渡辺松男研究2の23(2019年4月28日実施)
Ⅲ【交通論】『泡宇宙の蛙』(1999年)P109~
参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、T・S、鹿取未放
レポーター:泉真帆 司会と記録:鹿取未放
167 住専さえ知らざりしわれら軍閥さえ知らざりし茂吉 吹越(ふつこし)の空
(レポート)
「住専」「軍閥」「吹越」と種類のちがう三つの事柄をならべ、国民の知らないところで国に起っている悪しきことを知り得ず生きている悲しみを詠む。三つの悲しみは根底でつながっている。
「住専」は住宅金融専門会社の略。個人向けの住宅ローンを目的とし、都銀や農協系の金融機関が一九七〇年代に設立したが、バブル期の不動産融資に失敗し、生じた約六八〇〇億円の損失を国は税金でまかなった。これらが明るみに出るまで国民はこのことを知らなかった。
斎藤茂吉は歌集『白き山』で〈軍閥といふことさへも知らざりしわれを思へば涙しながる〉と詠む。戦争中は戦意高揚などの歌を詠み戦争協力をしたのだが、政治が軍閥によって動かされていたことをそのときは知らなかった。
「吹越」は青森県の六ヶ所村の西に位置する標高五百八メートルの山、吹越烏帽子(ふっこしえぼし)のことだろう。六ヶ所村の住民は核燃料サイクル基地、核燃料再処理工場の構想が進んでいたことを当時は知らされていなかったのだろう。一字アケのあとの「吹越の空」が切ない。
(当日意見)
★吹越は、レポーターの言う青森の地名かもしれないけど、群馬弁で「風花」のことを言うそうで
す。(鹿取)
★これ、両方面白いですよね。泉さんの言われた住専、軍閥、六ヶ所村という知らされなかった事
柄。しかし、一字空けして風花が舞っているというのも歌としては美しい。核燃料サイクルの基
地だとどーんときますけど。でも、茂吉って軍閥をほんとうに知らなかったのでしょうかね。
(A・K)
★いや、まあ、知っていたんでしょう。割りと社会的な事象については疎い人だったみたいだけど、
全然知らないということはないでしょう。それと同じように、われわれも住専のことをうすうす
は知っていたかもしれない、何か危ないことが起こっているって。でも、みんなで知らない振り
をしていた、そして発覚したらものすごいことになっていた、まあそういうことが言いたいのか
も。一字空けの意味はやっぱりここで転換して風花の流れる空を見ているって事かなあと思いま
す。白々しいむなしい気分でそんな寒空を見ている。(鹿取)
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