近年、書店の観光情報誌のコーナーに年に一度くらいは「美術館」を特集した雑誌が置かれているような気がします。
例えば、現代美術館や芸術祭で地域の活性化が成功していることも多く、「遠くとも訪れたい!」魅力的な美術館が日本にはたくさんあるのです。
私も、青森県の十和田市現代美術館や岐阜県のMIHO MUSEUMには是非とも行ってみたいと思っているところです。
遠いのでなかなか機会を見つけることができないでいるのですが・・・
関東からもほど近い山梨県の山間にも、魅力的な美術館がありました。
※
JR中央本線の長坂駅からバスで10分、駒ヶ岳を望むことのできる静かな場所にある清春芸術村は廃校になった小学校の敷地を利用した芸術空間です。
桜の木々に囲まれた敷地内には、美術館を中心として建築が集う空間となっています。
この芸術村を設立したのは吉井画廊のオーナー、吉井長三氏でした。
芸術家たちの創作活動の場として、この地を選んだ吉井氏は、1981年に中心となる施設「ラ・リューシュ」を建設。
現在は2つの美術館、6つの建築、5つのモニュメントがあります。
現在中心となっているのは、小学校時代は校舎があったであろう高台に位置する「清春白樺美術館」。
設計は谷口吉生氏で、白樺派の作家たちの作品を展示しています。
芸術村の設立者であった吉井氏が、武者小路実篤や志賀直哉と親交があったため、彼らの夢であった美術館構想を実現させたのがこの美術館だそうです。
小規模ながらも、高低差のある回廊など谷口氏の凝ったデザインが随所に感じられます。
正門から、目の前にあるのは初期に建てられた「ラ・リューシュ」。
なんだかカルーセルのような円筒形をしていますが、これはフランスに実際にある建築の模造です。
パリ万博のパビリオンとして建てらた、ラ・リューシュは、その後多くの芸術家を輩出した集合アトリエとして利用されてきたそうです。
オリジナルの設計はギュスターフ・エッフェル。
創作活動の場としてふさわしい建築をこの地にも建てたのでしょう。
建物背後にはいくつかの建築が建つ、広々とした芝生が広がります。
ラ・リューシュの背後にはセザールによる「エッフェル像」とエッフェル塔階段です。
エッフェル塔完成100年を記念して、老朽化により取り替えられることになったエッフェル塔のらせん階段が24分割されて配られました。
そのひとつが、この芸術村に設置されています。
頂上にはフランス国旗がたなびいています。
この施設で最も新しい建築は「光の美術館」。
設計は安藤忠雄氏。打ち放しのコンクリートの仕様は安藤建築らしいです。
規模は一戸建て住宅くらいなもので、箱のような美術館です。
一見、面白みのない建築ですが、この美術館の個性は建物裏側に回ってみると分かります。
直方体の西南方向の角が、スパッと切り取られています。
この建物内部には照明は無く、自然光のみで作品を鑑賞することができるのです。
館内の雰囲気が、四季や時間の移ろいで表情が変わるという構造がおもしろいです。
コンクリートの静謐とした雰囲気と天井から射し込む温かみのある自然光の対比が素晴らしい・・・
館内ではスペインの画家 アントニ・クラベーの作品を展示しています。
桜の木に混ざって建っている「茶室 徹」は藤森照信氏の作品。
藤森氏の作品は独創的であって自然に近い作品が多いような気がします。
この茶室も、ムーミンに出てきそうな雰囲気があります。
作品を見るだけで、楽しくなってしまって登ることができないのが残念。
氏は生まれが長野県茅野市のため、同市に多くの作品を建てています。
白樺の木々の先にある小さな礼拝堂は、白樺美術館と同じ谷口吉生氏の設計。
題名は「礼拝堂」ですが、ジョルジュ・ルオー記念館と副題がついています。
20世紀の宗教画家であるジョルジュ・ルオーの遺族から寄贈された作品を展示しています。
この建築もコンクリート打ち放しで、宗教画家の作品展示にふさわしいシンプルかつ静かな空間をつくり出しています。
間接的に外光を取り込む天井も素敵です。
芸術家たちの創作の場としての芸術村。
都会の喧騒とはかけ離れたのどかな環境はまさしく桃源郷であり、その雰囲気の中で芸術鑑賞することができるのもまた贅沢なものです。
観光客も多くなく、日本でも有数の居心地の良い空間であると思います。
◆ひとことメモ◆
JR中央本線長坂駅からのバスは1日3本程度です。
高低差が大きく人気の少ない道ではありますが、徒歩40分程度で着きます。
小淵沢駅からもバスが1日3本出ています。