宿場の晩秋 2022年11月18日 | 山 秋来れば空高く 水清らかに山深く 旅人の宿りの場 蜜垂れるやわらかき餅をはむ 在りし日の人の往き交うを思ひ 地酒汲み 山の獣の肉を焼き 風の音を近く耳にし 小寒い夜を寝明かす 辺りは漆黒にも空に星 人は皆眠りにつき人恋し 旅の宿晩秋
牛首の麓から 2015年08月08日 | 山 マツムシソウにみつ蜂の群れたひろい草はら 牛首山からいきなり吹き下ろす風に 帽子を盗られてあわてた 私たちの高原は 人の知らないお花畑を隠していた 「地元の人も知らないところ」 カノコユリやワレモコウ、ナデシコに黄スゲらとりどりの野の花が 生きもののように首を振るなだらかな斜面に わたしたち兄弟三人は 子供のころの姿に戻ってはしゃいでいた日 「飯盛山へ続くあれは白い道」 「あの曲線が釜無の流れ」 「こんもりと小さいのは旭山」 瑞牆山も金峰もすぐそこ そして甲斐駒の峰はきりりと聳え 真昼の昼下がり人の気配薄いこの秘密の草はらに立って わたしたちはその時 まるでふるさとを抱え込んだようにうっとりと うねうねと続く河川 深緑の樹林とやまなみと 湧き起こり流れてゆく雲に見とれていた
冬山 2013年02月03日 | 山 大空をふちどる山々はいまプラチナに輝き おおらかに切り立つ連山 いのちの褶曲にせめぎあう 南アルプスの峰 堅いプラチナの輝き 無機質な地球の皺 突起 歌舞伎役者の舞台上の勢ぞろい 団十郎の見栄 肩のかしぎ 風が一瞬止まった朝の山里 ものみな凍る真冬の大気に 山々は静止する 朝の光を受け 毘沙門の太刀を抱く如き厳しい 輝く峰々は 何億年もの年輪も素知らぬ顔で短い生き物らの生を眺め続ける