Q:古文では「かなし」が「かわいい」、「やさし」が「恥ずかしい」とまったく意味が違っているのはなぜか。
異字同訓となる語のうち、表記の定着に伴い、用いられる語として変化して、別語のように意識されて来たためである。
易しい、優しい やさしい
安い、易い、廉い やすい
大辞林 第三版の解説
かなしい【悲しい・哀しい・愛しい】
( 形 ) [文] シク かな・し
一 心が痛んで泣きたくなるような気持ちだ。つらく切ない。 《悲・哀》 「母に死なれて-・い」 「誠意が通じなくて-・い」
二 (古くは「愛し」と書かれた)
①身にしみていとしい。切ないほどにかわいい。 《愛》 「何そこの児このここだ-・しき/万葉集 3373」
②心にしみるような趣だ。深い感興を感ずる。 「みちのくはいづくはあれど塩釜の浦こぐ舟の綱手-・しも/古今 東歌」
③見事だ。感心するほど立派だ。 「 - ・しくせられたりとて、見あさみけるとなん/著聞 17」
④残念だ。くやしい。 「物もおぼえぬくさり女に-・しう言はれたる/宇治拾遺 7」
⑤貧苦がつらい。 「ひとりあるせがれを行く末の楽しみに、-・しき年をふりしに/浮世草子・永代蔵 1」 〔切なさにつけ愛いとしさにつけ、感情が痛切に迫って心が強く打たれるさまを表す意が原義〕
[派生] -げ ( 形動 ) -さ ( 名 ) -み ( 名 )
かなし・い【悲しい/▽哀しい/▽愛しい】 の意味
出典:デジタル大辞泉
[形][文]かな・し[シク]
1 心が痛んで泣けてくるような気持ちである。嘆いても嘆ききれぬ気持ちだ。「友が死んで―・い」⇔うれしい。
2 人に1のような気持ちを起こさせる物事のさま。「―・い知らせ」「―・いメロディー」
3 (愛しい)㋐心に染みていとしい。かわいくてならない。
「柵 (くへ) ごしに麦食 (は) む小馬のはつはつに相見し児 (こ) らしあやに―・しも」〈万・三五三七〉
㋑心に染みておもしろい。強く心を引かれる。
「あしひきの八つ峰 (を) の雉 (きぎし) 鳴きとよむ朝明 (あさけ) の霞 (かすみ) 見れば―・しも」〈万・四一四九〉
㋒すばらしい。みごとである。
「―・しくせられたりとて、見あさみけるとなん」〈著聞集・一七〉
4㋐しゃくにさわるさま。悔しい。
「物も覚えぬ腐り女に、―・しう言はれたる」〈宇治拾遺・七〉
㋑我慢できないほど恐ろしい。つらい。
「先立つだにも―・しきぞかし」〈平家・三〉
㋒ひどく貧しい。
「釜の下へたく物さへあらず。さても―・しき年の暮れや」〈浮・胸算用・三〉
[派生]かなしがる[動ラ五]かなしげ[形動]かなしさ[名]かなしみ[名]
[補説]古くは、いとしい、かわいい、すばらしい、嘆かわしい、心が痛むなど、物事に感じて切に心の動くさまに広く使われたが、近代では、主に心の痛む意に用いられるようになった。
大辞林 第三版の解説
やさしい【優しい】
( 形 ) [文] シク やさ・し
一
①穏やかで好ましい。おとなしくて好感がもてる。 「気立ての-・い女の子」
②いやりがあって親切だ。心が温かい。 「 - ・い心づかい」
③上品で美しい。優美だ。 「 - ・い物腰の婦人」
二
①身もやせるような思いでつらい。他人や世間に対してひけ目を感ずる。恥ずかしい。 「世の中を憂しと-・しと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば/万葉集 893」
②心づかいをして控えめである。つつましやかである。 「されば重木は百八十に及びてこそさぶらふらめど、-・しく申すなり/大鏡 序」
③(節度をもって振る舞うさまが)殊勝である。けなげである。 「己が振舞-・しければ、一筋取らするぞ/保元 中」 〔動詞「やす(痩)」の形容詞形で、身もやせ細る思いだというのが原義。平安時代には 二 ② の意でも用いられ、つつましくしとやかなさまを優美と感ずることから 一 ③ の意が生じた。 二 ③ は優位の者がほめことばとして用いた。→やさしい(易)〕
デジタル大辞泉の解説
