文章の主題は捕鯨の裁判所の中止命令である。
街景色の中に看板がある と書き出して、歌川広重の絵に言及する。
話題は「山くじら」である。
山くじらは、猪の肉のことである。
それを、捕鯨の話題に結び付けて、カンガルーの肉食、そして人間の営みに目を向ける。
そして、地域の文化を守る思いを述べている
。~は の用法に、たくみに話題の展開が図られている。
この働きを、わたしに、引用の句、引用の詞として分析するものであるが、文章におけるこの機能は、さらに解析されなければならないだろう。
文章は、コラム天声人語からである。20140403
名所江戸百景の「びくにはし雪中」は
「山くじら」とは
滋味が豊かなことは
時は
世界の目は
上訴は
記事には
提訴したのは
かの国では
論争は
人間は なしには
自分たちの残酷は
他者のそれは
調査捕鯨は
地域の文化は
詠んだのは
鯨汁は
「食」の灯は
天声人語
2014年4月3日(木)付
雪のしんしんと降る街景色の中に、大きく「山くじら」と書いた看板がある。歌川広重が描いた名所江戸百景の「びくにはし雪中」は、この看板の文字がまず目に飛びこむ。ついでに疑問もわく。「山くじら」とは一体何だろう
山に鯨がいるはずもなく、猪(いのしし)などの肉をそう呼んだ。獣肉食がタブー視された時代の隠語である。忌みつつも滋味が豊かなことはよく知られ、とりわけ寒中に「薬食(くすりぐ)い」と称して食べていた。本物の鯨が美味で、滋養に富んでいればこその異称であったろう
時は流れて、南極海での日本の調査捕鯨に、国際司法裁判所が中止を命じた。思っていた以上に世界の目は厳しい。上訴はできず、報じる記事には「完敗」と太字の見出しがつけられた
提訴したのは、反捕鯨国のオーストラリアである。〈来世ではクジラがいいとカンガルー〉と、きのうの川柳欄にあった。かの国ではカンガルーを食する。鯨をめぐる論争はしばしば文化の衝突の様相を見せ、摩擦の黒煙を上げてきた
つまるところ、人間は動物への「残酷」なしには生きられない。そして往々に、自分たちの残酷は是とし、他者のそれは野蛮と見る。調査捕鯨は見直すとしても、古く「勇魚(いさな)取り」と呼ばれた沿岸捕鯨による地域の文化は守りたいものだ
〈をのをのの喰過(くいすぎ)がほや鯨汁〉。江戸期の俳人高井几董(きとう)が満腹顔を詠んだのは「山くじら」ではなく、本物の鯨のこと。鯨汁は冬の季語である。「食」の灯は外に言われて消すものではない。
街景色の中に看板がある と書き出して、歌川広重の絵に言及する。
話題は「山くじら」である。
山くじらは、猪の肉のことである。
それを、捕鯨の話題に結び付けて、カンガルーの肉食、そして人間の営みに目を向ける。
そして、地域の文化を守る思いを述べている
。~は の用法に、たくみに話題の展開が図られている。
この働きを、わたしに、引用の句、引用の詞として分析するものであるが、文章におけるこの機能は、さらに解析されなければならないだろう。
文章は、コラム天声人語からである。20140403
名所江戸百景の「びくにはし雪中」は
「山くじら」とは
滋味が豊かなことは
時は
世界の目は
上訴は
記事には
提訴したのは
かの国では
論争は
人間は なしには
自分たちの残酷は
他者のそれは
調査捕鯨は
地域の文化は
詠んだのは
鯨汁は
「食」の灯は
天声人語
2014年4月3日(木)付
雪のしんしんと降る街景色の中に、大きく「山くじら」と書いた看板がある。歌川広重が描いた名所江戸百景の「びくにはし雪中」は、この看板の文字がまず目に飛びこむ。ついでに疑問もわく。「山くじら」とは一体何だろう
山に鯨がいるはずもなく、猪(いのしし)などの肉をそう呼んだ。獣肉食がタブー視された時代の隠語である。忌みつつも滋味が豊かなことはよく知られ、とりわけ寒中に「薬食(くすりぐ)い」と称して食べていた。本物の鯨が美味で、滋養に富んでいればこその異称であったろう
時は流れて、南極海での日本の調査捕鯨に、国際司法裁判所が中止を命じた。思っていた以上に世界の目は厳しい。上訴はできず、報じる記事には「完敗」と太字の見出しがつけられた
提訴したのは、反捕鯨国のオーストラリアである。〈来世ではクジラがいいとカンガルー〉と、きのうの川柳欄にあった。かの国ではカンガルーを食する。鯨をめぐる論争はしばしば文化の衝突の様相を見せ、摩擦の黒煙を上げてきた
つまるところ、人間は動物への「残酷」なしには生きられない。そして往々に、自分たちの残酷は是とし、他者のそれは野蛮と見る。調査捕鯨は見直すとしても、古く「勇魚(いさな)取り」と呼ばれた沿岸捕鯨による地域の文化は守りたいものだ
〈をのをのの喰過(くいすぎ)がほや鯨汁〉。江戸期の俳人高井几董(きとう)が満腹顔を詠んだのは「山くじら」ではなく、本物の鯨のこと。鯨汁は冬の季語である。「食」の灯は外に言われて消すものではない。