能性もある。
大人はこうしたことまで見抜かなければならない。
以上のように考えると、やはり不登校・引きこもりは早いうちに介入した方がよい。「様子を見ましょう」は無策で無責任である。(著者の経験によると)一旦、不登校の状態に陥ってしまうと、望ましい生活を作り上げる・取り戻すのは相当困難な作業となる(1週間休ませると3ヶ月、3ヶ月休ませると3年を要する)。それでも、その木成のスモールステップを設定していくならば、すべての子どもの行動は必ず変化する。
・天秤の法則〜不登校を行動分析する〜
ある不登校児の生態を例示してみる。好子(+)や嫌子(ー)を、学校と家庭のそれぞれの皿の上にのせてみると・・・
+好きな女の子
+仲良し +母親と買い物
+友達と過ごす +冷蔵庫
ーいじめっ子 +漫画
ー恐い先生 +テレビゲーム
ーーーーーーーーー +テレビ
(学校) +DVD
ーーーーーーーーー
(家庭)
・・・この男の子が学校に行かずに家で過ごす(不登校や引きこもりになる)ことは、何ら不思議なことではない。
肝心なことは、“こころの問題”ではなく、単純に学校か家庭かという問題設定にすることである。
では、このてんびんをどう動かすか?
皿に載っている物をいろいろ動かせばよい。
学校の皿を動かす方法としては、好子を増やすか、嫌子を減らすことが考えられる。
家庭の皿を動かす方法としては、自由に与えていた好子を完全に撤去して条件付きで与えるか、または嫌子を増やすことが考えられる。
この男子の場合、学校はまったく非協力的であったので、学校の皿は変わらず、家庭の皿を動かすしか方法はなかった。
具体的には、この子が学校に行くべき日に行かなかった場合は、すべての好子を撤去した(学校には行かなくてもよいが、部屋でおとなしく安静にしていることを求めた)。現実として、これだけでこの男子は学校へ行くようになった。
・トークンエコノミー法
トークンとは「貨幣の代用」、エコノミーは経済学という意味。
トークンエコノミー法は「さじ加減」が決め手である。これが不適切だとうまくいかない。その設計が成功と失敗の鍵を握っており、適切に設定すればどのようなケースでも適用可能だと(著者は)確信している。
不登校の場合、特に家庭や学校での過ごし方をしっかり調査しなければならない(生態学的調査)。調査を行えば、100人不登校児がいれば100通りの生態があることがわかる。調査は、子どもの日課や習慣から好子となっているものを見つけ出す作業も含まれている。
また、細かな配慮も必要である。一つは「子ども自身がパックアップ好子を選択できること」である。子どもの年齢により興味や関心、好みを考慮する必要がある。そしえ、トークンエコノミー方以外の手段ではバックアップ好子を入手できないようにしておくことが効果的である。
トークンエコノミー法で裏切りは禁物である。
加点方式のトークンエコノミー法とは逆のポイントを減点する方法もある(レスポンスコスト法)。レスポンスコストは好子消失の弱化の手続きである。弱化手続きには副作用がある(前述)ので、あまりお勧めできない。
基本的には「アメとムチ」のトークンエコノミー法&レスポンスコストの併用よりも、「アメとアメなし」のトークンエコノミー法のみの導入を目指した方がよい。
「メリットの法則〜行動分析学・実践編」(奥田健次著)集英社新書、2012年発行
です。
小児科医として30年以上働いていますが、その間、働くお母さんが増えて現在では生後半年未満でも、子どもを預けて働く人も出てきました。
すると気になるのが育児です。
哺乳類が育って自立するためには、親の愛情がたっぷり必要なのです。
しかしスキンシップの時間は確実に減ってきています。
女性の社会参加は時代の要請で必要なことであり権利でもありますが、そのしわ寄せが次世代にきては本末転倒です。
以前から、「子育ての肝(スキル)を科学的に抽出して、少ない時間に効果的に使えればいいのに」と思ってきました。
そんなときに行動分析学・応用行動分析学に出会いました。
