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歌舞伎俳優の家に生まれたものの、若くして映画俳優に転身、世界的な人気を博す名監督の映画や、時代劇TVシリーズ等に主演し、日本に知らぬ者は無い程の大スターとなった片桐大三郎(かたぎり だいざぶろう)。然し、古希を過ぎた頃、突然其の聴力を失ってしまった。
役者業は引退したものの、体力、気力共に未だ充実している大三郎は、其の特殊な才能と抜群の知名度を活かし、探偵趣味に邁進する。後に続くのは彼の「耳」を務める新卒芸能プロ社員・野々瀬乃枝(ののせ のえ)。スター・オーラを撒き散らし乍ら、捜査する大三郎の後を追う!
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「2016本格ミステリ・ベスト10【国内編】」の2位、「2015週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」の6位、そして「このミステリーがすごい!2016年版【国内編】」の7位に選ばれた小説「片桐大三郎とXYZの悲劇」(著者:倉知淳氏)は、4つの中編小説で構成されている。
ミステリー好きを公言している自分だが、読み漁っているのは専ら日本人作家の作品で、海外の作家の作品は意外と読んでいない。(アーサー・コナン・ドイル氏及びアガサ・クリスティ女史の作品は、略全て読んでいるが。)登場人物達の名前が覚え難いというのが大きな理由だが、ミステリー界の大御所で在るエラリー・クイーン氏の作品は1つも読んだ事が無いのだから、駄目なミステリー・ファンだ。
エラリー・クイーン氏の作品は全くの未読なれど、タイトルは幾つか知っている。ドルリー・レーンを探偵役とした4つの長編小説、後に“悲劇4部作”と呼ばれる事になる「Xの悲劇」、「Yの悲劇」、「Zの悲劇」、そして「レーン最後の事件」で在る。「片桐大三郎とXYZの悲劇」は、此の“悲劇4部作”へのオマージュ作品の様だ。
“日本に知らぬ者は無い程の大スター”という片桐大三郎は、三船敏郎氏をモデルにしたキャラクターだろう。ハリウッド製作で、世界的に大ヒットし、世紀を跨いで続編が作られているSF映画作品の第1作に出演オファーが在ったものの、『SFなんて子供騙しの見世物映画なんぞに出たくねえ。』と片桐大三郎が断った。」という記述は「『スター・ウォーズ・シリーズ』と三船氏の間の有名なエピソード。」だし、他にも実在の有名人を思わせるキャラクターが登場。
「夏の章 途切れ途切れの誘拐」は、後味が悪い作品では在るものの、設定は面白かった。ネタバレになってしまうので詳細は書かないが、「“主”で在ると思い込んでいた事柄が実は“従”で在り、逆に“従”と思い込んでいた事柄が“主”だったというどんでん返し。」は見事。
残りの3章に関しては、正直そんな高い評価を与えられる内容では無かったのだが、“悲劇4部作”の梗概を確認すると、「片桐大三郎とXYZの悲劇」が上手く、其れ等の設定に重ね合わされている事が判った。なので、“悲劇4部作”を読んだ人達からすると、更なるプラス評価が加わる事だろう。
総合評価は、星3.5個。