症状緩和・がん患者支援外来
(いわゆる緩和ケア外来をこのような名前にしています)
に、来院された患者さん。
主訴は両下腿浮腫で、原因は深部静脈血栓。
骨盤底のがんの患者さんでした。
静脈が腫瘍で圧迫されたところに
血栓ができたものと思われました。
これから入院をして、化学療法が始まりますが、
その前に、気持ちもお辛そうに外来にいらっしゃいました。
「血栓には、何もできないのでしょうか」
抗凝固薬がすでに循環器内科医のコンサルテーションのもと、
主治医から処方されていました。
「やるべきことはしっかりと始まっていますよ。
つぎは、回り道ができることを待つことです。
その為には、正座はさけたり、
お水をしっかり飲みながら、
とにかく、待ちましょう」
実は、待つって、とても、大変なことなのです。
何かできれば、少しは気持ちも紛まぎれるのですが・・・
化学療法のため、入院されました。
しばらく、入院担当のスタッフに任せ、
快調に化学療法ができている様子を聞いていました。
しかしながら、少し血栓がまたできたようで、
心理的に辛そうだと聞きました。
これは・・と思い、一緒に回診に行きました。
外来でお話した側副血行路がそろそろできているころでした。
鼠径周囲の皮膚を拝見すると
予想通り、網の目状の毛細血管や
通常以上に太くなった静脈が確認できました。
「ほら、みて。
回り道ができていますよ。
青筋みたいに見えるでしょ。
これ、静脈が太くなって、
詰まったところを通らなくても
回り道から心臓に返っていく道になっているんですよ。
よくがんばったね。よく待ったね。」
と言って、顔を上げてみたら、
ぽろぽろと涙が流れていました。
この一連の出来事から
学生実習に来ていた5年生の学生さんが言いました。
「先生の回診につけてよかったです。
患者さんを支えるって、
身近な目標、
それも、そうなる目標を見つけてあげることが
希望になるんだということがわかりました。」
驚きました。
医療者に向けて、緩和ケアは
大きな長期的なケア目標と
小さな短期的な実現可能なケア目標を
立てることが大切だと
講義や講演を通して伝えてきました。
チームのカンファレンスに至っては
何度も何度も言います。
「その患者さんのケア目標は何ですか?
ただ傾聴をしないで!」
などと、耳にタコができてしまうくらい、
言います。
でも、学生さんには、何も説明せず、
触れることもなかったにも関わらず、
患者さんと私の会話から、
これが、実現可能な短期目標を設定し、
達成できたことを一緒に喜び、
励ましたことが、閉塞感の中にあった患者さんの
希望になっていると汲みとってくれていました。
嬉しかった・・
本当に、言葉にならないほど嬉しかった・・
死を想い、揺れ動く患者さんの辛さを感じてくれて、
それを支えることが医療において、
生きていること、希望につながることを
肌で感じてくれたことは、
緩和医療の教育現場で、この4年間、
講座の立ち上げから5年生全員の実習受け入れまで
苦労をしてきた甲斐がありました。
そして、豊かな感性の5年生に感激しました。
患者さんが医学教育にご協力してくださることを
無駄にしないように
亡くなった患者さんの思いを背負い
それを形にできるように
大切に取り組んでいきたいと思います。
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コメントありがとうございます!
また、ブログのご紹介、ありがとうございました。