どぶりのはっぱ。

どかみんが日々体験したり、感じたこと、愚痴、趣味の話などをつらつらと思うままに綴った日記。

赤い紐。(長文です)

2013年04月10日 09時19分52秒 | Weblog


どかみんの母は肺を患っていて、在宅酸素治療を受けています。

昨日は、定期的な通院日でした。

朝から、せまい待合室は車椅子の患者さんや、手押し車を押す患者さんで混雑していました。

私が、椅子に腰を下ろしたとき、その女性はちょうど診察室から出て来ました。

カラフルな車椅子に乗った女性は、看護師さんに車椅子を押され、私たちの前に来ました。

そこしか、彼女が居られるスペースが無かったからです。

彼女の車椅子は、普通のと少し違い、背もたれや足置きが大きく、座るというより寝る感じ?のタイプ。

車椅子の押し手には、酸素ボンベが掛けられています。

母と同じように、呼吸器に疾患がある方なのだろうと察しました。

車椅子の上のその女性は、介助者がいないのか、一人でそこで待っていました。

治療の途中なのか、それともお迎えでも待っているのか、母の診察が終わっても女性はまだ同じ所に。

狭い待合室、しかも車椅子の上で長時間・・・ちょっとつらそうです。

もう少し、広い場所で待たせてあげられないものか・・・と思っていると、女性がもそもそ動き始めました。

膝の上のカバンを探っているようです。

携帯でも探しているのかなぁ・・・と思いつつ、私は母との会話へ戻りました。

次に気づくと、女性は、車椅子の横に積んでいた杖を動かそうとしていました。

ちょっと大変そうだったので、お手伝いしようか迷ったのですが、失礼になっても・・・と見守る事に。

女性は、なんとか杖を取り出すと、反対側の手に大儀そうに持ち替えました。

何をするのかと見守っていると、それで床をつつき始めたのです。

はじめ、反対側に杖を置き換えるのに不自由しているのかと思いましたが、どうやら何かを床に落とした様子。

私より先に気づいた他の患者さんが飛んできて、女性の落し物を拾ってくれました。

それは、赤いヒモのかたまりでした。

車椅子の女性は、両手を合わせてお礼を言い、拾ってくれた患者さんも笑顔で戻って行きました。

早く気づいてあげればよかった・・・そう反省していると、その女性が今度はその赤いヒモのかたまりをいじり始めました。

その手元はおぼつかなく、ヒモのかたまりは固くしばられていて、なかなかほどけません。

ここでもまたお手伝いするべきか迷う私。

私が迷ううちに、女性はなんとかヒモをほどき終わりました。

そのヒモをどうするのだろう?この女性の手の力では縛るのは難しそう・・・今度こそお手伝いせねば。

そう思っていると、女性が精一杯手を伸ばし、母へその赤いヒモを差し出しました。

そして、自分の車椅子を振り返るそぶりをし、何かを伝える様子。

しかし、女性は呼吸器疾患。

声に力が無い上に、マスクをしていて私は何を言っているのかすぐには分かりませんでした。

母は、すぐに察したようで、

「ああ!ありがとう!でも大丈夫だよ、私もカバンにあるから」と断ります。

そこで、ようやく私にも理解できました。

女性と同じように酸素を吸う母、その酸素を通す透明のチューブがグルグルに丸まっておりました。

立ったり座ったり、ある程度動くのに長さはいるものの、あまりにグルグルしているとどこかに引っ掛けそうだし、
酸素のめぐりも悪い気もします。

それを見かねて、女性は酸素ボンベのキャリーにチューブを固定するようにとヒモをくれたようです。

母は、申し訳ないと思ってか断り続けましたが、私ははっとしました。

「いや、お母さん、それはダメだよ。せっかくだから、いただきます」

私が両手で受け取ると、女性は目を細め、少し申し訳無さそうに両手を合わせて「ありがとう」と言ってくれました。

「いえ、そんな、こちらこそ、ありがとうございます!」

私は、女性の優しさに感激しつつ早速ヒモを使おうとすると、女性がまた自分の酸素ボンベを振り返るそぶりをし、何か言います。

またしても、何を伝えたかったのか分からない私。

しかし、またしても、母には何を言われたのか分かったようです。

「ああ、ありがとうございます!」そう答えました。

女性の言うとおりに、チューブを固定しようとしていると、運悪くお会計で呼ばれてしまいました。

他の患者さんのこともあり、その場でチューブの固定をあきらめ、女性に礼を言って病院を出ました。

女性は、両手を合わせて何度も頭を下げてくれました。

優しい人だなぁ・・・と思いつつ、調剤薬局で母に何を言われたのか聞くと、

酸素ボンベをキャリーに固定するカバーには、穴が開いていて、そこからチューブを通すとチューブ曲がらないと言っていたそうです。

そこで、私はちょっと感心。

あの短いやり取りで、分かり合えるのはさすがに同じ病を持つもの同士だなぁ・・・と。

実は、母と女性とは同じ医師にずっとかかっているので面識があり、女性の方が長く患っているのだと言います。

と、すれば、女性はもしかすると、母のためにあの赤いヒモを用意してくれていたのかも・・・

改めて、女性の優しさに感謝、感激しつつ、私よりたぶん若いであろう女性の運命に悲しくなりました。

呼吸器疾患は、行動を制限される病です。

人のために動けないどころか、自分が人の世話にならねばならぬ事を悩み、悔やむ事毎日のようです。

女性も母と同じだとは言えないのでしょうが、母が、あの赤いヒモを使い続ける事で女性の心も安らげば・・・

そんな風に思うのは、私が健康だからなのかもしれませんが・・・

次に、女性に会うことがあれば、ちゃんとお礼を言いたいと思います。


写真はまったく関係なく、ベランダのブルーベリーです。

たくさん花が付きましたが、今年はこの木1本しか無いので、受粉がうまくいかない予感。

ひとつでも実が付けばいいかなぁ・・・