かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 2の233

2020-01-10 18:09:55 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究2の30(2019年12月実施)
     Ⅳ〈月震〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P151~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、菅原あつ子(紙上参加)、
         渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子    司会と記録:鹿取未放


233 交尾終えぐらんぐらんとする生を木の根より深くもぐろうとする

           (レポート)
 232番歌「じゃんじゃんと御輿担がれゆきたれど泥中を這う亀のリビドー」に続き、主体は亀であろうか。交尾の後の感覚をぐらんぐらんと表現して巧みなオノマトペだと思う。そのぐらんぐらんという状態をひっぱりながら木の根より深くもぐろうとしているという。深くもぐってどうあろうとするのか。愉悦に浸る、休息、瞑想いろいろ考えてみるに、有様として派手さのないところ、低きによりていく、そんなことを思う。(慧子)


           (紙上意見) 
 たぶん、虫が命の最後の力を振り絞り、交尾し、卵を産むために地中に潜っていこうとしている場面だろう。「ぐらんぐらんと」がすごい。ただ、「生を」の「を」が気になる。生をもって、生を抱えて、ということだろうか。(菅原)


        (当日意見)
★交尾というから人間じゃ無いですよね。(泉)
★菅原さんは虫って書いてますが、やっぱり前の歌からの続きだと亀ですかね。そ
 うするとリビドーが性衝動に限定されそうで嫌ですが。「生を」はいけないですか
 ね。私は「生を」と大きく直截につかんだところがいいと思うし、その生をいっ
 さいがっさいそのまんま潜るんですね。死ぬのかもしれないけど、何のためにと
 いう目的は無くてもいい気がします。ただ、具体は書いていないけど命を潜る、 
リアルに行動の切実さが伝わってくる。(鹿取)
★生ま生まとした感じが伝わってきますね。実感というか体感というか。抜け殻み
 たいになって。生きる根源的な強さというか。ねばーとして。(A・K)
★交尾を終えて精根尽きたような体が「ぐらんぐらん」で、リアリティのある抜群
 のオノマトペですね。それにしてもこの一連はオノマトペが独特で面白いですね。
 受け売りですが、文章心理学の波多野完治が「オノマトペは主観と客観の中間」 
 と言っているそうです。ぞろぞろ、まろまろ、へとへと、じゃんじゃん、ぐらん 
 ぐらん、じんじんなどが一連には出てきますね。オノマトペを意識した一連なの
 でしょうか。(鹿取)
★一首目に月震の話が来て、アカウミガメとか浜辺に卵を生みにきて砂を深く掘っ
 ているんじゃないか。そういう場面を想像しました。そういう実景に託して、も
 ちろん松男さんは何かを言ってるんだろうけど。(泉)
★私は敢えて産卵というのは省いたんですが。リビドーに帰るのではないかと。
  (慧子)
★虫が卵を産むために地中に潜っていくととりました。(岡東)
★ぐらんぐらんというオノマトペには重量があって、小さな虫では合わない気がし
 ます。まあ、それぞれの取りようですが。松村由利子さんが亀の産卵を題材にう
 たっていて、それがにべもない歌で面白かったです。亀でさえ産みの苦しみに涙
 をうかべるのねって巷では情緒的に解釈しているけど、あれは浸透圧の調節のた
 めなんだよって。(鹿取)


      (後日意見))
 鹿取の当日発言にある松村由利子の歌は、次のもの。(鹿取)
産卵のウミガメの流す涙液は浸透圧の調節のため  『鳥女』





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