TVで発達障がいの子どもの育児・しつけに使われているTV画面を目にして、“使これはえる”と直感しました。
さて、本書は型破りの臨床心理学者、奥田健次氏の著書2冊目です。
自分でも使うことができるのか、という視点で読んでみました。
「行動分析学」は言葉の定義とその応用にコツがあるようです。
基本をしっかり覚えておかないと、用語に振り回されて理解しにくくなると感じました。
まず、以下の基本形を覚えなくてはなりません;
しかしこれをマスターすれば、人間の行動の奥にあるものを引き出してシステム化することにより、いろんな問題行動が解決に向かいます。
本文中に実例が多数紹介されています。
うんうん頷きながら読んだ箇所は“「ムチ」の副作用“です。
育児書や児童精神科医による書籍に書いてあることの裏付けがされているように感じました。
育児における叱ること(≒ムチ)にはたくさんの副作用がある。
それは、積極性を失うこと、叱られないと行動しなくなること、叱る方がエスカレートしやすいこと、自尊心が育たないこと、自分より弱い存在に同じことをしてしまいがちになること・・・等々。
また、人間の行動の“機能”は4つに分類される、という解説には目から鱗が落ちました。問題行動が発生した場合、それを見つめてどの“機能”が存在するかという分析の元に対策を立てると解決につながる、というのです。
<行動の4つの機能>
① 物や活動が得られる:その行動の結果、特定の事物や活動など、触れられる好子を得ることができる。
② 注目が得られる:その行動の結果、他者からの注目など、手に取ることはできないような社会的な好子を得ることができる。
③ 逃避・回避できる:その行動の結果、その場にある嫌子から逃れることができる、または嫌子の生じそうな場面を回避することができる。
④ 感覚が得られる:その行動の結果、特定の感覚的な好子を得ることができる。
・・・なお、一つの行動が複数の機能を持つことは日常的にあり得る。
①と③は直感的に肯けます。④はちょっとマイナーでしょうか。
注目すべきは②の「注目が得られる」です。子育て啓蒙書や児童心理学では「こっち向いて行動」などと表現されますが、のれが人間の行動を規定する重要な要素となるとは・・・“注目”は他人の存在が必須ですから、やはり人間は人との関係の中で生きる行動をしているのですね。
<メモ>
・行動分析学(Behavior Analysis)
・循環論ほど役立たない議論はない。
・記述疑念:ビデオカメラで撮影して誰もが認めることのできる行動の事実
・説明概念:事実を説明したものであって、見た人によって意見が分かれるかもしれないもの
・行動随伴性:行動の直前と直後を行動で表す方法
生理的な問題で説明したくなるような激しい行動ですら、その行動の起こる原因を説明概念に求めず、行動随伴性で記述していくことで行動を変えていく糸口が見つかる。
・行動分析学では、行動の原因を考えるとき、行動随伴性で記述することを優先する。
実用性の観点から、個人の内部で起こっていることは後回しにしてもかまわないとすら考える。そう考えれば考えるほど、問題解決が早くなる。
人や動物の行動がなぜ起きるのかについての理由を考えるとき、その行動の前に何が起きたのかを考えるよりも、その行動の結果として何が起きたのかを考えなければならない。各種ある心理学の中でも、行動分析学が他の心理学よりもユニークな点はここにある。
・症状と行動は違う。
行動分析学を正しく理解するためには「医学モデル」を放棄しなければならない。医学モデルで扱っているのは、行動ではなく症状(あるいは病態)である。実に多くの人(医師や心理士も含めて)が、行動と症状の区別を付けていない。
行動の原因を、医学モデルで説明することは明らかに間違いである。それは即座に「循環論」になってしまう。
・行動は「死人テスト」と「具体性テスト」で定義される。
