ある事情があって、ある企業の部長と話し合う。その企業が失策をしたので私に謝りに来たのである。いつもは、平社員H氏とT氏が来ているが、今回は部長とT氏が来た。他の医師との契約が失敗したため、私にやってくれないか、との相談である。契約担当のH氏は、「青天の霹靂」などと言っているが、私に言わせれば、H氏の人格、交渉能力の下手さ、の問題である。H氏の医者との交渉方法は、都合のいいメリットだけ笑顔で話しておいて、医者が合意した後に、(医者にとって)都合の悪いデメリットの契約書をつきつけるだけなのである。あとは、医者の責任、で知らんぷりである。何も医療に限らず、誠実な商取引は、インフォームド・コンセントである。つまり、メリット、デメリットの両方を、相手が納得いくまで、丁寧に説明してから契約すれば、問題は起きないはずである。これはどんな企業にでも言える。問題はH氏の人格である。メリットだけ笑顔で説明して、商談成立した後で、(医者にとって)都合の悪いデメリットの契約書をつきつける、というやり方の方が、楽だし、商談も成立させやすい。また、H氏は、医者を表向きは、「先生」と呼んでいるが、内心では、医者なんて、医療の世界しか知らない温室育ちで、医学知識があるだけで、世間知らずのバカと見ている面がある。ので、そういう世間知らずの医者を、突き放して、いじめることに快感を感じている面がある。自分が潜在意識下で、そんな、歪んだ快感を味わっていることに、自分で気がついていない。それは医者に対する社会的地位のコンプレックスからきているのだろう。だから商談成立後に、医者が、やっぱりやめる、と言い出すのは、別に「青天の霹靂」ではない。むこうの部長は平謝りに謝り、私に依頼したが、私は、尊大でもなく、かといって抗議すべきことは、しっかりと抗議した。言葉の一つ、態度の一つを慎重に計算して。相手に非があるからとって、無考えに叱りつけるのは、バカである。これからの付き合いもある。これは、個人の商取引だが、これが国家となると外交であって、外交というものは、十分に将来のことを考えて、言葉の一つ、態度の一つを慎重に計算して行わなくてはならない。のである。
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