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韓日の経済力に2、3倍の差がある理由…韓国は不動産の比重が問題

2020-09-09 18:05:28 | 日記
韓日の経済力に2、3倍の差がある理由…韓国は不動産の比重が問題

ⓒ 中央日報/中央日報日本語版

2019.08.15 09:01

韓日の経済力に2、3倍の差がある理由…韓国は不動産の比重が問題

日本の輸出規制措置に韓国政府も「対抗」し、2国間の「貿易戦争」が全面戦争の様相を帯びている。

両国は以前に比べてはるかに難しい手続きで貿易をするしかない。

韓国は2730億ウォン(約238億円)規模の補正予算も編成し、日本に依存してきた核心技術・素材開発に着手するなど貿易戦争が長期化する可能性も念頭に置いている。

『孫子兵法』には「敵と対等なら対戦するものの(敵則能戦之)、劣勢ならば避けるべき(不若則能避之)」とある。対等か劣勢かを判断するには「敵を知り己を知る(知彼知己)」という前提も必要だ。

春秋戦国時代に使われた孫子兵法を現代の「貿易戦争」にそのまま適用するのは難しい。

また今回の貿易戦争は避ける間もなく日本が先に始めた。

韓国は自国と日本の経済力を緻密に比較・分析した後、日本を越える「克日の条件」を探すのが急務だった。これを中央日報が14日、両国の国民貸借対照表を通じて分析した。

国民貸借対照表は一国が保有する全体財産(国富、国民純資産)が記録された会計帳簿をいう。

一人が持つ財産を見ると今後どれほど裕福に暮らせるかが分かるように、国家が持つ財産も国家の経済成長能力を評価する必須資料となる。

韓国では韓国銀行(韓銀)と統計庁が作成する。

戦争が勃発すれば参戦国別の兵力と軍艦・戦闘機・タンクなど軍保有資産目録を比較するように、国家間の経済力もこの帳簿を通じて比較できる。

国際連合など国際機関が共同で設定した国際基準(2008 SNA)に基づき、国が異なっても同じ統計処理方式で作成されるからだ。

まず両国の家計・政府・企業などすべての経済主体の保有資産をすべて合わせた国富(国民純資産)は日本が韓国の2.44倍だ。昨年の韓国の国富は1京5511兆6600億ウォンだったが、日本は3京7832兆270億ウォン(2017年基準、3367兆3666億円)にのぼる。

財産の「量」は日本が韓国に比べて圧倒的に多い。

運送装備・機械・知識財産生産物など生産活動に投入して付加価値を生み出す生産資産も日本がはるかに多い。

韓国の総生産資産は6775兆5569億ウォンだったが、日本は3.07倍多い2京781兆4147億ウォン(1849兆7196億円)分を保有する。

分かりやすく言えば、日本は韓国よりも工場が3倍も多いということだ。

もちろん工場が多いからといって無条件に生産能力が高くなるわけではない。

工場で生産する商品が市場で売れないほど品質が良くなかったり不況で工場が稼働しなかったりすれば、工場の数が多くても経済に役立たないこともある。

「生産手段」の量だけでなく、少ない生産手段で多くの生産物を作り出す生産効率性も重要だ。

しかし生産効率性の側面でも韓国は日本より劣る。

すべての土地・建物・機械・知識財産など国富(国民純資産)を活用していかに多くの国内総生産(GDP)を達成したかを表す、純資産に対するGDP比率は韓国が12.2%だが、日本は16.2%だ。

