緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

原節子似のMさん

2006年05月30日 | 医療

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桜のような頬をしたMさんは、若かりし時は原節子似と言われた、もう80歳位の、本当に綺麗な方。
記憶がかなり途切れ途切れになるのだが、焦燥感が無く、辛いこともふと忘れることが出来る、なんとも、羨ましい年の取り方である。腹部の腫瘍のため、ここのところ、腹壁伸展痛、膨満感、嘔気が出始めた。
どうしても、一度自宅に連れ帰り、庭の様子を見せてやりたいというご主人。
症状コントロールと活動度の維持のため、静脈投与から持続皮下注射に切り替えた。
中身は、塩酸モルヒネ、鎮痛補助薬としてケタラール、ステロイドで抗炎症効果が強いベタメタゾン。
昨日までうずくまっていたMさん。今日はゆっくりと腰掛て、外の空気を吸いに出たいとおっしゃる。うん、症状緩和は1日で目標達成。でも、症状が取れても、衰弱はどんどん進む。

もともとお願いしていた訪問看護師さん、新たな在宅訪問医の先生に昨夕相談したばかりなのに、早速、病院まで訪問してくださり、共同指導ができた。

そんな中、

「どうなっちゃったのかしら・・大丈夫かしら・・時々吐きっぽいの・」
と、呟くMさん。
「お家に帰ることは、不安ですか?」
と伺ったところ、桜のような頬をして、
「ちょっとね。でも、嬉しいの。帰れるのよね。皆さんのお陰・・」

良くならない体に不安を抱え、良くなるまでは退院しないとおっしゃる方が多い中で、いろいろの症状の出現にちょっと不安げながらも帰ってみたいと言われ、そういうご本人の希望をかなえてやりたいという80代のご主人の思いを、地域の医療機関の方々とチームを組んでサポートできることは、この上ない喜びである。
帰れて嬉しいという言葉を聴いた皆はよしっとばかりに気持ちが一つになった。


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