毎日音楽を楽しむのに欠かせないのがイヤホン。中でも、イヤーパッドを耳の穴に押し込む「カナル型」は人気がある。手持ちの携帯オーディオを買い替えなくても、ちょっと背伸びをして高級イヤホンを購入すれば、音質や装着感はずっとよくなる。そこで、市場推定価格が1万円前後の5機種を選び、実際に試聴してそれぞれの特徴を比較した。
●1万円前後のカナル型イヤホン、5機種の顔ぶれは?
今回レビューで使ったのは、09年4月のカナル型イヤホンの販売台数ランキングで上位に入っていた製品で、ノイズキャンセリングなどの付加機能を搭載しないモデル。ボーズの「BOSE-IE-S」、日本ビクターの「HP-FX500」、オーディオテクニカの「ATH-CKM90」、ソニーの「MDR- EX500SL」の4機種に、6月12日発売予定のShureの新製品「SE115」を加え、計5機種を試した。
各モデルの音質を比べるため、「クラシック」「ジャズ」「J-POP」3種類の音楽をそれぞれ聴いた。試聴した楽曲は、クラシックがドビュッシーの「管弦楽のための映像 第2曲:イベリア 街の道や抜け道を通って」、ジャズが上原ひろみの「Double Personality」、J-POPが大橋卓弥(スキマスイッチ)の「はじまりの歌<additional ver.>」の3つ。携帯オーディオは第4世代iPod nanoを使用した。それではさっそく、それぞれのモデルの実力を見てみよう。
●ぬくもりのある音質と低音域が強み――(1)ボーズの「BOSE-IE-S」
ボーズの「BOSE-IE-S」は、07年12月の発売から1年半近く経つが、人気の衰えないモデルだ。“ひょっとこ”のお面のようなイヤーパッドが特徴で、耳の奥まで押し込まずに穴のくぼみに置くようにして使用する。低反発素材ではないので、遮音性はあまりない。本体の外観は近未来的でカッコイイが、プラスチックの素材ががもう少し高級感のあるものだとよかった。
ケーブルはY字型で長さは129cm。そのままだと若干長い。ちなみにほかの4機種のケーブルは短めで、延長ケーブルが付属する。ただ、クリップ付きなので、余分なケーブルを挟んで服の襟などに留めれば邪魔にならない。色はブラックとホワイトのツートンカラー。この2色のケーブル、好みの問題もあると思うが、本体がブラックを基調としているのでブラック1色の方がよいと感じた。
音質は、クラシックとジャズはともに、全体的にぬくもりのある音で心地よかった。ただ、ジャズの打楽器は歯切れのよさがあまりなく、いまひとつだった。 J-POPは、ボーカル部分がくっきりしていない感じがしたが、ボーカル以外の音の低音域は響きがあってよかった。低音域を特徴とする楽曲や、あったかい雰囲気を味わいたい人には向いているだろう。
付属品はS、M、Lサイズのイヤーパッドと、コードクリップ、ネックストラップ、ブラックのキャリングケース。ケースはほかの4機種の中でサイズが最も大きく、携帯オーディオも収納できて便利だ。
●ジャンルを問わないオールマイティ――(2)日本ビクターの「HP-FX500」
日本ビクターの「HP-FX500」は、ドライバーユニットの素材に樺(かば)の木材を用いたのが特徴。木目を生かしたデザインで高級感がある。ただ、本体が円柱形をしており、装着すると耳から本体が少し飛び出てしまう。女性など髪の長い人は、髪の毛が当たると音がしてしまうのが残念なところだ。
本体に印刷されている「R」と「L」は目立たず、ぱっと見たときに左右がわかりにくい。ケーブルは80cmのY字型ケーブルで、枝分かれする手前の1本になっている部分はほかの機種と比べると太めだ。
音質については、クラシックとJ-POPは奥行きがあり、全体的にバランスがよかった。ただ、音源との距離を若干感じた。ジャズに関しては、これといった目立った特徴をつかむことができず、無難な印象。総合的に見ると、音楽ジャンルを問わず楽しめるオールマイティなイヤホンと言えそうだ。
イヤーパッドはS、M、Lサイズのシリコンイヤーピースと、低反発イヤーピースの2種類。いずれも装着感を試したところ、5機種の中で最も快適だった。キャリングケースは固形石鹸くらいの大きさで、とても丈夫にできている。このほか、70cmの延長ケーブルを付属する。
●一つひとつの音が際立って――(3)オーディオテクニカの「ATH-CKM90」
オーディオテクニカの「ATH-CKM90」は、すっきりしたシンプルなデザインが特徴で、5機種の中で個人的に一番気に入った。本体の素材に金属のチタンを使用しているため、高級感がある。
ただ、「R」と「L」の表記は、本体の支柱部分の内側に支柱と同じ色で表記されているためわかりにくい。ケーブルは60cmのY字型だが、アジャスタは付属しない。ケーブルの表面は光沢を抑えた素材を採用し、本体と同様、高級感を醸し出している。ただ、ホコリが付きやすく、目立ちやすいのが残念だ。