オージャン・リンズレーの提唱した「死人テスト」の定義によると、行動とは「死人にはできないこと」である。具体的とは、ビデオで撮影して、誰が見てもそれとわかるもの(島宗理氏は「ビデオクリップ法」と呼んでいる)。
・オペラント行動:行動の原因は行動の前ではなく、後に続く結果にある行動。
・レスポンデント行動:
行動の前に生じた刺激により引き起こされる行動。飯蹠と呼ばれる種類の行動で、確かにこれらの行動の原因は、行動に先立つ刺激にある。
・行動分析学のとらえ方の例;
「青信号になったから横断した」 ・・・「青信号」が原因で「横断した」が結果と捉えるのが一般的
⇩
「青信号になったときに横断したら、安全に渡ることができた」・・・「安全に横断できる」という結果を期待して「青信号」で渡ると判断している。重要なのは「安全に横断」という結果である。
⇩
直前 → 行動 → 直後(好子)
安全に渡っていない 青信号で横断歩道を渡る 安全に渡ることができた
→ 好子出現の強化
★ 用語解説
(好子)行動の結果、直後(遅くとも60秒以内)に起きた好ましい出来事(メリット)
(嫌子)行動の結果、直後(遅くとも60秒以内)に起きた望ましくない出来事(デメリット)
(出現)直前と直後で見比べてみて、何かを得るという変化があること
(消失)直前と直後で見比べてみて、何かが消えるという変化があること
(強化)行動の直後に生じた結果次第で、その行動が強まること・増えること
(弱化)行動の直後に生じた結果次第で、その行動が消えること・減ること
(消去)行動の前後(直前と直後)で何の変化も起きていないため、行動が消えること(強化されていた行動が元のレベルに戻ること)
(消去抵抗)「消去バースト」とも呼ばれる。消去の前に一時的にその行動がエスカレートすること。頻度が増加するだけではなく、行動の種類にも広がりが見られるのも特徴である。
(基本随伴性)4つの行動随伴性(二つの強化の原理、二つの弱化の原理)をこう呼ぶ。
(阻止の随伴性)
(ルール)行動随伴性を言語化したもの。ルールはそれ自体、好子にも嫌子にもなり得る。
(ルール支配行動)ルールによって制御される行動
・行動が起きて60秒が過ぎてから好子や嫌子が出現、あるいは消失しても、ほとんど効果がない。
結果が出るのに時間がかかる場合、問題となる行動になかなか影響を与えない(ダイエットが成功しない理由)。
・「スキナーの心理学」 米国の心理学者B.F.スキナー博士による動物の行動原理
「罰」を使って人間や動物をコントロールしようとする行為に否定的である。
・「強化スケジュール」という研究
(連続強化)行動に好子が毎回伴う場合
(部分強化)何回かに1回の行動に好子が伴う場合
(消去)行動してもまったく好子が出現しない場合
(変動比率スケジュール)部分強化の一つで、何回かに1回の行動に対して好子が出現するが、その好子がいつ出現するかは変動している。実は部分強化で強化された行動の方が強く維持されることがわかっている。
・「あきらめない子」は性格ではなく環境が造る
「失敗しても試行錯誤を繰り返す人」、あるいは「執着心の強い人」などと、性格のせいと説明されがちな表現も、実はどんな強化スケジュールで成長してきたのか、今どんな強化スケジュールに置かれているのかが大いに絡んでいる。
・回復の原理:
嫌子出現の弱化により元のレベルまで行動が戻ることを「回復の原理」という。叱られても痛い目に遭っても、また同じ行動を繰り返すというのが、回復の原理の特徴である。別の言い方をすれば、叱ったって痛い目に遭わせたって、一時的に行動を抑制することは可能だが(弱化の効果)、弱化の効果は長続きしないということ。
・「アメとムチ」ではなく、「アメとアメなし」
行動分析学はムチを使わないで行動を変えることを研究する学問である。ムチ(嫌子出現の弱化)は新しい行動を教えるためには不必要である。よいコーチングとはこのようなものであろう。
・「ムチ」の副作用
弱化(世間一般で「罰」とか「ムチ」と呼ばれること)を多用することによる副作用一覧;
① 全体の行動自体を減らしてしまう:
叱られないようにするために、何もしないようになる。いわゆる「積極性」が失われやすい。
② 何も新しいことを教えたことにならない:
新しい行動は強化と消去の組み合わせによって生まれる。
③ 一時的に効果があるが持続しない:
回復の原理である。叱られないと行動しないのであれば、常に叱ってくれる人の存在が必要となる。
④ 弱化を使う側は罰的な関わりがエスカレートしがちになる:
虐待につながりやすい危険性をはらんでいる。弱化を使う側は「どうして、何度言ってもわからないの?」と考えがちになり、叩く強さやペナルティーが徐々に増していく。
⑤ 弱化を受けた側にネガティブな情緒反応を引き起こす:
極度に人を恐れたり、恨んだりすることが起こりやすい。いわゆる「自尊心」が傷ついた状態に陥りやすい。
⑥ 力関係次第で他人に同じことをしてしまう可能性を高める:
弱化を受けた側が、状況が変わって力関係の強い側に回った場合、力関係の弱い相手に対して同じような罰的な関わりを行ってしまいがちになる。
・日常生活上のおよその行動は、行動分析学の「行動の四つの法則」(基本随伴性)と「消去と回復の法則」の二つで説明することができる。
・行動分析学では数多くの実験研究から、人間と動物の行動の共通点と相違点を明らかにしている。
・行動分析学の応用には「阻止」という専門用語が必要になる。
・「阻止の随伴性」
・行動を強める強化の原理(応用形)
① 嫌子出現「阻止」の強化;
怒鳴られたり、恥をかいたり、ケガをしたり、事故を起こしたりしないためにしている行動を考えるときに便利な枠組みである。ポイントは、具体的でない行動(「気をつけます」など)ではなく、具体的な行動を目標にすること。
② 好子消失「阻止」の強化;
・行動を弱める弱化の原理(応用形)
①嫌子消失「阻止」の弱化
②好子出現「阻止」の弱化
阻止の随伴性の弱化で気をつけなければならないのは、行動の部分をどのように見るか、である。行動のように思えて行動でないもの、すなわち死人テストに引っかかるものを想定してしまう間違いを犯す。
例)保育園で年長児を相手に、保育士が「さあ、これから紙芝居をはじめます!」と声をかけたが、子どもたちはなかなか静かにならない。保育士は1回だけ、人差し指を口の前に持ってきて「静かにのポーズ」を取ったが、半分位しか静かにならない。そして保育士はただ待つだけで、静かに全員が前を向くまで紙芝居をはじめない。しばらくすると、年長児達は口を閉じ、静まった。この情景を図示すると、
(直前) → (行動) → (直後)
紙芝居が始まる 大声で騒ぐ 紙芝居が始まらない
となるが、しばしば以下のような間違いを犯す;
(直前) → (行動) → (直後)
紙芝居なし 静かにしている 紙芝居あり
どこが間違いかというと、行動に「静かにしている」を設定したところである。
静かにしていることは、死人にもできることなので行動ではない。状態と行動とは違うのである。
☆行動分析学では、行動随伴性の三つのボックスを一つのまとまりとして行動の1単位とする。
・阻止の随伴性(阻止の強化)の特徴・利点(杉山尚子氏);
① われわれが注意を集中し続けるのに役立っている。
(われわれが注意を集中し続けてそれを止められない)
② われわれのスムーズな運動機能を維持するのに貢献している。
(われわれの運動機能を儀式的に維持する)
③ 課題に従事する行動を促進する。
(強迫行為に従事する行動を促進する)
・阻止の随伴性によるマイナスな側面(長谷川芳典氏);
① 楽しく始めたはずのものが、いつしか義務的になってしまう行動
② 現状維持でよしとする行動
・強迫性障害(OCD)を行動分析学で捉える
阻止の随伴性がこの疾患に関与している可能性がある(著者)。
例1)「カギをかけたかどうか確認する強迫行為」が強化される随伴性
(直前) → (行動) → (直後)
やがて泥棒には入られる カギをかけたか何回も確認 泥棒に入られない
・・・好子出現の強化?
