母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

くりの実

2017年10月29日 | ふるさと
セピア色の艶を持つきれいな木の実が
はじけて落ちてくるのは
秋の陽の温もりのせいです

セピア色の秋の木の実が
黄金色に熟れて甘いのは
大気がしっとりと美味だからです

セピア色の木の実を煮る湯気のなかで
皮をむくとき
秋は じっくりと実って
木の葉焚く煙の匂いに幼い日の
にぎやかだった茶の間の思い出がやってきます
けむり色の セピア色の匂いです


    

     『清水みどり詩集 黒猫』東京文芸館 1997 より
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

紫紬の細帯の

2017年10月09日 | 歴史
紫紬の細い帯
ばあさまの形見の糸

大きな玉繭を煮て糸にとり
染め上げつむいでとんからり
七人の子を育てながらとんからり
逢ったことのないばあさまを
一本の細帯に偲ぶとき
秋は昔を語り出す

長火鉢の熾
長いキセルで吸う煙草
頭のてっぺんそり上げて
二百三高地の髪型に
たすきを掛けて山の家
蔵の二階でとんからり
機織りしていたその時代

時はしずかに流れ沢山の人が
長い歳月かけて育った家にもう誰も居ない
棲む人の居なくなった思い出の家に
秋は今年もやって来る
秋海棠がこぼれ咲き 
柿の実が枝に残り紅く光る秋

単衣の着物が終わると
温い紬の季節が来る
もう誰も居ない家静かな蔵
ちいさな歴史は星になる



コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする