母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

白秋の詩 落葉松

2023年11月06日 | 

    落 葉 松

          北原 白秋

からまつの林を過ぎて 
からまつをしみじみと見き
からまつはさびしかりけり
たびゆくはさびしかりけり

からまつの林を出でて
からまつの林にいりぬ
からまつの林にいりて
また細く道は続けり

からまつの林の奥も
わが通る道はありけり
霧雨のかかる道なり
山風のかよう道なり

からまつの林の道は
われのみか ひともかよいぬ
ほそほそと通う道なり  
さびさびといそぐ道なり

からまつの林を過ぎて
ゆえしらず歩みひそめつ
からまつはさびしかりけり
からまつとささやきにけり
    
からまつの林を出でて
浅間嶺にけぶり立つ見つ
浅間嶺にけぶり立つ見つ
からまつのまたそのうえに
 
からまつの林の雨は
さびしけどいよよしずけし
かんこ鳥鳴けるのみなる
からまつの濡るるのみなる

世の中よあわれなりけり
常なけどうれしかりけり
山川に山がわの音
からまつにからまつのかぜ
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インドティ

2015年06月26日 | 
煙のように 靄のように
六月の雨降る朝

珈琲豆もあくびをする日は
スパイスたっぷりになまミルク
インドの紅茶をのみましょう

ターバン巻いた男たち
口ひげ生やしたホテルマン
銀のお盆に載せて運ぶティポット
ミルクのお茶は
疲れた咽喉にぐいぐいしみこんだ

ポットのお茶を水筒にいただき1ルピー30円
乾いた大地の異国は
首都にリスや猿がのんびり歩き
空港さえ厩舎の匂いがする
動物たちの天国だった


水蒸気に煙るわたしたちの国は
いま水の花は咲いても息苦しい国
胸騒ぎするほど正確な時計の動く清潔すぎる国

せめて北の柵のなかのアイライン牛 ジャージーの
ミルクをいただき
シナモンにカルダモン
ジンジャーにクローブ、黒コショウ―
ナツメグも入った子鍋でお茶の葉を煮立て
元気の源のインドティ

テーブルの上のコップなどに
青いつゆ草を2輪も挿して






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ミラノの白い霧

2015年01月27日 | 
冬のミラノの朝の街を包む霧
冷たい石畳の通りを人影は黙って歩み
コ―トのシルエットが動く墨絵のようだ
石の建物の間を静かに過ぎるひとりの紳士の
靴音が早朝の静寂をしばし破る

何処から立ち現われるかこの深い霧は
中世の尖塔聳える石の町をすっぽりと包み
濃いミルク色に
すべての景色を描き変えるのだ

遠来の旅人をもやる街中に
非情に置き去りにする霧
西洋の未知の幻をはからずも引き寄せる霧
立ち込めた霧の中では
右も左も白く沈み 何も見えない

夢幻に囲まれた異国の都市
その通りの向こうにかすかに見える
木立の間からいきなり黒いマントを翻し
白い髭老人ダビンチが
歩み寄って来る気がする

昼は雪の山を彼方に臨む
神秘の青い彩色都市ミラノの朝を包む
白い美しい 冬霧



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