旅館25

2023-11-10 09:57:17 | 日記
遠い目をした祖父に、夕美はすかさず、祖父が飲みかけのビールを注いだ。

「いろいろって?」

「いろいろは、いろいろだ」

やっぱり話してくれないのか…。

「ところで、『いさみや』の物置小屋から小さくて重たい箱見つけたんだけど、それって何だかわかる?」

「箱?!」

祖父は急に険しい顔をした。

「うん、箱。」

「なんで、物置小屋になんて…」

「知ってるんだね。箱。え?どうして物置小屋にあったらいけないの?」

「『いさみや』の裏の山に防空豪があっただろう…。」

「防空豪?」

「その箱は、そこに置いてあったはずだが…」

祖父は酔いが覚めたかのように、目が泳いだ。

「防空豪なんてあったの、知らなかった…。で、その箱は、防空豪に入れて置かなくちゃならない物なんだね。…という事は、その箱は何かあるの?禍々しいこととか…」

「いや…。詳しくは知らん。」

祖父は席を立って、部屋へ行ってしまった。

おそらく、箱の件を話したくないのだろう…。


旅館24

2023-11-07 09:33:53 | 日記
夕美は、その日、思いきって祖父に聞いてみた。

「ね、おじいちゃん…。『いさみや』の前の旅館は、『かねみつ』って言ってたよね。その前は民家だった…って。」

「うん」

縁側で夕涼みをしていた祖父は少し眠たそうだ。

「あの旅館の元々が民家って…、かなり広いよね。お金持ちだったの?」

夕美は、どこから聞いたらいいのか分からず、とりあえず民家の住人について聞いてみようと思った。

「確か…夫婦と娘さんの3人家族って、言ってたよね。」

「あぁ…。」

「たった3人で暮らすには広すぎるよね。」

「…確かにな…。元々は地主さんの一家だったから、金持ちだったらしいけどな…」

「『かねみつ』はその人達がやったの?」

「いいや、家を売ったらしい…」

「…そうなんだ…その家族は、この町には住んでないの?」

「…いろいろあって、遠い所に引っ越した…って聞いたなぁ…」

「いろいろって…?」

祖父は遠い目をした。

旅館23

2023-11-04 08:49:11 | 日記
「開けるな!ってさ。」

「バチがあたるの?」

「わからん。」

「…で、その『かねみつ』って旅館のオーナーが何か知ってるってことか…」

「いや、『かねみつ』って旅館の前からあったかも…って。」

「その前も、旅館?」

「民家だったらしいよ」

夕美が口を開いた。

「夕美、知ってるの?」

「おじいちゃんに聞いた」

「あ、そうか、夕美んちのおじいちゃんが何か知ってるのかも知れないな!…何か聞いてくれよ。」

「なんか…おじいちゃんも、その件については、話したくないような感じなんだよね」

「箱の件?」

「ううん、『かねみつ』の前の民家の話し…」

「…それじゃ、箱は、その民家の住人が知ってるってとか…ますますミステリーだなぁ…」

幹太は益々興奮気味に話した。