母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

青い空の下で

2023年10月29日 | 

青い空の下で風がそよぎ花が咲く

赤い色は命の色
黄色は裏切りの色
とヒトは言う
何も語らず花は咲き風に揺れる

秋の空は高く青く
野原は眠くなるように平和だ
清涼な空気の中で咲き乱れる花たち
生きる喜びの形と色に溢れる花たち

世界のどこかで
花の匂いも忘れ争う人々
哀しみを痛みを絶望を
この花たちはひそかに知っている

世界中に同じ青い空が広がっている

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

いにしへ 日本の慕情 

2022年10月26日 | 

ふるさとの

          三木 露風


ふるさとの 小野の木立に
笛の音の うるむ月夜や

 おとめごは 熱き心に
 そをば聞き なみだ流しき

  十年(ととせ)へぬ おなじこころに
  君泣くや 母となりても


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本の愛の詩人 室生犀星 

2022年10月06日 | 
   

    永遠にやって来ない女性
   

           室生 犀星


秋らしい風の吹く日
柿の木のかげのする庭にむかひ
水のやうに澄んだそらを眺め
わたしは机にむかふ
そして時時たのしく庭を眺め
しほれたあさがほを眺め
立派な芙蓉の花を讃めたたへ
しづかに君を待つ気がする
うつくしい微笑をたたへた
鳩のような君を待つのだ
柿の木のかげは移つて
しつとりした日ぐれになる
自分は灯をつけて また机に向ふ
夜はいく晩となく
まことにかうかうたる月夜である
おれはこの庭を玉のやうに掃ききよめ
玉のやうな花を愛し
ちひさな笛のやうなむしをたたへ
歩いては考へ
考へてはそらを眺め
そしてまた一つの塵をも残さず
おお 掃ききよめ
きよい孤独の中に住んで
永遠にやつて来ない君を待つ
うれしさうに
姿は寂しく
身と心とにしみこんで
けふも君をまちまうけてゐるのだ
ああ それをくりかへす終生に
いつかはしらず祝福あれ
いつかはしらずまことの恵あれ
まことの人のおとづれあれ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

花の香

2022年05月18日 | 
花にはほのかに香りあり
心に残る香りあり
花の香りはいのちの香
いきものの
命の源から出るもの
命の源はこの宇宙の
うつくしく優しき永遠のもの

生きる幸せを知らせるものに
こころ離れたときは不幸せ

香りはひそかで謙虚である
この天上の香
心和む
花の香を争う人に届けたい
一輪の白い花を届けたい
荒ぶる人が人を取り戻す花の香り
この香り一輪の花
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

五月の猫みどりの庭

2021年05月08日 | 
五月の庭はみどりの庭
黒猫の好きな花の庭
スズランが咲き牡丹が咲き
山吹色に日が暮れて
群青色に山暮れて
窓に明かりが灯るとき
生きものはみな今日の憩いの湯気のなか
安らぎの寝息をたてるのです
ゆらゆら夢の中に落ちるのです

五月の家はみどりの庭
幸せに溢れ
色いっぱいの季節のなかで
黒猫の散歩道風通る
みどりの庭

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

秋のオリオン

2019年10月13日 | 
大嵐の去った夜のプルシアンの空
白い雲が幾つかぼんやり浮かび
昼のように明るい空に
金色の月が傾いた

東の空から現れるオリオンは
寒い冬の夜を明るく飾る

星たちは遠い遠い
はるかな宇宙の果てから
傷ついた星に友情の光を届けてくれる
人の寝静まった夜の空
この永すぎる時のなかで
何を語りかけてきていたのでしょう

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブラック珈琲とミルクをー越路吹雪ー

2018年11月29日 | 
明るい陽の差し込む朝の部屋で
ブラック珈琲とミルク
クロワッサンと少しのサラダに少しのハム
いつからか規りになった簡素な朝の食事はあなたの言葉から

あなたはいつも太陽のように輝き
この世で一番といえる輝くステージを見せてくれたのに
まだ未来を持ちながらはらり木の葉が散るように
いきなりこの世から消え去った
沢山の哀しみが劇場に溢れ漂い
ひとはその歌声と姿を求め彷徨った

残して去る日愛する夫に
“つねみさん ブラック珈琲とミルクをー”
朝食を気にして最後に残した一言

夫はそれから7年後
奇しくも妻の去った年齢となった年に
まだ若すぎる音楽家の生涯を終えた
天の計らいのふたりの人生の扉が閉まっても
昇天してなおそれは輝き続け
人々の心に残り続ける
残された未来が永いほどに
人は心にその人を刻みつける
残影が永く深く人々に彫られてゆく

乙女たちに大人の女の心意気を教え
生きる楽しみの色彩を流し
シャンソンのメロディーを教えて去った
コーちゃん 忘れられぬ歌声 

スズラン咲くフランス花のパリ
マロニエの道春秋の匂い心地よく漂わせ
いのちに届く多くの想い出を人の心に残し
風に乗り去った愛しい面影 永遠のステージ

あなたの去った年齢を遙かに超え毎朝の
習慣となったブラック珈琲とミルク

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

母の声・秋

2018年10月10日 | 
白と赤のコスモス咲く広い
秋の庭で母たちの声がする
鈴虫が鳴き涼しい風が寒くなると
聞こえてきたやさしい声
我が子を呼ぶいつもの声
当たり前に聞いてた母の声
日常の雑器のつましいかたち
台所の花瓶に差した野花
日の光のなか見慣れた風景
秋が深むと背なかに載せ加えてくれた上着
温かい母たちの子らを呼ぶ声

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風の電話

2014年07月18日 | 
夏草繁る廃墟の原に立つ
「風の電話」

風は海風を運び 太陽の力を受け止め 生き物を育て
草に覆われた広い原に
ダイヤルする人をを待つ
「風の電話」


 あなた お元気ですか
 私はこの故郷を仮に離れて
 今も元気で生きていますよ
 遠い街に住んでも
 貴方と暮らしたこの海沿いの街をいつも思い出し
 いつもまた戻りたいと思っています
 茫々のはらっぱになっても
 このまちはあなと生きたふるさと
 大切な町 思い出あふれる土地

ダイヤルを回せば
海、山の風の音がするだけ
それでも電話を握りしめると
愛しい声がどこからか聞こえてくる

 安心おし 私はそばに居て
 何時もお前をみつめているよ

胸張り裂け
涙があふれるその声

 これから私
 何処に住んだらいいのでしょうか
 どう生きればいいか
 教えて守って下さい独りきりで
 今は話す人もいない


でもここにきて
風の電話を躊躇いつつかけると
心の中に少しだけ
涼しい風が吹き悩ましい淋しい日々を忘れられる
ひとり生きて行かねばならぬ人々に
草むらを潮風が吹き渡り
遠くなった日日と同じ
夏の太陽が輝く

夏草繁るはらっぱに立つ
悲しみ癒す「風の電話」



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

愛加那の島

2014年06月03日 | 
黒潮の海に浮ぶ島に
人の歴史は静かに眠る
墓石は初夏の強い日差しの中
凛と立っていた
墓石に刻まれたその人の名は 龍 愛子 郷士の娘愛加那
加那 は愛しい人の呼び名という

薩摩の侍の流鏑の地は
素朴な島人が今も住む小さき美しき島 奄美

島人らは大男を初め恐れていたが 
心の大きさにいつか惹かれて
二人の婚礼の祝いは賑やかだったが三年後
時代はまたこの侍を必要として本土に連れ去った
海を隔て二人が会うことは二度となかったという

島妻は
やがて2人の吾が子も引き渡し
二部屋の家に独り暮らし 
吾子らの手紙を唯一の楽しみとし
明治も固まるその三十五年
六十五歳でひっそりみまかった
豪雨の野良に出かけて倒れそのまま
静かにこの世から去ったという
愛加那は強く聡明な島娘だった

明治も遠い今もなお
奄美と鹿児島とは伝説となった二人の男女の
メモリアルを共にすることもなく
島人の 愛加那への思いはあまりにも深い

心広き侍 西郷南州は国の未来を信じ
歴史の波間を薩摩に散ったが
短き愛の日々をすごした青き島この小家屋に今も心を寄せ
苦難の日をともに過ごした愛しい人の墓を
遠くから守り続けているだろう

奄美は
四方を青い海に囲まれ真紅の花を咲かせる島
愛切な思い出を語る赤い花を
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

一ぱいの水 ー献水ー

2013年08月10日 | 
夾竹桃の花が咲き 赤いカンナの花開く
いつもの夏の風景があって
その青い空の下にはいつもの暮らしと多くの職場
それぞれの家族が戦下を懸命に生きていた
つましくささやかな暮らしに 学校に 職場に
一瞬の炸裂の光線がすべてを奪った 狂おしい夏―

コップに注がれた氷浮く水のありがたさ
いっぱいの水
その水を誰もがほしいと願い
誰もがもっと生きていたいと願い
しかしその願いかなわず
あらかたが 渇き傷ついた体の痛みに苦しみながら
命を落とし世を去ったその熱い暑い哀しい夏の幻が
平和にそだち豊かさに慣れた私の胸を刺し
いっぱいの水を飲むことをためらわせた

二度と起こさせない
二度と繰り返させない
何十年誓いながらも時の経過と想像する力の喪失
哀しい記憶を遠ざけさせてはならぬ

一ぱいの水 渇きの夏の咽喉に沁み渡る
ただ一ぱいの水
いまこの水のあることの有り難さを
沢山の戦争の犠牲の市民の魂が今年も知らせにやって来る
日本の夏 日本の空 

あの日望んだ涼しいただ一ぱいの水を 
灼熱に消えていったあなたに 胸に刻むあの日のあなたがたすべての
咽喉に捧げます

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

クローバー

2013年05月22日 | 
何もなくなった村の大地のそこここに
クロバーの葉が茂る

五月の太陽はだまって
彼らの上に光を投げている

クローバーの健康なみどり色は
大きく開き花の出番を待っている

クローバーの茂る土のうえには
人の住む家家が建っていた
笑い声や話し声や
子供たちの高い声が響いていた
豊かな土は顔を出しても
彼らの姿はどこにもない

クローバーは春のいろ
海の色は生きもの色に揺れ
空は明るい薄色をして広がっている

村はメインストリートを亡くし
生活の痕跡を失い
家の土台だけ四角に白く残り
陽の下で戸惑っている
青空の下で押し黙っている

廃墟のような大地に
今年の草草が風に揺れる
儚なさとも虚しさとも違う 静けさだけがある村


遅い春の温む大気
眠るような穏やかな海
ここに大きな悲しみ一つなかったように
怒りを地中にかくすかのように
音を失くした村は眠っている

村びとたちのいなくなった
海辺の村に
クローバーの群れが風にそよいでいる
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする