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日本語教育の語彙20  語彙論 

2018-08-28 | 日本語教育

語彙の研究が語彙論として行われてきた。それは日本語教育の習得語彙に影響することであった。日本語教育の語彙論に、留学生用の日本語学習語彙を選定する動きがあり、実用的な語彙が対象となった。日本語学習に必要な語は、何をどういうふうに学習していけばよいか。その学習範囲にある語彙を2000語なり、収集しようとしたことから、基本語彙としての考え方が進められる。選定の結果にはおよそ6000語に及ぶ語数となって、日本語能力検定試験の語数は10000語を目標としたものになった。実際の検定には級別に分けられ、語数に段階的な学習を設けている。

留学生教育のための基本語彙表

日本語・日本文化(2号「留学生教育のための基本語彙表」) 樺島忠夫、吉田弥寿夫、大阪外国語大学研究留学生別科、昭和46年、1冊. 119頁.



http://db3.ninjal.ac.jp/SJL/txtview.php

語彙論の術語をめぐって
For Terminology in the Theory of Vocabulary.
著者 水谷静夫;
MIZUTANI Sizuo;
巻号 『国語学』第62集
刊行日 1965-09-30

一 語彙
 一・〇 暫定的定義 語の集合を語彙と謂ふ。これは暫定的定義である。二・六で述べ直す。
 一・一 用語法の紛れ 「語彙」とはどんな概念かを表立って問へば、通例は
 一定の範囲に用いられる語の総体〔『国語学辞典』語彙の項〕
 と答へる。いつもかやうな意味に使ってあれば問題はないが、間々「語」と同義に使はれる。例へば
 「よろよろ」で済むのに「蹌踉」といふむづかしい語彙を使ふ。
 これは
 森鴎外の語彙はむづかしい。
 と似て非なるものである。後者は森鴎外の使った語が総体にむづかしい事を言ってゐるが、前者でむづかしいと言ふのは国語の語の総体に属する或一つの語「蹌踉」についてである。
 これに関して次のやうな説明がある。
 「レジャーという語いは……」のように、一つ一つの単語をさして「語い」ということもある。このように、元来、複数のものをさしていたのが単数にうつることは、「子ども」「兵隊」のようにときどき見られる現象である。〔宮島等『語彙教育』三頁〕
 「兵隊」の例は「語彙」と軌を一にすると言へよう。〔尤も今日集合概念としては「軍隊」と謂ひ「兵隊」とは謂はないが。〕しかし「子ども」の例は適切でない。なぜなら、複数に関する語が単数的なものを指すに至る場合があるといふ説明は、「語彙」といふ語については誤りと認められるからである。単数とか複数とかが本来文法的概念であって、所謂外界の忠実な反映ではない事〔例、一般的立言としての“A dog is faithful.”〕を別にしても、「語彙」は言ふならば単数的概念である。この事を証明しよう。
 証明には、英語のやうに文法的数のカテゴリを持つ言語の表現を媒ちにすれば便利である。無論「語」は“word”に対応し「語彙」は“vocabulary”に対応してゐる。
 (1) 複数“words”は必ずしもvocabularyではない。例へば“Icouldn't catch several words in his speech”を“I couldn'tcatch his vocabulary in his speech.”に変へると、意味が変ってしまふ。
 (2) vocabularyが不定冠詞を取る例がある。従って複数形にする事も出来る。“An ordinary laborer is said to hav a voca-bulary of noly a few hundred words.”この例には“words”も共に現れてゐる事に注意。“comparing their vocabularies,…”英文法流に言へば、「語彙」はplural noun的ではなくcollectivenoun的である。その成員・構成要素が二つ以上ある事を、それが複数的である事と混同してはならない。さもないと“a set of tools”のやうな表現は矛盾を孕む事になってしまふ。
 右に似た不注意な用語例は他にも見受ける。
 いはゆる日本語の古典文学作品は、一体何語くらゐの語彙によって書かれてゐるか。……その語彙数の品詞別比率はいかなる状態にあるか。また、各作品に共通な語彙は一体何語くらゐあるか。〔大野『国語学』24揖〕
 この引用文中の「語彙数」は特定語彙を形作る語の数を意味し、幾つの異なる語彙があるかを問ふのではない。一つの語彙の言はば寸法・大きさ・規模が問題になってゐて、あの語彙この語彙といふまとまりの個数を取扱ってはゐない。ところで「学級数」と謂へば一学年に組が幾つあるかを問題にし、或学級を形作る生徒の数は指さない。個々の生徒を語に譬へれば、語彙に譬へられるのは学級である。
 一・二 「彙」即ち集合 用語法の紛れを批判しつゝ見て来た通り、「語彙」とは語の集合に対して用意した名の筈である。もともと「彙」字はハリネズミを指し〔爾雅・説文〕、そこから、ハリネズミが針を集めるやうにアツメル意、即ち類の意〔広韻・龍龕手鑑〕を生じたらしい。だから語彙は類を分ちて語を収めたもの、一種のword listまたは辞書態のものを指した。英語のvocabularyにしても、もとは同様だったらしい。こゝに語彙論が辞書編纂事業と表裏一体の観を呈した歴史的事情を見るが、いづれにせよ個々の語を集めて一つにまとめるといふ観点がある。〔具体物名の抽象物名化は、「史」“history”にも見受ける。今の場合と事情が似てゐる。〕具体か抽象かを伏せれば、語彙は語の集合だといふ考へを本来的のものと解してよからう。
