母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

窓から金モクセイが

2015年09月28日 | 
窓を開けると金モクセイが匂って来る
わたしは猫の匂いを探していた
耳の匂いと肉球の匂い
長い間に壁に天井に沁みついた懐かしい猫の香り

木犀の匂いはしても
猫の匂いも姿もない今年の秋
色づき始めたケヤキの大樹
さやさやゆれるすすきの穂の群れ
でももう金色の目 しなやかな手足
ゆらゆら揺れた灰色のしっぽはない
窓辺から流れることしのモクセイの香り

その甘い匂いのなかで
羽をはやして飛び去っていった猫の後ろ姿が浮かぶ
振り返らずに空に上がっていった猫が青い空に溶ける
変わらぬものは何もなくても金モクセイはいつものように匂い
透きとおるような 今年の秋

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淋しき庭

2015年09月19日 | 
肌を刺す風吹き
山麓は秋海棠の花
うす桃色に透ける花弁
のびのびと広がるみどりの葉っぱは
ほんのり紅色のフリンジ

この葉蔭に午睡していたのは金色の目
烏色に耀く毛並みの若い黒猫

黒豹のようなしなやかで
広いテリトリーを持ちながら
過保護ゆえか性格のゆえか喧嘩に弱く
大きな体で負け戦さ
猫の喧嘩は絶えずに生傷絶えず尻尾の毛を剥かれた
痛さに立ったまま眠っていた

放浪癖はあれ姿消え一か月
二軒隣の分家の生け垣の陰に
朽ち果てた体は横たわっていた
生きる者の宿命なぜかひっそり息絶えた黒猫
美しい花も美しい肢体もすべていのち終えれば大地の一部
生きものにある当たり前の事象
探しても戻らぬ猫を祈り待った老人らは
静かに戻ってきた黒猫を梅木の下に埋め慰めあきらめ
若くして去った猫の骸の上に花水を供え涙こぼした

穏やかな黒猫がどのようになぜ生命を終えたか
誰も知らない

秋海棠ことしも揺れ秋冷は訪れる
日暮れは早まり寒さは庭に迫りくる
どっしりと重い黒猫の体温を腕に忍ぶと
あのレクイエムだけが静かに流れてくる


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