例2)「汚れを落とす強迫行為」が強化される随伴性
(直前) → (行動) → (直後)
やがて手が汚れる 念入りに手を洗う 手が汚れていない
・・・嫌子出現阻止の強化
例3)「風邪を引かないための手洗い行為」が強化される随伴性
(直前) → (行動) → (直後)
やがて風邪を引く しっかり手を洗う 風邪を引かない
・・・嫌子出現阻止の強化
・強迫性障害(OCD)の治療:エクスポージャー(曝露)
不安を引き起こす刺激をクライアントに提示し続けることにより「馴化」を得る。
※ 馴化:人間を含めた動物が、ある種の感覚を強く引き起こす刺激にさらされ続けると、その刺激によって引き起こされる反射が次第に弱くなる現象。
・強迫性障害への行動分析学的介入
[介入前]
(直前) → (行動) → (直後)
やがて手が汚れる 何度も手を洗う 手が汚れない
[介入後]
(直前) → (行動) → (直後)
手を汚してみる タオルでぬぐう 汚れが一部落ちる
☆ポイント
*介入前は手の汚れの実体はない
*エクスポージャーでは実際に汚れたものに触る
*行動を「手を洗う」から「タオルで拭く」へ変えてもらう(反応妨害)
*このような行動随伴性を繰り返し行うことが「馴化」を生じさせることにつながる
*手が汚れているという感覚や思い込みは手に取ることができないが、嫌子消失の強化では行動直前に嫌子が明確に存在する。
*エクスポージャーでは現実的な事物の扱い方を身につけてもらうので、他の方法より効果的である(カウンセリングでは患者の内的な感覚や限りなく広がる思い込みに長くつき合うことになる)。
・行動は形態ではなく機能である;
行動分析学の基本は、どんな行動か(What)というよりも、その行動はどのように機能するか(How)という見方をする。「機能」は「どのような働きをしているか」という意味である。一方、対照的な言葉として「形態」というものがある。
行動を正しく捉えるとき、その行動の形態よりも機能を重視することがきわめて重要なことであり、これが応用行動分析学(学校臨床や教育のみならず、社会問題全体への行動分析学の応用)の基本姿勢となっている。
・行動の機能は4つに分類される;
① 物や活動が得られる:その行動の結果、特定の事物や活動など、触れられる好子を得ることができる。
② 注目が得られる:その行動の結果、他者からの注目など、手に取ることはできないような社会的な好子を得ることができる。
③ 逃避・回避できる:その行動の結果、その場にある嫌子から逃れることができる、または嫌子の生じそうな場面を回避することができる。
④ 感覚が得られる:その行動の結果、特定の感覚的な好子を得ることができる。
・・・なお、一つの行動が複数の機能を持つことは日常的にあり得る。
・いわゆる「困った行動」について解決をこころみる際、行動の機能分析は役立つ。不登校しかり。医師や心理士の中には「子どもの甘えを全面的に受容すべき」という人もいるが、これらの無責任な助言のせいで子どもの召使いのようになっている親や祖父母と数多く出会う。
・“こころの中身”は不毛な議論
行動分析学に対する批判のパターンは、
①「行動だけ変化しても“こころの中身”はどうなっているの?」
②「学校に行くことが“本質的な解決”なの?」
③「“報酬で動かす”のはよくないことじゃないの?」
などである。
① 行動分析学では、“こころの中身”であろうと、(それが表出された結果としての)行動として取り扱う。
② “本質的”とう言葉が何を指しているのかを具体的に示していただきたい。
③ “報酬で動かす”というよりも、自発的に“動く”ように援助しているだけである。世間一般で言われる「罰」(嫌子出現の弱化)を使って“動かした”のではない。
・「学校へ行きたくない」行動の機能分析
学校を休む理由を尋ねると、「友達に意地悪をされた」「先生がえこひいきする」「おなかが痛い」などと子どもが主張しても、すぐに鵜呑みにしてはいけない。学校を休んで、家でどんな過ごし方をしているのか調べてみて欲しい。
① 学校を休むと家で遊べる(物や活動):
学校を休ませるとテレビゲーム、漫画やテレビ、パソコンなどで遊んでいるなら、上記のことは休むための口実である可能性がある。
対応方法は、自宅で自由にアクセスさせている好子をすべて親の管理下に置き、学校に行く行動の結果に応じて、少しずつ与えていくこと。つまり、学校で過ごす行動が設定した目標をクリアしたときに、子牛を与えるというプログラムである。目標はスモールステップでなければならない。
② 母親と一緒にいられる(注目):
学校を休ませると、やたらと母親の近くにいようとする。こうした注目の機能がある場合、母親が叱ってもダメである。母親に叱られることすら、注目という社会的な好子となり得るからである。