やさし・い【優しい】
[形][文]やさ・し[シク]《動詞「痩(や)す」の形容詞化で、5が原義》
1 姿・ようすなどが優美である。上品で美しい。「―・い顔かたち」「声が―・い」
2 他人に対して思いやりがあり、情がこまやかである。「―・く慰める」「―・い言葉をかける」
3 性質がすなおでしとやかである。穏和で、好ましい感じである。「気だての―・い子」
4 悪い影響を与えない。刺激が少ない。「地球に―・い自動車」「肌に―・い化粧水」
5 身がやせ細るような思いである。ひけめを感じる。恥ずかしい。
「なにをして身のいたづらに老いぬらむ年のおもはむ事ぞ―・しき」〈古今・雑体〉
6 控え目に振る舞い、つつましやかである。
「繁樹は百八十に及びてこそさぶらふらめど、―・しく申すなり」〈大鏡・序〉
7 殊勝である。けなげである。りっぱである。
「あな―・し、いかなる人にてましませば、味方の御勢は皆落ち候ふに」〈平家・七〉
[派生]やさしげ[形動]やさしさ[名]やさしみ[名]
学研全訳古語辞典
学研教育出版学研教育出版
かな・し
形容詞シク活用
活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ}
(一)【愛し】
①しみじみとかわいい。いとしい。
出典伊勢物語 二三 「限りなくかなしと思ひて、河内(かふち)へも行かずなりにけり」
[訳] この上なくいとしいとおもって、河内へも行かなくなった。
②身にしみておもしろい。すばらしい。心が引かれる。
出典新勅撰集 羇旅 「世の中は常にもがもな渚(なぎさ)漕(こ)ぐ海人(あま)の小舟(をぶね)の綱手(つなで)かなしも」
[訳] ⇒よのなかはつねにもがもな…。
(二)【悲し・哀し】
①切なく悲しい。
出典伊勢物語 二四 「女、いとかなしくて、しりに立ちて追ひゆけど、え追ひつかで、清水のあるところに伏しにけり」
[訳] 女はとても切なく悲しくて、(男の)後ろについて追って行くが、追いつくことができないで、清水のあるところに倒れてしまった。
②ふびんだ。かわいそうだ。
出典竹取物語 かぐや姫の昇天 「翁(おきな)をいとほし、かなしと思(おぼ)しつることも失せぬ」
[訳] 翁を気の毒で、ふびんだとお思いになっていた気持ちも(かぐや姫の心から)消えてしまった。
③くやしい。残念だ。しゃくだ。
出典宇治拾遺 七・二 「物もおぼえぬ腐り女にかなしう言はれたる」
[訳] 何の教養もないつまらない女にくやしくもいわれたことよ。◇「かなしう」はウ音便。
④貧しい。生活が苦しい。
出典諸国ばなし 浮世・西鶴 「これはかなしき年の暮れに、女房の兄、半井清庵(なからゐせいあん)と申して」
[訳] これは貧しい年の暮れに、妻の兄で半井清庵といいまして。
学研全訳古語辞典
学研教育出版学研教育出版
やさ・し 【恥し・優し】
形容詞シク活用
活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ}
①身も細るほどだ。つらい。肩身が狭い。消え入りたい。たえがたい。
出典万葉集 八九三
「世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」
[訳] ⇒よのなかを…。
②気恥ずかしい。きまりが悪い。
出典竹取物語 御門の求婚
「昨日今日御門(みかど)ののたまはむことにつかむ、人聞きやさし」
[訳] ほんの昨日今日、帝(みかど)がおっしゃることに従うとしたら、世間への手前きまりが悪い。
③遠慮がちだ。慎み深い。礼節がすぎる。
出典大鏡 師尹
「また人の奉り代ふるまでは置かせ給(たま)ひて、とり動かすことはせさせ給はぬ。あまりやさしきことなりな」
[訳] また、ほかの人が贈り物をさしあげて、それと代えるまでは置かせなさって、取り片付けることはおさせにならない。あまりに礼節がすぎることだな。
④しとやかだ。上品だ。優美だ。
出典源氏物語 蜻蛉
「いと若やかに愛敬(あいぎやう)づき、やさしきところ添ひたり」
[訳] とても若々しくかわいらしく、しとやかなところが加わっている。
⑤けなげだ。殊勝だ。感心だ。
出典平家物語 七・実盛
「あなやさし。…み方(かた)の御勢(おんせい)は皆落ち候ふに、ただ一騎残らせ給ひたるこそ優(いう)なれ」
[訳] なんと殊勝なことよ。…味方の兵士は皆逃げましたのに、ただ一騎残っていらっしゃるのはりっぱなことだ。
参考現代語の「やさ(易)しい」もこの語から生じた形で、同語源である。
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第四章 言語変化の謎
Q:「やばい」は「とてもすごい」という意味に変化している。同様に「気が置けない」や「役不足」なども意味が変わってしまっている。このように変化する理由は何か。
Q:古文では「かなし」が「かわいい」、「やさし」が「恥ずかしい」とまったく意味が違っているのはなぜか。
Q:「雰囲気」は「ふいんき」、「シミュレーション」は「シュミレーション」と言ってしまう人が増えたのはなぜか。
Q:ら抜き言葉はなぜ起こるのか。なぜ誤用として嫌われるのか。
Q:「全然大丈夫」のような矛盾した表現があるのはなぜか。
第五章 書き言葉と話し言葉の謎
Q:平仮名、片仮名というが、なぜ「仮名」というのか。
Q:なぜ平仮名と片仮名と二種類作る必要があったのか。
Q:「りんご」は「リンゴ」と表記されることがあるが、「黒板」は「コクバン」と書くことはない。なぜか。
Q:銀という漢字は金+良、銅という漢字は金+同なのはなぜか。銀は金より良かった? 銅は金と同じように見えた?
Q:古文は、古文の文章のまま話せたのか。
Q:「は」「へ」と書くのに、「わ」「え」と読むのはなぜか。
Q:「地」は「ち」なのに、「地震」は「じしん」と書くのはなぜか。一方で「縮む」は「ちぢむ」と書くのはなぜか。
Q:なぜ書き言葉は変化しにくく、話し言葉は変化しやすいのか。
Q:なぜ男言葉と女言葉があるのか。
異字同訓となる語のうち、表記の定着に伴い、用いられる語として変化して、別語のように意識されて来たためである。
易しい、優しい やさしい
安い、易い、廉い やすい
大辞林 第三版の解説
かなしい【悲しい・哀しい・愛しい】
( 形 ) [文] シク かな・し
一 心が痛んで泣きたくなるような気持ちだ。つらく切ない。 《悲・哀》 「母に死なれて-・い」 「誠意が通じなくて-・い」
二 (古くは「愛し」と書かれた)
①身にしみていとしい。切ないほどにかわいい。 《愛》 「何そこの児このここだ-・しき/万葉集 3373」
②心にしみるような趣だ。深い感興を感ずる。 「みちのくはいづくはあれど塩釜の浦こぐ舟の綱手-・しも/古今 東歌」
③見事だ。感心するほど立派だ。 「 - ・しくせられたりとて、見あさみけるとなん/著聞 17」
④残念だ。くやしい。 「物もおぼえぬくさり女に-・しう言はれたる/宇治拾遺 7」
⑤貧苦がつらい。 「ひとりあるせがれを行く末の楽しみに、-・しき年をふりしに/浮世草子・永代蔵 1」 〔切なさにつけ愛いとしさにつけ、感情が痛切に迫って心が強く打たれるさまを表す意が原義〕
[派生] -げ ( 形動 ) -さ ( 名 ) -み ( 名 )
かなし・い【悲しい/▽哀しい/▽愛しい】 の意味
出典:デジタル大辞泉
[形][文]かな・し[シク]
1 心が痛んで泣けてくるような気持ちである。嘆いても嘆ききれぬ気持ちだ。「友が死んで―・い」⇔うれしい。
2 人に1のような気持ちを起こさせる物事のさま。「―・い知らせ」「―・いメロディー」
3 (愛しい)㋐心に染みていとしい。かわいくてならない。
「柵 (くへ) ごしに麦食 (は) む小馬のはつはつに相見し児 (こ) らしあやに―・しも」〈万・三五三七〉
㋑心に染みておもしろい。強く心を引かれる。
「あしひきの八つ峰 (を) の雉 (きぎし) 鳴きとよむ朝明 (あさけ) の霞 (かすみ) 見れば―・しも」〈万・四一四九〉
㋒すばらしい。みごとである。
「―・しくせられたりとて、見あさみけるとなん」〈著聞集・一七〉
4㋐しゃくにさわるさま。悔しい。
「物も覚えぬ腐り女に、―・しう言はれたる」〈宇治拾遺・七〉
㋑我慢できないほど恐ろしい。つらい。
「先立つだにも―・しきぞかし」〈平家・三〉
㋒ひどく貧しい。
「釜の下へたく物さへあらず。さても―・しき年の暮れや」〈浮・胸算用・三〉
[派生]かなしがる[動ラ五]かなしげ[形動]かなしさ[名]かなしみ[名]
[補説]古くは、いとしい、かわいい、すばらしい、嘆かわしい、心が痛むなど、物事に感じて切に心の動くさまに広く使われたが、近代では、主に心の痛む意に用いられるようになった。
大辞林 第三版の解説
やさしい【優しい】
( 形 ) [文] シク やさ・し
一
①穏やかで好ましい。おとなしくて好感がもてる。 「気立ての-・い女の子」
②いやりがあって親切だ。心が温かい。 「 - ・い心づかい」
③上品で美しい。優美だ。 「 - ・い物腰の婦人」
二
①身もやせるような思いでつらい。他人や世間に対してひけ目を感ずる。恥ずかしい。 「世の中を憂しと-・しと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば/万葉集 893」
②心づかいをして控えめである。つつましやかである。 「されば重木は百八十に及びてこそさぶらふらめど、-・しく申すなり/大鏡 序」
③(節度をもって振る舞うさまが)殊勝である。けなげである。 「己が振舞-・しければ、一筋取らするぞ/保元 中」 〔動詞「やす(痩)」の形容詞形で、身もやせ細る思いだというのが原義。平安時代には 二 ② の意でも用いられ、つつましくしとやかなさまを優美と感ずることから 一 ③ の意が生じた。 二 ③ は優位の者がほめことばとして用いた。→やさしい(易)〕
デジタル大辞泉の解説
やさし・い【優しい】
[形][文]やさ・し[シク]《動詞「痩(や)す」の形容詞化で、5が原義》
1 姿・ようすなどが優美である。上品で美しい。「―・い顔かたち」「声が―・い」
2 他人に対して思いやりがあり、情がこまやかである。「―・く慰める」「―・い言葉をかける」
3 性質がすなおでしとやかである。穏和で、好ましい感じである。「気だての―・い子」
4 悪い影響を与えない。刺激が少ない。「地球に―・い自動車」「肌に―・い化粧水」
5 身がやせ細るような思いである。ひけめを感じる。恥ずかしい。
「なにをして身のいたづらに老いぬらむ年のおもはむ事ぞ―・しき」〈古今・雑体〉
6 控え目に振る舞い、つつましやかである。
「繁樹は百八十に及びてこそさぶらふらめど、―・しく申すなり」〈大鏡・序〉
7 殊勝である。けなげである。りっぱである。
「あな―・し、いかなる人にてましませば、味方の御勢は皆落ち候ふに」〈平家・七〉
[派生]やさしげ[形動]やさしさ[名]やさしみ[名]
学研全訳古語辞典
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かな・し
形容詞シク活用
活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ}
(一)【愛し】
①しみじみとかわいい。いとしい。
出典伊勢物語 二三 「限りなくかなしと思ひて、河内(かふち)へも行かずなりにけり」
[訳] この上なくいとしいとおもって、河内へも行かなくなった。
②身にしみておもしろい。すばらしい。心が引かれる。
出典新勅撰集 羇旅 「世の中は常にもがもな渚(なぎさ)漕(こ)ぐ海人(あま)の小舟(をぶね)の綱手(つなで)かなしも」
[訳] ⇒よのなかはつねにもがもな…。
(二)【悲し・哀し】
①切なく悲しい。
出典伊勢物語 二四 「女、いとかなしくて、しりに立ちて追ひゆけど、え追ひつかで、清水のあるところに伏しにけり」
[訳] 女はとても切なく悲しくて、(男の)後ろについて追って行くが、追いつくことができないで、清水のあるところに倒れてしまった。
②ふびんだ。かわいそうだ。
