かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

清見糺の一首鑑賞  143

2021-09-13 21:05:21 | 短歌の鑑賞
 ブログ版清見糺鑑賞 22  かりん鎌倉なぎさの会  鹿取 未放
     

143 しみじみと『碧厳』を読む夜のつれは酒と煙草ともうひとりのわれ
          「かりん」2000年3月号

 ここでの『碧厳』は禅の書物『碧厳録』ではなく、坪野哲久の歌集である。哲久は一九三〇年二四歳の時第一歌集『九月一日』を出したが発売禁止、一九四二年三六歳の時には治安維持法違反で検挙された。戦後十一歌集まで出し、「赤旗」歌壇選者を一〇年間務めなどして、一九八八年八二歳で死去。『碧厳』は一九七一(昭和四六)年刊行の歌集で読売文学賞を受賞している。
 哲久はプロレタリア歌人ということになっているが、東洋大学支那哲学科出身なので禅にも深い知識を持っていた人なのだろう。作者は人生の終末に向かって歩いていることを自覚しながら、もうひとりのわれとも対話しつつ歌集を読み進んでゆく。かつて共産党員だった作者にとって哲久は「赤旗」でなじみの人であったろうが、哲久の生き方や歌には近親感のみでなく、苦さや悔いやさまざまの感情が入り交じったであろう。それらを含めて人肌に触れるようなまさにしみじみとした情感がただよう。

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