1000億ウォンの工場・土地・機械を活用しても韓国は年間122億ウォン分を生産する半面、日本は162億ウォン分を生産しているということだ。

韓国が日本より生産効率性が落ちる理由は何か。

専門家は韓国は付加価値を創出する生産資産よりも、土地・建物など不動産への資産の偏りが大きいと指摘する。

韓国は国富全体の85.5%が不動産であり、日本(77.4%)よりもその比率が高い。

半面、国富を純金融資産と非金融資産(非生産資産・生産資産)に区分すると、韓国の生産資産が占める比率は43.7%と、日本(54.9%)より低い。

生産資産を筋肉、不動産を脂肪に例える場合、筋肉量の側面で日本は韓国よりもバランスがとれた体質ということだ。

韓日の経済力に2、3倍の差がある理由…韓国は不動産の比重が問題

ⓒ 中央日報/中央日報日本語版

2019.08.15 09:01

韓国の不動産の比重は世界最高水準だ。

昨年の韓国の不動産資産は国内総生産(GDP)の約7倍だった。

韓国が生産活動で得た富を一銭も使わず7年間貯めてこそ、韓国の全国土の不動産を購入できるという意味だ。

GDP比の不動産倍率は日本が4.8倍、米国が2.4倍、カナダが3.9倍、英国が4.4倍、フランスが5.5倍、オーストラリアが5.8倍。

韓国は他国に比べて相対的に多くのお金が不動産に縛られているということだ。

韓国の国富で不動産が占める比率が高い理由は急激な地価上昇のためだ。

韓国の土地資産が非金融資産(現金・預金・証券など金融資産でない資産)に占める比率は、2013年の53.1%で底点となった後、昨年まで54.6%に上昇した。

非金融資産のうち建物の比率も2015年の底点(20.7%)から上昇して昨年は21.4%となった。

さらに収益を創出する「営業用不動産」より居住目的の住宅資産が増えるという特徴もある。

金洛年(キム・ナクニョン)東国大経済学科教授は「韓国は面積が狭く人口が大都市に集まるため、不動産選好現象が他国より強く表れる」とし「一般家計が保有する不動産資産の場合、住宅は増える一方、田・畑・山林など営業用不動産は相対的に減る特徴もみられる」と説明した。

専門家らは「不動産への資産の集中は企業には土地と建物の確保など生産活動に入る固定費用を増やす結果につながる」と指摘する。

韓国人の国民所得が3万ドルまで高まるなど人件費水準が高まった状況で不動産購入費用まで増えれば、工場を海外に移転するケースが増えるしかないという分析だ。

自営業者も賃貸料上昇の負担を抱えることになる。急激な最低賃金上昇と同時に急激な賃貸料増加は自営業の委縮の原因となる。

さらに需要の軸となる家系も住宅担保貸出の償還、家賃の増加など住居費用の増加で可処分所得(家計収入のうち自由に使える金額)が減れば、内需不振につながると、専門家らは主張する。

現在のように不動産に国富が偏った構造を放置した状態では、拡張財政や通貨政策で流動性を供給しても生産活動・株式市場に投資されるより、不動産市場に多くの資金が流れるという指摘だ。

さらに不動産を保有する者と保有しない者の資産不平等も深める。

韓国ほど日本も低成長期を経験しているが、日本の国家資産配分構造は韓国よりバランスが良い。

筋肉より脂肪の比率が高い選手がマラソンでは不利になるように、韓国が経済体質を改善できなければ韓日間の「経済戦争」が長引くほど日本が有利になるという結論が出る理由だ。

西江大経済学科のホ・ジョン教授は

「結局、国富が不動産に偏る理由は、生産活動よりも不動産に投資する方が高収益をもたらすため」とし

「長期的に見ると、こうした形で国民貸借対照表が出るようにするのはよくない」と指摘した。

続いて「不動産価格を低めようと人為的に価格に介入する政策は副作用を拡大するため、国富が自然に生産資産に流れるように高付加価値産業の拡大に向けた規制緩和が求められる」と述べた。

仁川大貿易学科のオク・ドンソク教授は

「他国より不動産への偏りが激しいというのは、経済活動はせずビルのオーナーを夢見る人が増えるということ」とし「住宅政策を『所有』から『居住』中心に転換してこうした偏りを管理してこそ、不動産の暴落が韓国経済の『時限爆弾』となる状況も防ぐことができる」と強調した。

日本人は自国の豊かさの現実をわかっていない

2020-09-09 16:37:27 | 日記
日本人は自国の豊かさの現実をわかっていない

GDPは大きいが1人当たりで見るとバランス悪い

岩崎 博充 : 経済ジャーナリスト

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2020/01/03 5:35

日本の豊かさを脅かすリスクとは?

日本の人口は1億2000万人余。世界全体に比べれば第11位と中ぐらいの規模に属する。にもかかわらず1年間に稼ぎ出す名目GDP(国内総生産)は、大国のアメリカ、中国に次ぐ世界第3位である。ほんの10年前までは、中国より上の世界第2位だった。


考えてみれば、鉄鉱石や石油などの天然資源もほとんどない。農業生産のための国土面積も7割が森林で限られている。1億2680万人(2017年)のうち約6720万人(同)が働いており、その勤勉さは世界的に有名だが、近年は少子高齢化で人手不足が目立つ。自動車産業頼りとはいえ製造業も健在ではあるが、携帯電話や家電など一時の勢いはない。

そんな中で、日本のGDPはいまでも世界第3位の地位にあり、財政赤字がGDPの198%超(2019年度末、政府見通し)、金額的にも1122兆円(同)もあるとはいえ、株式市場は好調だし、円相場も円売り=円安の兆候は少なく、むしろ安全資産の代表格として扱われている。


地震は頻繁に起こるし、超大型の台風も次から次へと襲ってくる。にもかかわらず、「国民1人当たりの日本の食品ロス(食糧廃棄量)は世界一」とも言われるほどの飽食であり、どの商店に行っても商品であふれている。

なぜ日本はこんなにも豊かなのか……、実際本当に豊かなのか……。

たとえば、平均賃金や1人当たりたりのGDP、貧困率といった個人の豊かさという点では、日本経済の落ち込みようは深刻と言っていい。国は豊かだが、個人は貧困なのか。日本にも深刻な格差社会が到来したということなのか……。

国のGDPは世界3位、日本の稼ぎ頭はいまや「投資」?

国の豊かさを示す経済指標で最も一般的なのは、やはりGDPだろう。その世界ランキングを見ると2018年現在、アメリカが20兆5802億ドル(2222兆円、IMF、1ドル=108円で換算、以下同)、中国は13兆3680億ドル(1443兆円)、そして第3位の日本は4兆9717億ドル(536兆円)となっている。アメリカと中国が断トツで巨大なGDPを稼ぎ出しているものの、日本も長い間3位を堅持している。

ちなみに、第4位はドイツの3兆9513億ドル(426兆円)、第5位がイギリスの2兆8288億ドル(305兆円)。安倍政権がGDP600兆円、年間2%の経済成長率を掲げていることを考えると、日本のGDPの大きさは今後も守られていくのかもしれない。

問題は、1億2000万人の人口を有する国が世界3位のGDPをどうやって稼ぎだしているかだ。そもそもGDPとは何なのか。たとえば、2018年の日本の名目GDPの構成比(支出側)は次のようになっている。

・民間最終消費支出(家計消費支出、民間非営利団体を含む)……55.6%
・民間需要(総資本形成)……24.3%
・政府支出……19.8%
・財貨・サービス純輸出(貿易収支など)……0.9%

一方、配当や利息などの第1次所得収支は1980年代から徐々に増加傾向となり、現在では経常収支の稼ぎ頭になっている。「貿易立国」から「投資立国」へのシフトが鮮明になってきたと言っていいだろう。

実際のところ、現在の日本の稼ぎは貿易による黒字ではなく、投資収益や配当、利息などによって得られる金融収支の黒字が大きい。

製造業を中心とした工業立国ではなく、金貸しや金融によって豊かになっている日本にわれわれは住んでいるわけだ。

国の豊かさはGDPでは分からない?

そもそもGDPは、その国の力や豊かさを最も象徴する数値として使われてきたが、近年この数値に疑問の声がある。

確かにGDPの大きさは、国はもちろん個人の豊かさを象徴するものとしても最もポピュラーだが、国民の幸福度にはつながらないことが指摘されている。

GDPは、経済学者のサイモン・クズネッツが発案したものだが、彼自身もアメリカの議会で「GDPでは国民の幸せははかれない」と証言している。

むしろ「国家の軍事力を見積もるために考案されたもの」であり、GDPが大きいからといって国民が本当の意味の豊かさを手にすることができるかどうかは、また別問題と言っていい。

実際に現在の世界のGDPを見てみると、軍事大国のアメリカが抜きん出て大きく、ついで13億人の巨大な人口を抱えて急成長してきた中国が続いている。

平和憲法を持っている日本は軍事費を別のインフラ整備などに回すことができたのが幸いしたのか、世界第2位、3位の座をすでに半世紀近くも続けている。

GDPは、その国の経済の大きさだけではなく、その伸び率などによって経済成長率が判断され、景気の良し悪しや経済政策なども決まっていく。

そもそもアベノミクスや日銀の異次元緩和もGDPをベースに進められている。そんな「GDP最優先主義」に逆らう形で始まったのが、国の豊かさを改めて考え直す指標の開発だ。

2008年2月から1年半をかけて、世界の専門家24人が集結して新しい豊かさの概念を提案した。

これが2009年に発表された「スティグリッツ報告」と呼ばれるレポートだ。通称「サルコジ報告」とも言われる。

「GDPの問題点」「生活の質」「持続可能な開発と環境」という3つのテーマによって、経済のパフォーマンスを考えて行こうという考え方だ。

実際に

「社会全体を見るなら平均値ではなく分布や底辺を見るべき」

「GDPは生産の尺度。市民の幸せを見るなら生産よりも所得と消費を見るべき」

「GDPの使い方が間違っている」といった指摘をしている。

こうした考え方をもとに、2012年6月に国連がまとめた報告書「総合的な豊かさ報告2012年(Inclusive Welth Report2012)」が大きな注目を集めた。

同報告書は2014年、2018年にもまとめられている。ちなみに、同報告書では1990年から2008年までの18年間の国の豊かさをまとめており、2012年に発表されたランキングでは、日本が国全体の豊かさでアメリカに次ぐ第2位となり、国民1人当たりの豊かさではアメリカを抜いて第1位だった。

日本人は自国の豊かさの現実をわかっていない

GDPは大きいが1人当たりで見るとバランス悪い


岩崎 博充 : 経済ジャーナリスト
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2020/01/03 5:35

