某がんで、腹腔内リンパ節転移により多彩な症状を呈している方がいらっしゃいました。
疼痛、嘔気、高血圧、尿量は数100ml、身の置き所の無さ、意識のムラ、
いかんともしがたい状況で、依頼がきました。
どう緩和するかは、病態評価がどこまで出来ているかということにかかってきます。
疼痛があるからオピオイドの増量・・・
では、この患者さんは数日内に鎮静を必要としていたでしょう。
画像を確認しました。
リンパ節転移は大変大きく、
両側の腎動静脈を浸潤し、
門脈、胆道などもほぼ閉塞しているような状況でした。
採血データは、クレアチニンは4を超え
K、Caともに高く、致死的な数値になりつつありました。
アンモニア、ビリルビンも上昇し、
日単位の変化にありました。
高血圧で、乏尿でした。
腎動静脈の血行障害が病態の根底にありました。
主治医に話しました。
「ここの血流が改善するか、ステロイドの投与をチャレンジするかどうかでしょう。
例えば、改善すればレニン系からくる高血圧は改善するでしょうが、ステロイドがそこにどう働くかは、この日単位では読めません。多彩な症状が緩和されるのか、予想を越えたリスクを生じるか読めません。ゼロではないでしょう。」
そのままでは数日でした。
血行障害を改善させるには、抗炎症作用が高いステロイドを選択したいからということで
ベタメタゾン 8mg 朝 30分~1時間投与
を一例としてあげました。
病状説明、これらのメリットデメリットの説明も促しました。
結果・・・
このステロイドの連日投与で
次第に、クレアチニンは低下し、尿量も増えました。
血圧も改善、肝機能も安定し、ビリルビンも低下(改善)はじめました。
血糖はすでにインスリンを投与されていましたので
スライディングで調整可能でした。
疼痛、嘔気・嘔吐もコントロールできました。
そして、外出、外泊もできました。
日単位の状況から1ヶ月以上、落ち着いた時間がありました。
ステロイドはここぞという時に、本領発揮してくれます。
本当に強い味方になるツールです。
お亡くなりになる数日前、
ご本人から「急に悪くなるものですね」と言われました。
「いいえ。ステロイドを使い始めたとき、あの時が最期の時かと誰しも思っていました。1ヶ月以上、命が延びたのですよ。がんばりを見せてくださって、本当にありがとう」
「ああ・・そうだったのですか。よかった。」
そう、微笑まれました。
不安そうに見守られていたご家族に
「よく、支えて差し上げられましたね。皆さんの力の賜物の1ヶ月でした。」
とお伝えすることができました。
また、一つ宝物が増えました。
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私も現在持っている患者さんに対して
最近ステロイドを使い始めました。
まだ効果は実感できていませんが、
もう少しねばろうかと思います。
(私は急性期病棟で勤務しています)
急に悪くなるんですね、という言葉は
よく患者さんや家族から聞くことがありますが
このような説明をすると患者さんも家族も
安心するのでしょうね。
勉強になります。
ありがとうございました。
ステロイドのコツは、多い量から開始して、減量し、維持量とするか、ゆっくりと中止していくことです。
血液領域で、バンと2日間ほど使ったりしますよね。短期投与は免疫応答を潜り抜けますので、免疫抑制につながらないと言われています。
本当に、ユニークなキードラックだと思います。
ありがとうございます。
今回のステロイドの効果は、例えば上大静脈症候群の時と同様な機序と考えてよろしいのでしょうか?これがリンパ節転移でなく、原発の巨大腫瘍塊であっても同じ対応をされたのでしょうか?ご教示いただければ幸いです。
お立ち寄りくださり、よかったと後押ししてくださり、本当にありがとうございます。(皆様“さん”で統一させて頂いております。お許しください)
迷いましたのは、一先ず、もっと短期作用型のソルコーテフのようなものを1~2g位で反応を見るべきかという点でした。結果的には作用がはっきりしているベタメタゾンでよかったと思います。開始量は2日間ほど、その倍でいってもよかったかもしれないと思っています。
Takさん
初コメント本当にありがとうございます。励まされます。
ご指摘の通りです。炎症性浮腫をともなっているものほど、ステロイドの効果はあると思われます。転移巣であっても原発巣であっても同じで、むしろ、がんの種類によって、差を生じます。興味深いのは、肺がんでも、小細胞は炎症度が低く(浮腫が少ない、ステロイドが期待できない)、非小細胞は炎症を伴っていることが多いというように組織型でも異なってくることです。頭頚部がんは炎症性が強く、狭い頚部に対し、ステロイドは積極的な選択になろうかと思います。
