※本日から改訂版を先にアップします。
既にアップした『泡宇宙の蛙』2の1~2の5までの鑑賞を大幅に変更した歌について、
改訂版を1首ずつ載せてゆきます。
この後、本日2回目になる通常の鑑賞を載せます。
改訂版 渡辺松男研究2の1(2017年6月実施)『泡宇宙の蛙』(1999年)
【無限振動体】P9~
参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放
8 森林そのものになりたき菌ひとつ増殖をし分裂をし 熊楠叫ぶ
(レポート)(慧子)
※熊楠とは南方(みなかた)熊楠。生物学者、民俗学者。15年間世界各地を遊歴。大英博物
館東洋調査部に勤務。民俗学、文献学、言語学に精通し、また粘菌類の研究で有名。
(学習研究社「新世紀百科辞典」)
(当日意見)
★熊楠は自然保護の人でもあるんですよ。木を伐ろうとした島一つを反対運動をして守ったそうで
す。(A・Y)
★6番歌(月光のこぼれてはくるかそけさよ茸は陰を選択しけり)でも言いましたが、菌は種の意
志として「森林そのものになりたき」と思っている。思っているってもちろん個体が思考してい
るのではなくてDNAレベルでの話です。「増殖をし分裂を」することは生命の自然の摂理だか
らです。なぜ熊楠が叫ぶかというと、爆発的に増えていく菌を見て面白くってたまらない、だか
ら感嘆の叫びを上げている。菌という生命体が「森林そのものになりた」い意志をもって増え続
けている。その生命力に熊楠は感嘆している訳です。熊楠さん、とても破天荒な人だったらしい
ですけど。(鹿取)
★生命というのは無限に発展したいものなんです。生命の本質ってそれでしょう。善も悪も区別が
無いのです。ジョン・ケージが影響を受けた東洋思想とか禅とかいうのにその辺りが繋がるので
はないですか。(鹿取)
(歌集評)
菌類は森をめざす。森は菌類との共棲によってのみ本来の森となる。五句目に「熊楠叫ぶ」とあるが、この歌集の根源としてあるのはまさしく南方熊楠の「森の思想」なのではあるまいか。コンイロイッポンシメジ、イヌセンボンタケ、サンゴハリタケなどこの歌集には沢山の菌類が登場する。きのこは生体系のなかで物質の分解とさらなる還元という根源的な役割を果たす。特に菌類はバクテリアを捕食し、その活動の絶頂期に示す鮮やかさはほとんど感動的であるという。消費者としての粘菌は森の生死をさえ左右する。いま詳説する余裕はないが菌類や粘類に学問的に注目したのは南方熊楠である。輪廻にある生命はニルバーナ・マンダラと同一であるとして南方熊楠は秘密儀としての「森の思想」を説いた。この歌集のあとがきを見るまでもなく渡辺松男の『泡宇宙の蛙』を読み解く鍵は「南方熊楠」にありと指摘してこの稿を終える。(鶴岡善久)
「森、または透視と脱臼」(「かりん」2000年2月号)
既にアップした『泡宇宙の蛙』2の1~2の5までの鑑賞を大幅に変更した歌について、
改訂版を1首ずつ載せてゆきます。
この後、本日2回目になる通常の鑑賞を載せます。
改訂版 渡辺松男研究2の1(2017年6月実施)『泡宇宙の蛙』(1999年)
【無限振動体】P9~
参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放
8 森林そのものになりたき菌ひとつ増殖をし分裂をし 熊楠叫ぶ
(レポート)(慧子)
※熊楠とは南方(みなかた)熊楠。生物学者、民俗学者。15年間世界各地を遊歴。大英博物
館東洋調査部に勤務。民俗学、文献学、言語学に精通し、また粘菌類の研究で有名。
(学習研究社「新世紀百科辞典」)
(当日意見)
★熊楠は自然保護の人でもあるんですよ。木を伐ろうとした島一つを反対運動をして守ったそうで
す。(A・Y)
★6番歌(月光のこぼれてはくるかそけさよ茸は陰を選択しけり)でも言いましたが、菌は種の意
志として「森林そのものになりたき」と思っている。思っているってもちろん個体が思考してい
るのではなくてDNAレベルでの話です。「増殖をし分裂を」することは生命の自然の摂理だか
らです。なぜ熊楠が叫ぶかというと、爆発的に増えていく菌を見て面白くってたまらない、だか
ら感嘆の叫びを上げている。菌という生命体が「森林そのものになりた」い意志をもって増え続
けている。その生命力に熊楠は感嘆している訳です。熊楠さん、とても破天荒な人だったらしい
ですけど。(鹿取)
★生命というのは無限に発展したいものなんです。生命の本質ってそれでしょう。善も悪も区別が
無いのです。ジョン・ケージが影響を受けた東洋思想とか禅とかいうのにその辺りが繋がるので
はないですか。(鹿取)
(歌集評)
菌類は森をめざす。森は菌類との共棲によってのみ本来の森となる。五句目に「熊楠叫ぶ」とあるが、この歌集の根源としてあるのはまさしく南方熊楠の「森の思想」なのではあるまいか。コンイロイッポンシメジ、イヌセンボンタケ、サンゴハリタケなどこの歌集には沢山の菌類が登場する。きのこは生体系のなかで物質の分解とさらなる還元という根源的な役割を果たす。特に菌類はバクテリアを捕食し、その活動の絶頂期に示す鮮やかさはほとんど感動的であるという。消費者としての粘菌は森の生死をさえ左右する。いま詳説する余裕はないが菌類や粘類に学問的に注目したのは南方熊楠である。輪廻にある生命はニルバーナ・マンダラと同一であるとして南方熊楠は秘密儀としての「森の思想」を説いた。この歌集のあとがきを見るまでもなく渡辺松男の『泡宇宙の蛙』を読み解く鍵は「南方熊楠」にありと指摘してこの稿を終える。(鶴岡善久)
「森、または透視と脱臼」(「かりん」2000年2月号)
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