同報告書では、国の豊かさを4つの資本に分けてその残高を計算。年間の伸び率(フロー)ではなく残高(ストック)を計算しているところが特徴的だ。

その4つとは――。

・人的資本……教育レベルや健康面での環境なども含む人の質の資源

・生産した資本……人工資本とも呼ばれるが道路や施設などのインフラ部分

・天然資本……化石燃料や鉱物、水産物、森林資源、農業用地など

・社会関係資本……その国に対する信頼感など社会関係の資本と言っていい

日本の場合、天然資源が乏しいとずっと言われ続けてきたが、天然資源という枠で考えれば国土の7割は森林であり、国の周囲は豊富な水産物の資源に恵まれた海に囲まれている。日本の豊かさは勤勉な国民と優れた製造業によるもの、という既成概念は通用しないのかもしれない。


ちなみに、2018年にまとめられた「新国富レポート2018」では、世界全体の富のシェアを健康資本(26%)、教育資本(33%)、自然資本(20%)、人工資本(21%)という形で分類している。

国の豊かさは、人間の健康維持の制度や教育システムによって半分以上は決められている、というわけだ。

北欧諸国は、GDPの規模は小さいが、社会福祉制度が充実。質の高い教育環境が整備されている。そういう意味では、日本は豊かな国とは言い難い。

1人当たりのGDP=26位が意味すること?

問題は、従来のGDPで考えた場合、最近の日本は長い間足踏みをしている状態と言って良い。とりわけ、「1人当たりGDP」の数値は、日本経済のバランスの悪さを示唆している。

たとえば、日本はGDP全体の大きさは世界第3位なのに1人当たりの名目GDPは世界第26位(2018年、IMF調べ)。

単純に考えれば、生産性が低く、賃金が上昇していないためで、安い賃金で働き続ける高齢者やいまだに旧態依然とした産業やゾンビ企業が数多く残っていることなどが指摘されている。

民主党政権時代、2010年の1人当たりのGDPは4万3000ドル(約470万円、IMF調べ)。

円高の影響もあるがピークに達している。安倍政権になった2015年は3万2000ドル(約350万円)に下落。

この現象は、政府が企業側にスタンスを置くか、労働者側に置くかで説明できる。

国の豊かさというのは企業が豊かになるか、労働者が豊かになるのかの違いと言っていい。

日本の富の蓄積状況を見ると、その実態がよくわかる。


日銀が、今月20日に発表した2019年7~9月期の資金循環統計によると、家計が保有する金融資産残高は1864兆円、企業の現金・預金は271兆円。

金融資産に限れば、家計(個人)が最も多くの金融資産を保有しているのは当然としても、企業も莫大な金融資産を保有していることになるわけだ。

実際に、企業の内部留保(利益剰余金)は7年連続で増加しており、金融業・保険業を除く全産業ベースで463兆1308億円(2018年度)となっている。

金融業、保険業の内部留保は、自己資本比率規制があって一定の資産を保有する必要があるため、企業の内部留保の数値には含まれないが、金融業・保険業の資産も含めれば、相当の資産を企業が保有していることになる。

ちなみに、日本銀行の国債保有高もここに来て500兆円となっており、43.9%の国債を中央銀行が保有しているという歪んだ構造になっている。

財政赤字の処理方法で日本の未来が変わる?

日本の豊かさを考えるうえでどうしても避けられないものに、世界でも例を見ない莫大な財政赤字がある。1122兆円もの財政赤字は、当然のことながら負の資産になるわけだから、このまま放置した場合、どうなるのかが心配だ。

いまや日本の資産には、世界中の投資家が投資しており、グローバル経済の中では外国人投資家が「日本売り」に出てしまうことが最も大きなリスクと言っていい。

現在の日本は、世界中に投資した利息や配当による収益が経常黒字の大半を占めている。要するに「金貸し国家」だ。

実際に、株価も下がらないし、円相場も安定している。現在の政権を支えている原動力にもなっているわけだ。日本の豊かさを維持している証拠と言っていいのかもしれない。

日本円が安全資産と言われる背景には、世界の金融マーケットで何かがあったときに、世界中に投資している日本の投資家が外貨を売って日本円に戻すために、どうしても円高になる。

また、高頻度売買といったプロの機関投資家が希望する投資環境も、日本には揃っている。

システム的にも、投資家の数という面でも、世界有数の「流動性」を日本は確保できている。そのおかげで、日本の国債や株、円はたたき売られずに済んでいるとも言える。

筆者の個人的な考えだが、日本経済が失われた20年とも30年とも言われ、日本病という景気低迷のサイクルから抜け出せないにもかかわらず、日本の金融市場が現在も安定して推移している背景には流動性があると考えている。