対応として、母親から得られる注目という好子を、学校に行く行動の結果に応じて、少しずつ与えていく。少なくとも、午後3磁までは母親との会話や接触は極力控え、逆に午後3時以降はたくさん話を聞いてあげるとよい。望ましい行動を集積していけば、週末に母親と2人だけで出かけるなどとするのも効果的である。
③ 学校にイヤなことがある(逃避・回避):
この場合の行動随伴性は、嫌子消失の強化である。もし学校に行かせようとすると、学校が近づくにつれて緊張が高まり、不安や恐怖が強くなる。自宅で安静に過ごすように求めてゲームやテレビ、母親との接触などを制限してもあまり文句を言わない。
対応として、すぐに綾が子どもを連れて学校の先生と話をしに行くべきである。親が出てくることによって、さらなるいじめが起こるという不安があるのであれば、そのような陰湿な問題を抱えている学校を放置することが大きな悲劇を生み出す。大人が介入すると言うことは、それに伴う陰湿ないじめの可能性すら時間をかけて断ち切っていくということである。
④ 機能が複合している場合、シフトしていく場合:
早退しなければならないほどの仲間はずれにされて様子見(結局は放置)されたことは気の毒だが、もう仲間はずれにされないような状況になっていても、学校に行きたがらない子どもは多い。「逃避・回避」の機能だったのが、「物や活動」の機能にシフトチェンジしてしまったのだ。しばらく休んでいたので、勉強や話題にもついて行けそうにないという、さらなる逃避・回避の機能が加わる可能性もある。
大人はこうしたことまで見抜かなければならない。
以上のように考えると、やはり不登校・引きこもりは早いうちに介入した方がよい。「様子を見ましょう」は無策で無責任である。(著者の経験によると)一旦、不登校の状態に陥ってしまうと、望ましい生活を作り上げる・取り戻すのは相当困難な作業となる(1週間休ませると3ヶ月、3ヶ月休ませると3年を要する)。それでも、その木成のスモールステップを設定していくならば、すべての子どもの行動は必ず変化する。
・天秤の法則〜不登校を行動分析する〜
ある不登校児の生態を例示してみる。好子(+)や嫌子(ー)を、学校と家庭のそれぞれの皿の上にのせてみると・・・
+好きな女の子
+仲良し +母親と買い物
+友達と過ごす +冷蔵庫
ーいじめっ子 +漫画
ー恐い先生 +テレビゲーム
ーーーーーーーーー +テレビ
(学校) +DVD
ーーーーーーーーー
(家庭)
・・・この男の子が学校に行かずに家で過ごす(不登校や引きこもりになる)ことは、何ら不思議なことではない。
肝心なことは、“こころの問題”ではなく、単純に学校か家庭かという問題設定にすることである。
では、このてんびんをどう動かすか?
皿に載っている物をいろいろ動かせばよい。
学校の皿を動かす方法としては、好子を増やすか、嫌子を減らすことが考えられる。
家庭の皿を動かす方法としては、自由に与えていた好子を完全に撤去して条件付きで与えるか、または嫌子を増やすことが考えられる。
この男子の場合、学校はまったく非協力的であったので、学校の皿は変わらず、家庭の皿を動かすしか方法はなかった。
具体的には、この子が学校に行くべき日に行かなかった場合は、すべての好子を撤去した(学校には行かなくてもよいが、部屋でおとなしく安静にしていることを求めた)。現実として、これだけでこの男子は学校へ行くようになった。
・トークンエコノミー法
トークンとは「貨幣の代用」、エコノミーは経済学という意味。
トークンエコノミー法は「さじ加減」が決め手である。これが不適切だとうまくいかない。その設計が成功と失敗の鍵を握っており、適切に設定すればどのようなケースでも適用可能だと(著者は)確信している。
不登校の場合、特に家庭や学校での過ごし方をしっかり調査しなければならない(生態学的調査)。調査を行えば、100人不登校児がいれば100通りの生態があることがわかる。調査は、子どもの日課や習慣から好子となっているものを見つけ出す作業も含まれている。
また、細かな配慮も必要である。一つは「子ども自身がパックアップ好子を選択できること」である。子どもの年齢により興味や関心、好みを考慮する必要がある。そしえ、トークンエコノミー方以外の手段ではバックアップ好子を入手できないようにしておくことが効果的である。
トークンエコノミー法で裏切りは禁物である。
加点方式のトークンエコノミー法とは逆のポイントを減点する方法もある(レスポンスコスト法)。レスポンスコストは好子消失の弱化の手続きである。弱化手続きには副作用がある(前述)ので、あまりお勧めできない。
基本的には「アメとムチ」のトークンエコノミー法&レスポンスコストの併用よりも、「アメとアメなし」のトークンエコノミー法のみの導入を目指した方がよい。