一体に猫は立派な無知なのである
自分の姿がどれほどきれいなのか
解っていないところがまた可愛いのである
猫は部屋の鏡に見入る時がある
幼猫のころはハアーッ と生意気に体膨らませ横歩きして自分を威嚇をしていたが
大人になるころには姿は
自分であると解ってはいるようなのである
彼らは何時か虚像を知り得るようになり それなりに賢いといえるのである
しかし自分の姿態その他諸処が人の心をかき乱し溶かすほどに
美しいとは知らない
ぶちのハイエナらと比べようもないほど
造形美に溢れ過ぎることなど 少しも知らないのである
何年生きても人間のトイレを使おうという知恵もなく
毛ゲロをトイレに吐く気遣いも当然なくて
糞にしっかり砂かけしようともしないのんきさで
人には迷惑のかけっぱなしなのである
食事のあとに身づくろいをせっせとするが一言のごちそうさまもなく
空腹になるときだけにゃあにゃあと甘え声で訴えすりすり擦り寄り
人が寂しいときなんぞの時は 横目で見ては煩がる薄情者である
とにかく身勝手で
自分の欲望を満たすことだけなのである
危ないということも知らないから
高層のベランダの手すりの縁を歩いて奥の隣家にまで行き
知らぬふりで戻って猫かぶり 背中を向けて寝ていたりするのである
これを手に負えない 小悪魔 というのであるがその顔には
なんら反省や戸惑いやまして遠慮はなくて
恐怖というものもない可笑しな存在なのである
人の心臓をバクバクすることばかりして涼しい顔をしている「猫」
老齢になったことも解らす親の行方も知らず 兄弟の匂いも忘れ
猫は孤高のまま今年も新しい春の日の中で
動く絵になって存在してくれるのである
純粋で無知であさはかに美しく
しなやかで哀れないとしい猫という名の動物なのである
*16歳までを高齢、17歳からを老齢、と猫の世界では言う。