緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

食道がんの患者さんのこと

2012年01月05日 | 医療

このブログ、昨年も多くの方に支えられ続けることができました。
緩和ケアが根をはってくれることを目標に
ゆっくりとではありますが、本年も更新していきたいと思います。
どうぞ、宜しくお願いいたします。




4年近く前に書いた記事・・
下書きのままで、保存していました。

こうした記事も、不思議なもので、なんだか、
埃をかぶっていたような懐かしさがあります。





1月5日にNHKの収録があり、
ブログの更新が延び延びになっていました。

実は、この食道がんの患者さんも
私が初めてNHKの番組に出演させて頂いたとき、
ご協力いただいた方でした。


今日、改めてそのころのことを思い出しながら・・

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在宅で過ごされながら、治療をなさっていた方。

治療主科と在宅医も診療をしておりましたが

イライラ感が強くなり調整の依頼が
緩和ケア外来にありました。

問題点は3つ
疼痛、嘔気・嘔吐、落ち着きのなさでした。

嘔気・嘔吐は、便秘と高カルシウム血症が原因でした。
落ち着きの無さは、制吐剤の副作用でした。
(アカシジアです)

一旦オピオイドを貼付剤にし
緩下剤は・・いつもの2本立ての増量

ステロイドに
鎮痛時補助薬兼イライラ緩和目的にクロナゼパム
在宅医、訪問看護も入っていましたので
排便コントロール集中週間を持ち
嘔気はすっかりと緩和されました。

最大の立役者は奥様。
実に上手にコントロールしてくださいました。

本来、再度オピオイドは経口薬に戻したかったのですが
飲み込みに不安がありましたので
貼付剤をそのままの量にして
その後の増量を経口薬という併用療法で行くこととしました。

便秘が改善しましたので
経口オピオイドもドンと増やすことができ
疼痛もかなり軽快しました。

3つの症状とも2週間を越す頃には
問題にならなくなっていました。




その後、症状は緩和されていましたが
だんだん衰弱が強くなっていきました。
ステロイドを増量し、何度となく
もうだめかと思いながらも2ヶ月間
ねばり続けることができました。




そして、急に動けなくなられました。

外来で・・・
ご自身は、あと2~3週間かなあ・・とおっしゃられます。

「昨日と今日・・どうですか?」

「全然違いますね。ぐっと動けなくなった・・」

「変化のスピードは週単位で考えるのではなく
 日単位で考えていきましょう。
 一日、一日で・・
 でも、命の時間と、何かができる時間は違いますよね。
 誰かに伝えたいことがあれば、早い方がよいですね」

処方の相談のため、奥様だけ診察室に。

これから起こりえること
その対処の方法を伝えると共に
在宅医に連絡を入れました。

治療方針、看取り準備、在宅酸素設置の依頼
薬剤のこれからの変更について
奥様の目の前でやり取りをさせていただきました。
そして、翌日臨時訪問を必要としていることも・・

そして、訪問看護ステーションに電話・・
現在の身体状況、在宅看取り体制に入ること
外来帰宅時に玄関前の階段が上れない可能性があること
ステーションの所長さん・・
「今、一人動ける看護師がいますから
 玄関前に待機するようにしましょう」

いつもながら、本当に心強い・・


症状が緩和されており
せん妄を起こしていなければ
在宅で最期まで過ごせます。
言葉で書けば簡単ですが、
実際には、見えないところで費やす時間は
かなりのものです。

ここに至るまで、心肺蘇生についても
ご本人の意思をご家族とともに話し合うことが
できましたし、どのように過ごしたいかということも
話し合えました。

多くの場合、この患者さんであればイライラ感が出たときに
再入院となっていたでしょう。
そうすると退院することが不安になり
そのまま最期ということがあまりに多いのです。

こうなると症状が取れる取れないではなく
退院を決心できるような病状説明が
できるかどうかということになります。

今回は、主治医と在宅医と私(緩和ケア)の連携で
家族を支えて、在宅で症状緩和にいたることができました。
最期までご本人の希望に沿った形で到達できそうです。


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前任地で、外来でサポートしていた患者さんでした。

外来で、病状の説明、DANRをご本人から確認し、
在宅医に最期まで診ていただき、
在宅での薬剤調整の仕方を、
電話で対応させて頂きました。

在宅を専門にしている医療者と
緩和ケアを専門にしている医療者のコラボでした。
そして、ご家族が共にいらっしゃいました。

お亡くなりになったとき、
皆で味わった達成感に似たものは
ご本人のカーテーンコールを聞いているような感覚でした。




ご家族に思いを馳せながら、
今年最初の記事とさせていただきました。

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4 コメント

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素敵な最期ですね。 (たえ)
2012-01-09 15:44:03
 いつも、興味深くブログを拝見させていただいております。
 神奈川の病院で消化器内科をしております。日常の診察をしていて、先生の講演に何度か参加させていただいたこともございます。
 ブログでのお話を拝見させていただき、理想的な最期を患者さま、ご家族共に迎えることが出来たのではないかと、私も感じました。日常の診療で癌の患者さまと接していると不安が強く、入院時の症状が収まっても、入院をしていたいと思う方が多く、どう説明をするか、課題となっております。どのタイミングで在宅を希望するかどうかなどを確認するタイミングを図るのも難しいと感じております。
 患者さま、ご家族の希望に添える医療を提供できるよう、心がけます。
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たえさん (aruga)
2012-01-09 22:10:23
ブログにお立ち寄りくださりありがとうございます。そして、いただいたコメントに、暖かな気持ちになりました。同じ方向を見てくださっているなあって。
入院が長くなると本当に難しいものです。
外来、在宅で症状緩和ができることや入院になってもできるだけ早く症状が緩和できることが鍵の一つですが、外来で薬の説明なども含み一人1時間くらいかかってしまったりします・・
返信する
他科との連携 (くまごろう)
2012-01-15 00:45:16
NHKに出られるのですか? 放送日教えて下さいね。

医師は患者さんとの意思疎通が大事。でも、なかなか他科の先生とは、意見が合わなかったりするものです。

私は院内の他の科の先生に患者さんのお願いをする時、必ず患者さんのカルテを持って、患者さんと一緒に担当医に直に話に行ったり、お願いしたりしていました。
それは、学生の時のポリクリで教わったことで、自然とそうしていたのですが、卒業後、初めて勤めた大学病院では、「院内依頼書」に書いていただければ結構ですとか、都会の病院は冷たいなあと思ったことがありました。
他科の先生ときっちり連携が取れるということは、他科のこともいろいろ理解しているという訳で・・・専門家としてでなく、総合医としての知識や気遣いって大事だなあと思いました。
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くまごろうさん (aruga)
2012-01-15 20:42:39
コメントありがとうございます。
お書きくださっているように、主治医と話しあい、共通意識を形成することがとても大切だと思っています。主治医は何に困っていて、どうしてほしいと思っているのか知ることがとても大切だと。
他の方と繋がりを持ちながら生きていくことに共通していることでもありますね。
言葉を交わすことは、本当に暖かな気持ちになります。
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