 事実として語彙には二つ以上の語が属するが、単に二つ以上の語といふのではなく、それを一つのまとまりとして捉へて初めて「語彙」と呼ばれる。この「一つのまとまり」といふ所が大切である。幾つかのものを一まとまりと認める時、既に観点の水準が変ってゐる。もしかゝる水準の移行が言語理論として不要なら、「語彙」といふ術語は無用に帰する。しかしこれを必要とする積極的理由はある。例へば、「黒い靴」「黒靴」や「白い靴」「白靴」の意味は、それぞれに、区別しないでもいいが、「赤い靴」と「赤靴」とは区別しなければならず、却って「茶色い靴」を「赤靴」と区別しないでよい--といふ、現代日本語の事実がある。これを扱ふには、一方では「赤靴 黒靴 白靴 …」、他方また「赤靴 赤犬 … 赤札 …赤っ面 …」、更に「赤い 黒い 白い 茶色い …」といふやうな、語の系列、即ち一種のまとまりを考へない訳には行かないのである。
 一・三 暫定的定義の問題点 語の集合といふ規定の仕方を採ると、次に二つの問題が出て来る。第一に、その「語」とは何か。第二に、語を集めて一まとまりと考へると言ふが、その集め方・まとめ方は任意か。第一の問題は本稿の第二節に譲る。第二の問題は、上来繰り返し強調して来た集合といふ事に関係する。これを、引続いて述べよう。
 一・四 集合について 右に集合と言ふのは、日常の漠とした意味合ひでなく、数学用語としての集合である。この考へ方を我が国で最初に採ったのは、国立国語研究所報告13〔一九五八年〕の附録I、およびそれに先立って国語学会で発表した筆者の発表〔一九五五〕であらう。最近の言語理論には、集合論を陰に陽に基礎に据ゑるものが多い。文法の集合論的な扱ひの先駆はソ連の女流数学者KULAGINA〔一九五八〕だと見られるが、語彙には触れてゐないやうだから措いて、これも直接には語彙の論をなしてゐないが、近年言語学界に影響の大きいCHOMSKYの見解を紹介して置かう。
  フレーズ構造文法はφ→φの形の「書き替へ規則」の有限集合から成る。こゝにφとφとは記号の連系〔string〕である。それは特別な「初めの〔initial〕記号S(「文」を代表する)と、文の始まりや終りを指示する境目記号とを含む。文法記号の或ものは語や形態素を代表する。これらは“terminal vocabulary”を構成する。他の記号はフレーズを代表し、“nonterminal vo-cabulary”を構成する。〔Infor and Contr誌 二巻(一九五九)一四〇頁〕
 語彙に言及したのは右に引用した内容にほゞとゞまるが、この考へは先に筆者が述べたのと同一線上にある。〔序でながら右の論文で彼が示した言語の規定法は、オートマトン記述の仕方とのアナロヂーによると解せられる。我が国のCHOMSKY紹介者がこの点を見落してゐるやうだから、指摘だけして置く。〕
 数学に謂ふ集合〔set〕または類〔class〕は無定義術語〔「原始要素」とも。『計量国語学』10号の拙稿参照。〕ではあるが、しかしそれについて通念的な諒解が成り立ってゐる。かくかくしかじかの条件に合ふとか、これ・それ・あれ・…の範囲にあるとかいふ事が指定出来、しかもその個々のものが互に他とはっきり区別出来る場合に、それらを一まとめにして考へて、その全体を「集合」と呼んでゐる。条件を示す仕方が〔特定の〕集合の内包的定義、範囲を指摘する仕方が外延的定義と言はれる。そしてその集合を成す個々のものをその集合に属する「元」とか「要素」とか呼ぶ。集合には、その補集合を取る、二つの集合の共通部分を取る、合併集合を作る、直積を作るなどの演算、また部分集合・拡大集合等の包含関係が、形式的に定義されてゐて、それらを使ふ計算〔論理的変形〕が集合算である。〔かうした事を筆者は飽き飽きする程繰り返し述べて来た。大学の教養課程で教へてゐる筈のこれらの事が今なほ国語学者の常識とはなるに至らないのを、筆者は心から残念に思ふ。〕
 KULAGINAを始め多くの研究者が「語類〔word class〕」といふ術語を旧来の品詞に当る所に使ふが、この「類」ははっきりと集合論を踏まへた用法である。文法論の場で使ふから単に語類と言ってゐるが、精しくは文法論的語類といふ事になる。多くは構文論的規準を取って、数学に謂ふ類別の方法によってゐる。これはどちらかと言へば内包的定義に近い。外延的定義の例は、FRIESがfunctionwordsを扱った時のgroup〔この語は数学では全く別義〕の立て方に見出だせる。
 こゝで一・三に挙げた第二の問題を省みる。語の集め方・まとめ方は任意かといふ事であった。数学に謂ふ「集合」の概念を採るのだから、それに応じた枠がはめられ、全く勝手な訳ではない。しかしそれは形式的な拘束であって、言語の実質的な扱ひ方としてはやはりまだ任意である。〔数理論は言語学などそれを適用する分野に対して内政干渉をしない。そこに却って数学の応用可能性がある。〕実質的には任意だからこそ、言語研究者側の創意・工夫が発揮されるのである。形式的拘束はその創意・工夫をはっきりさせる為のルールと思へばよい。







