母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

花の夏

2017年07月25日 | 
それは遠い夏
若かった父さんが庭を花で埋め私たちに
蝶や虫を仲間にさせた

白百合の丈高く 
黒揚羽蝶が飛び交った日

目眩するようじりじりと
耳の鼓膜に残る生き物たちのざわめき
眠っても眠っても子供の頭から消えない
光る空白い入道雲 高原の大気 土と水の匂い

思い出は花垣に動く父さんの手の厚さ花の群れ
ピンクのダリア 深紅のカンナ グラジオラスの色はとりどり
地面にはちいさな松葉ボタン
おしろいばな
ホウセンカの種がはじけ
オジギ草の細い葉がひらいて閉じる

白い顔の都会のはとこと
アブラゼミの鳴き声を聞きながら軒下の
蟻地獄の巣を掘っていた

キャンデー売りの声通りを行き
午睡の蚊帳の色涼しくゆれた 


おとな達の思い出語りに
軍刀や手袋 大陸のトランプが暗い土蔵からふわふわと
家の中をさまよっていた八月

山麓の短い夏はすぐに去り
客たちは白い帽子と共に消え
毎年約束のように訪れる
夏のたそがれー

国も人も若くひたむきに
人々が生きたいとしい時代が蜃気楼のようにぽっと浮かび
やまなみは素知らぬ顔でうねるだけの


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蒟蒻の葉雨に打たれ

2017年07月22日 | 花(夏)
命拾いした蒟蒻は
夏になると大きな葉を茂らせた
売られていたちいさな蒟蒻玉
あまりにも幼くひ弱なので
食べるには躊躇いあった蒟蒻玉

すり下ろして水に入れて
アルカリ混ぜられ煮詰められ
かき回されて冷やされて
薄切りされて皿に乗り山葵醤油などで刺身にされ
消えてゆく
短い命 の筈だった

ところが風そよぐ縁側の笊の中で
ちび蒟蒻玉はいきなりピンクの芽を出した
円錐形の赤い芽が
おもちゃ遊びで興奮した
オスの仔猫のおしりのようで
土に入れて春になると
青い葉っぱを伸ばし出した

夏の夕立嵐に雨に耐え
蒟蒻玉は大きな葉を
誇らしげに広げ威張るようになった
嵐や雨に打たれてもゆらりゆらり何処吹く風

明日のことは知れぬがこの世
むざむざ消えて去る者ばかりでないと
語っているしぶとい蒟蒻玉
命とどめた蒟蒻玉
その大きな葉っぱは遠い昔の
広い夏の畑を想い出させる
不思議な運と縁を思い出させる





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時間

2017年07月11日 | Weblog
砂の中の旅の街
さらさらさらと頭上から
足下に砂が落ち続け

窟は初夏のオアシスの
緑の木立に囲まれ埋もれて
壊れやすい宝の小箱のように
忍び寄る砂漠の中に潜んでいた

壁画の線色は蒼く
時はしずかに澱み
訪れる人間の数を数えながら
仏陀は途方もない長い時を過ごされていた


緑したたる島で
紫陽花は青く揺れ
梅素麺を食せば
天山の山脈は南アルプスの褶曲と重なり
銀色の翼の下
乾大陸の夥しい先人の足跡の
故城の土塁も壁も伝説の
燃える赤い山も
止まらず積もる時間の中
しずかにアルバムの中に眠ってゆくだけだった
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