音質は、クラシックとジャズが一つひとつの楽器がはっきりと聴こえて心地がよく、いずれのジャンルにも向いていると感じた。一方、J-POPについては、全体的に厚みがなく、薄っぺらい感じがした。しかし、ボーカルは聞き取りやすく、まるですぐそばで聴いているようだった。
付属品はS、M、Lサイズのイヤーパッドと1mの延長ケーブル、ブラックのポーチ。イヤーパッドは圧迫感がないので使いやすいが、遮音性はあまりない。ポーチは、ほかの製品のキャリングケースと比べると、おまけで付いてきたような簡単なもの。
●広がりと奥行きのある空間を再現――(4)ソニーの「MDR-EX500SL」
ソニーの「MDR-EX500SL」は、5機種の中で本体が最も軽量だった。本体は平べったい円盤状で、外側を覆う素材にはアルミニウムを使用する。外観は、魚か鳥の頭か、何かの生き物みたいな変わった形をしていてユニークだ。装着してみると、耳にへばりつくような感覚で付けられ、耳全体へのフィット感がある。
「R」「L」の印字は本体内側にある。「R」が赤、「L」がグレーの文字で表記するため見やすく、一目で認識できた。ケーブルは5機種の中で最も細く、取り回しがしやすい。なお、ケーブルはU字型でアジャスタはなし。
音質については、クラシックとジャズは広がり、奥行きが感じられる音だった。一方、J-POPは、全体的に薄っぺらい印象だったものの、ボーカルとそれ以外の音のバランスがよく、立体感があった。総合的に判断すると、3つのジャンルともに向いていると感じた。イヤーパッドは圧迫感がなく快適だが、その分遮音性もあまりない。
付属品は、S、M、Lサイズのイヤーパッド、ブラックの本皮製キャリングケース、直接ケーブルを巻きつけるタイプのアジャスタ。ケースは5機種の中で最も豪華で、ケース内で本体を固定できるプラスチック製の備品まで付属するというこだわりっぷりだ。
●高音域が得意、遮音性に優れた一台――(5)Shureの「SE115」
コロンとした球体の外観がかわいらしいShureの「SE115」。発売日は6月12日で、一足お先に使わせて頂いた。本体はほかの4機種と比べると大きめで、ケーブルを耳の後ろから回して装着するのが特徴。髪の毛が長い人は、一緒に巻き込んでしまわないよう気をつけたい。
ケーブルはY字型で短めのおよそ45cm。ケーブルは太めでしっかりとしている。アジャスタを付属しており、ほかの機種と比べて最も大きくて操作しやすかった。「R」と「L」は本体の背面にあり、「Shure」のロゴの上部に印字してある。カラーがロゴと同じゴールドなので目立たないが、文字サイズが大きいので見やすい。ちなみにカラーはブラックのほか、同社初のカラバリとしてピンク、ブルー、レッドも揃える。
音質は、クラシックは高音域がきれいに聴こえて、全体的にふわふわとしたやわらかい印象を受けた。ジャズは立体的で、一つひとつの楽器がくっきりと際立っていた。J-POPは、ボーカルと距離が近い感じがしたが、奥行きがいまひとつだった。こうしてみると、楽器演奏がメインであるクラシックやジャズに向いていると言えそうだ。
イヤーパッドは、弾力のあるスポンジ状の「ソフト・フォーム・イヤパッド」と圧迫感のないゴム製の「ソフト・フレックス・イヤパッド」の2種類。それぞれサイズはS、M、Lを同梱するので親切。遮音性に関しては「ソフト・フォーム・イヤパッド」が大変よく、周囲の音を遮断するので音楽に集中できる。5機種の中で一番遮音性に優れていた。
このほか、91cmの延長ケーブルやブラックのキャリングポーチ、クリーニングツールも同梱する。ポーチはスポーティな楕円形。素材が布なのでやわらかい。カラビナ付きで、カバンやベルトなどに取り付けられるのが便利だ。
●音楽ジャンルに合ったモデルを選ぶ 装着感など音質以外もチェック
このように、5機種を使ってみたが、モデルによって音域や音楽ジャンルの得意・不得意があることがわかった。したがって、最も頻繁に聴く音楽ジャンルに合わせてイヤホンを選ぶのがよいだろう。さまざまなジャンルの音楽を聴くユーザーなら、複数のイヤホンを使い分けてもよいかもしれない。
音質については、実際にお店で試して確認したいところ。店によっては、手持ちの携帯オーディオをつなげるところもあるので、普段聴く楽曲で試聴すると聴き比べがしやすい。イヤーパッドの装着感も合わせて確認しよう。
さらに、本体のデザインやケーブルの素材と太さ、長さ、アジャスタの動き具合などの細かい点にも注目したい。イヤホンと毎日付き合うには、こうした点も使い勝手に関係してくるので、ぜひチェックしよう。