これは、各がん種のCOX2の発現率をみた論文を根拠として、効果を予測しています。
今回も、痛みがあるからオピオイド増量、ではない、という、当たり前のはずでとても大切、だけどついつい忘れがちなことを教えていただいて、ありがとうございます。
ところで、がん種ごとのCOX-2発現率をみた論文、探してみたのですが見つけられませんでした。
申し訳ありませんが、元の論文をぜひ教えてください。
です。
手前味噌ですが、私が書いています「さらに上級なスキルをめざすがん疼痛緩和」には、p.42に、各がん種別のcox-2の発現率の一覧を掲載しています。
アマゾン
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%95%E3%82%89%E3%81%AB%E4%B8%8A%E7%B4%9A%E3%81%AA%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E3%82%92%E3%82%81%E3%81%96%E3%81%99-%E3%81%8C%E3%82%93%E7%96%BC%E7%97%9B%E7%B7%A9%E5%92%8C-%E6%9C%89%E8%B3%80-%E6%82%A6%E5%AD%90/dp/4861570166
慌てて手元にある『さらに上級な~』を開きました。
実は持ってます。困ったときにはいつも助けてもらってます。
でも、辞書的に使っていて、きちんと読んでなかったです。
……ちゃんと出典も書いてくださってるのに。
しっかり勉強させていただきます!
あのとき同席していた看護師さんがこの6月にホスピスケアの認定看護師に無事合格しました。彼女は先生にあこがれているようでブログの話題をよく病棟で話しています。
勤務病院は中規模病院で自分たちの担当癌患者の緩和ケアだけでなく、大学病院から依頼された終末期患者の入院も引き受ける環境です。
仕事の中身も手術だけでなく、検査も、外来も、時に往診も、そして緩和ケアも行っております。
手探りで勉強してきた緩和ケアも少しはましになってきたと思えるようになってきましたが、先生のステロイドの使い方の上手さはいまだにまねできず、是非直接教えを請いたいと思うこともしばしばです。
外科出身の有賀先生であれば想像していただけると思いますが、外科医はステロイドの使用は余りうまくない人が多いと思っているのですが(自信のある方がいらしたらごめんなさい)、自分自身もなかなか慣れず、この患者さんのような話を目にすると有賀先生のエキスパートさを実感いたします。
いつか是非先生の回診を見学させてください。
できればネット上の弟子とさせていただければ幸いです。
本、辞書的にご利用くださっているとお伺いし、とても嬉しかったです。だって、筆者はあえてポケットサイズにしたように、そうお使いいただきたいなあと願っていた使い方でしたから!
ご紹介した文献は、がん治療中の患者さんには、理由がない限りNSAIDsをしっかり使ってあげたいなあと思うような根拠がよく書かれており、がん疼痛緩和認定看護師さんの授業を昨年まではNSAIDsと鎮痛補助薬を担当していましたので、ずっと紹介していました。お時間があれば、読んでみてくださいね。
地方の外科医さん
コメント、ありがとうございます。お声をおかけくださったこと、記憶にあります。ただ・・それが、何処の講演だったかが思い出せず・・本当にごめんなさい。
認定の合格すごいです!今、研修を受けるための試験の倍率が年々上昇しているようで、狭き門です。
また、手術もなさりながら、プライマリー医療も緩和もとお伺いすると、本当に頭が下がります。でも、患者さんは幸せですね。手術をしてくださった先生が症状緩和もしてくださり、在宅まで来てくださるなんて・・
外科とはいえ、私は移植も取り扱う腎外科でしたので免疫抑制剤としてのステロイド、悪性腫瘍のステロイドと広く日常的に取り扱っていたことが今に至っているのかもしれません。
回診はウエルカムです!ご希望があれば、一度、このコメント欄にご連絡先(アドレス等)をいただけますと幸いです。(このコメント欄は、承認制にしていますので、投稿くださったとき、プライベートとお書きくださった場合や、個人情報が入っているときは、表にはアップしておりませんので、ご安心ください。)
私の目標というか希望は、施設を超えた緩和ケアコンサルテーションサポートなのです。弟子なんて恐縮です。先生の活動をサポートさせて頂けるとありがたいです。