いつかきっときみを
温泉に連れてゆこうまだ若い
きみは溌剌として疲れも知らず
温泉のありがたさも判るまいから
ここしばらくは陽のあたる
風通しのいいテラスの窓辺で気持ちよく
万歳スタイルで眠るがいいさ
きっときみを
連れていくよ 温泉へ
ぎりぎり老いた父母の
晩年を支えてくれたのは
子でもなく孫でもなく
庭に咲く季節の花々と
黒猫きみなのだった と
みんなが気付く日は来るから
そしてきみのあのフットワーク
敏捷でほれぼれとした
足腰だって弱まって
高い机に飛び乗ることもままならず
静かに老いを迎える時も来るだろうから
その時はやっと同輩になって
見晴らしのいい屋上の
露天風呂を借り切って
富士を眺めていっぱいやるのも悪くない
またたび酒は台所の
シンクの下にたっぷりともう造ってあるし
そしてたぶん
その時にはいなくなっているだろう
じじ ばばの
思い出話をはなそうね
岩魚の塩焼きをしゃぶりながら
黒猫きみを連れていくよいつかきっと
私たちの温泉へ
車に乗せて
フードもトイレも一緒にね
(清水みどり詩集『黒猫』 1997年 東京文芸館 より)