今年も近郷の「藤」を見に行く。
藤は、 ”見捨しやんすな枯木ぢやとても 藤が絡りや花が咲く”
の如く、他の木に巻きつく特異な木である。
そんなことから、歌舞伎舞踊の「藤娘」では、
藤の絡んだ松の大木は、松が男を、藤が女を象徴している。
ストーリは、藤の絡んだ松の大木の前に藤の枝を手にした藤の精が、
意のままにならない男心を切々と嘆きつつ踊る。
やがて酒に酔い興にのって踊るうちに遠寺の鐘が鳴り夕暮れを告げると、
娘も夕暮れとともに姿を消す、というものである。
また、謡曲でも「藤」の演目がある。
青葉に見ゆる紅葉川 そなたとばかりしら雲の
遥々行けば暮れそむる・・・
都の僧が、加賀の国から信濃の善光寺に参る途中で今を盛りの藤の花を眺め、わが身の零落を嘆いた古歌を吟じていたところ、どこからともな里女が現れて、ここは藤の名所である旨を告げ立ち去る。やがて夜も更け眠りについた僧の枕元に花の精が再び現れ、藤花賛美の歌舞を奏し、やがて朝霧ののなかに消え入ると言う幻想的な曲目である。
今が盛りの藤は、
”宵寝枕のまだ寝が足りぬ 藤に巻かれて寝てみたい”
木でもある。