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里海町の町役場で働く坂口由佳利(さかぐち ゆかり)は、2週間前に婚約破棄をされてしまい、人生行き詰まり中。そんな中、担当している地元出身作家の文学館「貴地崇彦(きじ たかひこ)生家館」に関して、刑事2人が聞き込みに来た。貴地は明治末期の生まれで、戦後に活躍した作家だ。没後20年以上に成るが、知名度は未だ未だ高い。
刑事は「収蔵物に付いて聞きたい。」という事だったが、何やら裏に不穏な事件が在るらしい。調べると、数日前に発見された身元不明の青年の遺体のポケットから、貴地に纏わる葉書が発見された様だ。
驚き戸惑う由佳利の下に、以前一度だけ会った老齢女性の仲村艶子(なかむら つやこ)が訪れる。艶子は「若い頃、貴地の愛人だった。」と噂される存在だ。
生前の貴地先生から、「遣り残した事が在る。」と聞いていたという艶子。其の勢いに呑まれて、調べを続けた先で由佳利は、中学&高校で同級生だった小林夏央(こばやし なつお)にも再会する。彼も調査に加わり、3人の凸凹チームが誕生した。
軈て、貴地が謎の「数え歌」を残していた事が判り、其処に隠された秘密を辿るのだが・・・。
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小説「百年かぞえ歌」(著者:大崎梢さん)を読了。元書店員という経歴を有する大崎さんだけに、著作には"本に纏わる作品"が多いのだけれど、今回の作品は文学館を舞台にした物。又、「ミステリーを十八番にし乍らも、殺人が扱われる物が無い(少ない?)」というのが大崎作品の特徴だが、「百年かぞえ歌」は珍しく殺人事件が描かれている。
作家・貴地崇彦は「明治43年(1910年)に生まれ、没後20年以上経つ。」という設定に成っている。詰まり、生まれたのは100年を軽く超える前の話。「そんな大昔の作家が昭和35年(1960年)に書いた葉書を、ポケットに入れた男性の遺体が発見された。」事から、話は始まる。此の葉書が書かれたのも60年以上前の事で在り、由香里達が調べて行く中で、"事件の端緒"が大昔に在りそうな事が明らかと成って行く。
大崎さんが好きな作家は横溝正史氏。横溝作品と言えば、「悪魔の手毬唄」に代表される「数え唄」を扱った作品で、今回の「百年かぞえ歌」で数え歌を題材にしたのは、横溝作品へのオマージュ的な意味合いが在るのだと思う。だが、残念なのは「数え歌自体に、そんなに重きが置かれていない様に感じられる。」事だ。「謎を解いて行く上で、数え歌が全く役割を果たしていない。」という訳では無いが、「悪魔の手毬唄」程の重要な役割は感じられない。
又、「謎を解いて行く上での手掛かりが、余りに偶然に見付かり"過ぎる"。」というのも興醒めだし、登場させる必要性を感じられない人物がチラホラ見受けられるのも気に成る所。後者で言えば、由香里の元婚約者や小林夏央等がそうで、「登場させる意味が在ったのかなあ?」と首を捻ってしまう。
最も納得が行かないのは、「殺人事件の端緒と成った事件(?)」と「殺人事件の加害者の動機」で在る。前者に付いては「其の事実を隠蔽した意味合いが、全く理解出来無い。」し、後者に付いては「『そんな動機で、人を殺してしまうのか?』と、此れ又理解出来無い。」ので。
そんな感じで、多くのモヤモヤ感が残る作品。総合評価は、星3つとする。