かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 43

2023-05-18 10:39:20 | 短歌の鑑賞
 2023年版渡辺松男研究6(13年6月実施)
     『寒気氾濫』(1997年)橋として
      参加者:崎尾廣子、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
      司会と記録  鹿取未放
                   

43 測深鉛深空へ垂らしつづけつつ屋上にわれは眠くなりたり

      (当日意見)
★この測深鉛って海なんかに垂らすものですよね。それを空に垂らしている。逆に
 向いているんですよね。文明を否定している訳ではないが効率優先の世から渡辺
 さんは距離を置いていると読みました。(慧子)
★今の慧子さんの意見を面白く思いました。測深鉛は海や湖に垂らして深さを測る
 道具ですが、ここではそれを空に向けている。渡辺さんはこういう逆方向の歌を
 たくさん作っています。もっとも地球は球体なんだから空に向けて垂らしても理
 屈ではありなんですが。測深鉛は20メートルくらいが普通だそうですから、垂
 らしつづけるにはとても足りない。だから無限ほども長い測深鉛を垂らし続けて
 いる。それは永遠ほど長い時間が必要だから眠くもなる訳です。それでイメージ
 としては宰相からの要請を蹴って在野にあって「塗中に尾を曳く」思想家達を思
 いました。老子のような人たちが釣り糸を垂らす代わりに〈われ〉は屋根の上で
 測深鉛を垂らしている。社会と距離を取っている生のありようをわりとユーモラ
 スに描いているのかな。それと、「ポワンカレの紐」のことも連想しました。仮
 に宇宙に紐をかけて一周して、その紐が回収できたら宇宙は球体をしているって。
 もちろん理論上の話ですけど。測深鉛を垂らすのは「ポワンカレの紐」を宇宙に
 投げているのと同じような印象を受けます。(鹿取)



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