いつでも莫大な金額が、安定した形で売買取引できる限り、外国人投資家は日本を信頼して取引をする。

言い換えれば、この流動性が枯渇したとき、日本の強みは失われるのかもしれない。

たとえば、日本国債は間もなく流動性を失う可能性がある。

日銀が半分以上の国債を買い占め、その流動性を枯渇させようとしているからだ。

日本の豊かさの実態が正確にはつかめていないが、このままの状態を日本は維持していくことができるのか。

最後に、この豊かさを脅かす存在とは何かを考えておこう。簡単に紹介すると、およそ次のようなものが考えられる。

GDPだけでは国の豊かさは測れない

●人的資源の衰退……人口減少をはじめとして、健康や教育といった資源の衰退は日本の成長に陰りを落とす。少子高齢化がリスクであることは容易に想像できる。

●気候変動……日本の豊かさのひとつである森林や海洋の資源が、気候変動によって脅かされている。気候変動で森林が破壊されれば治水が機能しなくなり、農産物に大打撃を受ける。海産物の減少と並んで食糧不足をもたらす。

●資源価格の高騰……石油や穀物などの食料品を輸入に頼っている日本にとって、貿易収支の悪化は大きな痛手になる。資源価格の高騰は、日本の富にダメージを与える。

●財政赤字……現在の政府の財政赤字をどうするかが大きな問題だ。現在の日本は、企業も個人も、政府に依存した体質になっている。施設を作る、学校を設立する、イベントの実施……、どれをとっても国の「補助金」ありきでスタートしている。アメリカのように、クラウドファンディングといった民間投資の概念が低い。そのために、経済そのものが政府主導となり、財政赤字は一向に減らない。さらに、どうしても企業活動優先になっていく。財政赤字をどう処理できるかが、日本の豊かさを維持する大きな課題だ。

●金融マーケット……日本の経常黒字が投資によって支えられている以上、投資にはリスクがつきものだ。アメリカ株やアメリカ債、あるいは世界の企業価値が下落すれば、投資立国・日本は計り知れないダメージを被る。

この他にも、技術革新による変化は世界の富の構図を変えるかもしれない。

いずれにしても、GDPだけでは国の豊かさは測れないということだ。

幻想にすぎない「文政権の南北統一論」 韓国が迫られる“究極の選択”

2020-09-09 16:15:09 | 日記
幻想にすぎない「文政権の南北統一論」 韓国が迫られる“究極の選択”

2020/08/29 06:00Voice

幻想にすぎない「文政権の南北統一論」 韓国が迫られる“究極の選択”

GSOMIA破棄の行方が議論を呼んでいる。

韓国は近頃、アメリカに配慮してか日本に擦り寄っているが、泥沼の日韓関係は改善するのか。

第五代統合幕僚長として自衛隊を指揮した河野克俊氏と、外交・安全保障が専門の村田晃嗣氏が徹底討論。

(Voice)

GSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄の行方が議論を呼んでいる。

韓国は近頃、アメリカに配慮してか日本に擦り寄っているが、泥沼の日韓関係は改善するのか。第五代統合幕僚長として自衛隊を指揮した河野克俊氏と、外交・安全保障が専門の村田晃嗣氏が徹底討論。

※本稿は『Voice』(2019年12月号)河野克俊氏&村田晃嗣氏の「『専守防衛』を再考せよ」より一部抜粋、編集したものです。


大陸国家と海洋国家の狭間に立つ韓国

【河野】 日韓関係は「戦後最悪」といわれていますが、両国の関係はこれまでも不健全な状態でした。韓国がつねに歴史問題をもち出してくるのに対し、日本は自主規制をしてきた。

しかし、言うべきことを躊躇してはなりません。一時的に摩擦は起こるでしょうが、中長期的な観点から日韓関係を展望すれば、乗り越えなければならない壁です。

統合幕僚長を務めた私の立場からいえば、昨年10月に韓国が自衛艦旗の旭日旗を掲揚しないよう求めたことや、同年12月のレーダー照射問題は決して看過できません。


もちろん、われわれは韓国側の不条理な要求に屈することはありませんでした。

現在、韓国国内では「文在寅政権の反日は行きすぎではないか」との声が噴出していますが、日本側が毅然とした対応をみせたことで、こうした反応が出てきたのだろうと思います。

