患者さんは
病状を理解されていなくて
現実には、到底無理な事を話される場合と
病状を十分理解した上で
非現実的な希望を、話される場合があります。
前者であれば
支えになってくださる方に同伴して頂いて
病状の説明を行い、
現実に戻していけるよう言葉がけをします。
後者の場合には
もう、無理ですよと伝えると
その希望を否定することになります。
ですから、非現実的なことでも、否定しないで
肯定的に返事をしていきます。
前者か後者か
この判断を間違えると、大変なことになってしまいます。
このとき、とっさに判断しました。
Aさんは、今までの散歩でしてきた会話からも、
まちがいなく後者であろうと・・
そして、こう返事をしました。
「そうですね。
その時を、楽しみにしています。」
Aさんはわっと泣き出され
しばらくの間、
信じられないほど、号泣され続けました。
もう、
最期が近いことを分かった上で
自宅に帰って、
共に食事をしたいと言ってくださったのだと思いました。
それは、死に直面してなお、
治りたい、生きたいというAさんの希望を表現した言葉でした。
気管切開からもれる嗚咽を聞きながら
とっさの判断に間違いが無かったこと
Aさんの強い生きたいという意思が伝わってきました。
そして、
翌々日には、
Aさんは深い眠りに落ちました。
とうてい叶わない願いを話された時、
私達は、
現実を理解できるような支援をするべきか
ただただ、その願いを共に願う気持ちを伝えるべきか
専門職として、人として、
あるべき姿を問われた出来事でした。
(おわり)
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暖かなメッセージをありがとうございます。
一見感覚的な判断のようで、確固たる肯定をもって、説明できるこの出来事を、同じように感じてくださることに大変うれしく思いました。
とても大切なメッセージがこめられていると思いました。Aさんのような言葉を否認していると受け止める医療者が多いように思えるからです。
人間はがんになったって、死期が迫っていても、希望を持つ権利があるのです。これは誰も奪うことができません。がん患者さん特に死が迫っている人たちが”分かってもらえない、聞いてもらえない”と言う気持ちを抱く一つの原因がこれだと思っています。
かなわない希望、それでいても時にはサポートするもしくはその気持ちを分かろうとする姿勢が大事なのです。
人間同士のガチンコ勝負。本当にそういう感覚です。
上辺だけでやり過ごしていたり、心理的に抜け出せなくなってしまったり、現場では難しいことが多々あります。
himawariさん
Aさんの気持ちを代弁して頂き、改めて、そうだったのかもしれないと感じました。それだけに、とても切ない出来事でもありました。
娘さん、冬を越した木に花が咲くような日が遠くないうちにきますように。
娘も何とか大学の先生の力を借りたりしながら頑張ってるようです。なんとか乗り越えて人の気持ちにも寄り添える医療従事者になってほしいと願っています。
いつも緩和ケアとは、人間と人間のガチンコ勝負だな~と思っています。
とっさの判断・・・難しいですね、勉強やたくさんの経験が必要ですね。
いつも示唆に富むお話ありがとうございます。