大辞林 第三版の解説
ごいろん【語彙論】
言語研究の一部門。語彙について体系的に記述説明する学問。語構成論・語彙史論・計量語彙論・位相論その他を含む。



語彙論(読み)ごいろん(英語表記)lexicology
翻訳|lexicology

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
語彙論
ごいろん
lexicology

語彙を研究対象とする言語学の一部門。音韻や文法に比べて,語彙は要素としての単語の数が膨大で,しかも体系化が困難なため,研究が遅れている。従来の研究のなかでは,語構成の研究,ある国語のある時代の語彙の一部分をなす特殊語群 (外来語,隠語,学生語など) の記述が比較的盛んであった。最近は,ある時期の一国語の語彙全体を,語形,品詞などの文法的機能,意味などの観点から分類する試みがなされつつある。これらの結果を用いた語彙の全体像の記述,ならびに歴史的変化の研究は,今後にまたなければならない。


世界大百科事典内の語彙論の言及
【言語学】より

… 意味論は,ある単語を固定し,それによってどういうことがらがあらわされるかを見るわけであるが,逆に,あらわされる事象の側に一定の分野を設定し,その分野の事象をどのようにあらわしわけているかを研究することもできる。〈語彙論〉と呼ばれる研究方法は,こうしたやり方を基本にしたものといえる。なお,本質的にはこれまで述べたことと変わらないが,方言を対象とする分野を〈方言学〉と呼ぶことがある。…


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