【村田】 日韓で摩擦が生じていますが、大きな視点でみたとき、韓国がいま岐路に立っている側面もあるでしょう。

韓国は日米と共に海洋国家として生きていくのか、それとも中露と組んで南北統一を前提とした大陸国家として生きていくのか。文在寅政権は後者を選びかねないのが現状です。

もう1つ、日韓の力関係の変化も影響を及ぼしています。戦後長らく、経済的に日本のほうが圧倒的に強かったのが、いまはある程度フラットになりつつある。

韓国では対中依存度が高まり、相対的に日本の重要性が低下していることもあるでしょう。

こうしたパワーバランスの変化について、日本は十分な配慮と理解をもち併せているという姿勢を、国際社会に対して示す必要があります。

文政権はリアクションを起こさないかもしれませんが、韓国の一部の世論が好意的に動く可能性があるのではないかと思います。

また、海賊対策のような、北東アジア以外での日韓協力は、粛々と継続していく必要があるでしょう。


GSOMIA破棄が北朝鮮に与えるメッセージ

【河野】 韓国の大きな変化は、冷戦構造が崩れたことも影響しています。現在の韓国は安全保障面でアメリカがサポートし、北朝鮮はソ連の後ろ盾で誕生しました。

在韓米軍は休戦協定を前提に存在しています。まさに朝鮮戦争の残滓のような存在です。もし終戦協定が締結されて南北の軍事境界線がなくなれば、理屈としては、韓国が望まない限り米軍は撤収する可能性があります。

同じ民族・言語の南北朝鮮が統一に向かう力学が働くのは当然ともいえますが、文政権ほど北朝鮮に近づいた政権は過去にありません。

日本にとって最悪のシナリオは、統一が北朝鮮の主導によってなされ、核を保有した反日半島国家ができることです。もしそうなれば、日本は防衛戦略を大きく変える必要があります。

【村田】 韓国によるGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄についてはどうみていますか。

【河野】 自動更新するだろうと想定していました。いくら韓国が日本に対して歴史問題で主張し続けても、GSOMIAに関しては合理的に判断するだろうと考えていました。

同協定は日米韓の3カ国による対北朝鮮の枠組みであり、アメリカのエスパー国防長官は韓国に対して、協定を破棄しないよう働きかけていた。

一方で北朝鮮は協定破棄を求めていましたから、今回の措置が北朝鮮に誤ったメッセージを与えてしまったのではないかと危惧しています。

反日と南北統一論は両立しない

【村田】 GSOMIAは対北朝鮮の枠組みであると同時に、日米、米韓の同盟関係は対中国の意味もあります。日米韓の連携が揺らぐことで、北東アジアにおける中国の影響力拡大を招くといわざるをえません。

【河野】 実際、今年7には、中露軍機が竹島空域に侵入し、韓国軍が警告射撃する事態も発生しました。日韓の亀裂に中露が付け込んだかたちです。

日本は固有の領土である竹島を係争地とは考えていません。しかし中露は、韓国が領有権を主張している同域を侵犯して、日韓がどう反応するのかを試してきたのです。

そもそも韓国が「北朝鮮は脅威ではない」と捉えているとするならば、GSOMIA破棄は当然の帰結ともいえます。

いったい韓国は北朝鮮の脅威をどう認識しているのか。日本はその点を曖昧にせず、しっかり向き合うべきです。

もっとも、文大統領は「2045年までに南北朝鮮の統一をめざす」と公言しており、あらためて問うまでもない状況ですが。

【村田】 ベルリンの壁崩壊からちょうど30年が経ったドイツの東西統一と比較すると、当時の東ドイツは東欧のなかではいちばんの経済優等国でした。

それでも、統一には莫大な経済的コストがかかった。ドイツ統一が実現したのは、欧州諸国の支えがあったからです。

北朝鮮の経済力に鑑みれば、南北統一にはドイツ統一とは比べものにならないほどのコストがかかるのは明白です。

韓国が民族の悲願として統一を本気で考えるのであれば、いくら日本を嫌悪しているからといって、その協力なしでは成し遂げられない。反日姿勢を強める文政権の南北統一論はたんなる幻想にすぎないといえます。

「日銀の国債引き受け」を考える

2020-09-09 13:08:54 | 日記
「日銀の国債引き受け」を考える

Date: 2012年11月20日

Author: 片岡 剛士

報道等では日銀による国債引き受けに関して奇策であり、まともに検討すべき政策ではないという議論がよくなされています。指摘されている論点を挙げながら考えてみることにしましょう。

1.日銀による国債引き受けを行うと長期名目金利は上昇するのか?