出典竹取物語 かぐや姫の昇天 「翁(おきな)をいとほし、かなしと思(おぼ)しつることも失せぬ」
[訳] 翁を気の毒で、ふびんだとお思いになっていた気持ちも(かぐや姫の心から)消えてしまった。
③くやしい。残念だ。しゃくだ。
出典宇治拾遺 七・二 「物もおぼえぬ腐り女にかなしう言はれたる」
[訳] 何の教養もないつまらない女にくやしくもいわれたことよ。◇「かなしう」はウ音便。
④貧しい。生活が苦しい。
出典諸国ばなし 浮世・西鶴 「これはかなしき年の暮れに、女房の兄、半井清庵(なからゐせいあん)と申して」
[訳] これは貧しい年の暮れに、妻の兄で半井清庵といいまして。
学研全訳古語辞典
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やさ・し 【恥し・優し】
形容詞シク活用
活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ}
①身も細るほどだ。つらい。肩身が狭い。消え入りたい。たえがたい。
出典万葉集 八九三
「世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」
[訳] ⇒よのなかを…。
②気恥ずかしい。きまりが悪い。
出典竹取物語 御門の求婚
「昨日今日御門(みかど)ののたまはむことにつかむ、人聞きやさし」
[訳] ほんの昨日今日、帝(みかど)がおっしゃることに従うとしたら、世間への手前きまりが悪い。
③遠慮がちだ。慎み深い。礼節がすぎる。
出典大鏡 師尹
「また人の奉り代ふるまでは置かせ給(たま)ひて、とり動かすことはせさせ給はぬ。あまりやさしきことなりな」
[訳] また、ほかの人が贈り物をさしあげて、それと代えるまでは置かせなさって、取り片付けることはおさせにならない。あまりに礼節がすぎることだな。
④しとやかだ。上品だ。優美だ。
出典源氏物語 蜻蛉
「いと若やかに愛敬(あいぎやう)づき、やさしきところ添ひたり」
[訳] とても若々しくかわいらしく、しとやかなところが加わっている。
⑤けなげだ。殊勝だ。感心だ。
出典平家物語 七・実盛
「あなやさし。…み方(かた)の御勢(おんせい)は皆落ち候ふに、ただ一騎残らせ給ひたるこそ優(いう)なれ」
[訳] なんと殊勝なことよ。…味方の兵士は皆逃げましたのに、ただ一騎残っていらっしゃるのはりっぱなことだ。
参考現代語の「やさ(易)しい」もこの語から生じた形で、同語源である。
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第四章 言語変化の謎
Q:「やばい」は「とてもすごい」という意味に変化している。同様に「気が置けない」や「役不足」なども意味が変わってしまっている。このように変化する理由は何か。
Q:古文では「かなし」が「かわいい」、「やさし」が「恥ずかしい」とまったく意味が違っているのはなぜか。
Q:「雰囲気」は「ふいんき」、「シミュレーション」は「シュミレーション」と言ってしまう人が増えたのはなぜか。
Q:ら抜き言葉はなぜ起こるのか。なぜ誤用として嫌われるのか。
Q:「全然大丈夫」のような矛盾した表現があるのはなぜか。
第五章 書き言葉と話し言葉の謎
Q:平仮名、片仮名というが、なぜ「仮名」というのか。
Q:なぜ平仮名と片仮名と二種類作る必要があったのか。
Q:「りんご」は「リンゴ」と表記されることがあるが、「黒板」は「コクバン」と書くことはない。なぜか。
Q:銀という漢字は金+良、銅という漢字は金+同なのはなぜか。銀は金より良かった? 銅は金と同じように見えた?
Q:古文は、古文の文章のまま話せたのか。
Q:「は」「へ」と書くのに、「わ」「え」と読むのはなぜか。
Q:「地」は「ち」なのに、「地震」は「じしん」と書くのはなぜか。一方で「縮む」は「ちぢむ」と書くのはなぜか。
Q:なぜ書き言葉は変化しにくく、話し言葉は変化しやすいのか。
Q:なぜ男言葉と女言葉があるのか。