日銀による国債引き受けとは、政府が国債を発行し、それを日銀が購入(引き受け)して、資金を供給するという方法です。

ただし、立命館大学の松尾匡教授が明確に説明されている(注1)ように、日銀による国債引き受けによって長期名目金利が急騰するとは考えづらい。

国債市場を考えてみましょう。国債市場において長期名目金利が上昇するというのはどんな場合を指すのでしょうか。

国債市場を需要と供給に分けて考えてみますと、供給が需要を上回る場合、つまり超過供給の場合には国債の価格は下がり、国債金利は上昇します。

逆に超過需要の場合には国債の価格は上がり、国債金利は低下します。

日銀の国債引き受けとは、政府が発行した国債(つまり国債供給の増加)分だけ、日本銀行が国債を買取る(国債需要の増加)わけですから、需要と供給は同じだけ拡大して価格は変化しません。つまり国債金利は上昇せず一定となる筈です。

いやそんなバカなという方がいらっしゃるかもしれません。長期名目金利が上昇するという可能性は無いのでしょうか。

以下では、日銀の国債引き受けにより、政府が資金を得、それを用いて復興事業を行う場合を考えてみましょう。

そして長期名目金利の変動は、流動性効果、所得効果、フィッシャー効果という3つの効果が、時差を伴いながら組み合わさった形で変化した結果である点に着目しましょう。

流動性効果とは通貨や信用の増加が資金需要にもたらす影響を指します。

日本銀行が国債を引き受けることで政府に資金を提供し、それを用いて政府が復興事業を行えば、資金は民間へと流れます。結果、通貨や信用が増加するわけですから、長期名目金利は下がるでしょう。

所得効果についてはどうでしょうか。

所得効果とは、景気の先行き感の変化が投資活動に影響を及ぼし、さらに資金需要に影響するという効果を指しています。

例えば、日銀の国債引き受けにより政府が十分な規模の事業を行えば、復興需要が生じて民間の投資活動が活発化するでしょう。

そうすれば、資金需要が高まるため需給は逼迫して長期名目金利は上がるということになります。

最後に、フィッシャー効果について検討してみましょう。

フィッシャー効果とは名目所得の変化が予想インフレ率の変化を促すことで、投機的投資のための資金需要が変化し、それが名目金利の変化を促すというものです。

日銀による国債引き受けにより政府が復興事業を行えば、予想インフレ率は上がると考えられます。そうすれば資金需要は増加して長期名目金利は上昇するでしょう。

以上の話をまとめてみます。

日銀による国債引き受けによって日銀がマネーを供給し、政府が財政支出を行った場合、当初流動性効果による長期名目金利の低下の影響が強く、企業の内部留保が潤沢で資金需要が大きく拡大せず、デフレギャップが大きい状態であるのならば、長期名目金利は減少すると考えられます。

その後、より潤沢に資金が提供されていき、資金需要が拡大し、予想インフレ率が明確に上昇していけば、長期名目金利は上昇していくでしょう。

日銀による国債引き受けによる財政・金融政策のポリシーミックスが功を奏せば、最終的に長期名目金利は上がると考えられますが、当初その動きは弱いと考えられます。

そして急騰するという可能性は小さいと思われます。

松尾匡教授のエッセイにあるデータを見てみますと、日銀が国債の借り換えのための引き受けを行った場合には国債の名目金利が上がっていますが、予想インフレ率を考慮した実質金利は下がっています。

つまり、インフレ率の拡大による名目所得増加効果が国債金利上昇による利払い費増加の効果を上回っているわけです。

実質金利は下がるということは、財政・金融政策のポリシーミックスにより総需要が刺激されるという理屈とも整合的なのです。

2. 財政・金融政策のポリシーミックスの視点から見た日銀の国債引き受け

日銀の国債引き受けが有効であると筆者が考える第一の理由は、それが財政政策と金融政策のポリシーミックスであって、単に財政出動を行う場合に懸念される円高を金融緩和により抑えこむことが可能であるという点です。

こう書きますと、以下のような疑問が生じるのかもしれません。財政政策と金融政策のポリシーミックスということなら、政府は国債(復興債)を発行して資金を市中から調達して財政支出をし、日銀は包括緩和の枠組みを更に拡充させて、市中にある長期国債の買い切りを含む金融緩和をあわせて行うという策もあり得るのではないかという疑問です。

なぜ上記のような、政府と日銀がそれぞれ財政出動・金融緩和を行うという話ではなく日銀による国債買入れが良いといえるのでしょうか。

私が考える理由はまず、我が国が15年にわたりデフレに陥っており、このデフレには日銀による金融政策運営の問題が大きいと考えている点にあります。日銀の行動様式は15年間何も変わっていないと言えるでしょう。

以上のような認識を前提とすると、政府が仮に思い切った財政出動を行った場合でも日銀が金融緩和を拡充することでサポートするとは考えづらい状況です。

手続きとしては財政法5条特例により行われている日銀による国債引き受けは、日銀法で規定された金融調節の手段としての国債買いオペとは異なり、国会での議決により決定することが可能です。そして、この国会の決定に際して日銀の任意性や自主性はありません。

二つ目の理由は、同じ国債を対象とする場合でも、日銀が既に発行されている国債の買切りを行う場合と、日銀が政府による新発国債を引き受けることで政府が資金を得、それを財政出動という形で支出する場合とでは政策効果が異なるという点です(注2)。

前者の場合、国債を保有しているのは銀行・証券会社といった金融機関です。

日銀が国債を買い切ると、その代金は金融機関の手にわたります。国債を買切り、マネーを拡大させた量的緩和策に関する実証分析は様々なものがあります。

だが量的緩和政策の期間のみを対象とし、アドホックではない形で効果を検証している実証研究(本多・黒木・立花(2010)(注3)、原田・増島(2010)(注4))の知見によれば、国債を買切ることで代金を得た金融機関は、ポートフォリオ・リバランス効果により、減少した貨幣以外の資産を購入しようとする訳です。これが資産価格を押し上げて、実体経済に波及していきます。

確かに、これらの実証分析ではポートフォリオ・リバランス効果が確認されていますが、現実の量的緩和の経験では、毎月の緩和額が不足していたため、予想インフレ率の反転は不十分で株価の明確な上昇が生じておらず、その後の貨幣需要の拡大まで効果が十分に及びませんでした。

この理由は、信用収縮により資金需要が停滞している状況に対して、日銀の金融緩和が不十分であったことによると言えるでしょう。

後者の場合はどうでしょうか。政府が日銀に対して国債を発行することで、政府は資金を得ますが、この資金は国庫にある日銀政府当座預金から引き出されて、様々な形で財政支出に確実に結びつきます。

つまり、前者の場合には、日銀が金融機関に資金を国債買い切りの形で供給したとしても、予想インフレ率や株価に明確に影響を及ぼすことで総需要を増やさない限りは金融機関の口座に滞納されることになるでしょう。

しかし、日銀の国債引き受けを行った場合には、日銀から政府に手渡された資金はそれを使う主体が消費や投資といった形で実際に支出として結びつくのです。日銀の国債引受けによる財政・金融政策のポリシーミックスは、財政政策が持つ乗数効果に、金融政策がもたらす効果が確実に加わるという点がポイントです。

3. 高橋是清の経済政策が戦後の物価急騰につながったのか?

このような批判はしばしばなされるところですが、例えば昨年2011年4月3日の東京新聞における桐山純平氏の署名入り記事「復興へ「禁じ手」浮上 閣僚ら火消し躍起」は特徴的なものであると言えます。

http://megalodon.jp/2011-0404-2339-41/www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2011040202000033.html

以下、東京新聞の記事を紹介しつつ、高橋是清が行った政策を概観し、高橋金融財政政策が行われた当時のマスコミ報道とはいかなるものであったのかをまとめてみましょう。

桐山氏は、「国債の直接引き受けで日銀が安易に通貨を増発すると、世の中でのお金の流通量も増え、インフレなど多くの弊害を生む恐れがある」とまず論じますが、我が国は10年超マイルドなデフレに陥っており、需給ギャップは20兆円程度とも言われています。

デフレに苦しめられている現状ですから、需給ギャップを埋め、インフレにすることに何ら問題はありません。

勿論、過大なインフレが生じる懸念があるのならば、インフレターゲットにより目標インフレ率を設定した上で、政府と日銀が政策運営を行えばよいでしょう。

過大なインフレを抑制する手段としてインフレターゲットが有効であるのは、インフレターゲット採用国でハイパーインフレに陥った国が無いことからも明らかです。

これは、デフレからインフレになる事を認めつつ、インフレになった瞬間にハイパーインフレになるというおなじみの批判論法の亜種であるように思われます。

次に、桐山氏はこう述べます。

「実際、昭和恐慌の1930年代に、高橋是清蔵相の元で、日銀引き受けが実施されたところ、国債増発と軍事費の膨張で財政規律が緩む契機となり、終戦後には急激に物価が上昇するハイパーインフレに陥っている。」

高橋是清が行った政策によりどのような現象が生じたのでしょうか。

図表1は、当時の経済動向をまとめています。高橋是清が蔵相として政策を行う前は井上準之助が政策を行ったわけですが、緊縮政策と世界大恐慌の影響も相まって、日本経済は1920年代のマイルドなデフレが進む状況から10%超のデフレへと物価の下落は進み、実質GNP成長率も0%台という不況に陥りました。

図表1:1920年代・30年第の経済動向


(注)経常海外余剰、名目GNP、実質GDPは出所資料の第1表及び第18表から参照した。

(資料)大川一司編『国民所得 長期経済統計1』

しかし、高橋是清が蔵相として、金本位制の放棄と赤字国債の日本銀行引受けを実行すると、為替レートは半減するとともに、貨幣の増刷を伴う金融緩和の結果、物価上昇率は平均して2%、実質GNP成長率も回復するという状況になったのです。

高橋が行った財政政策が膨張的であったのかどうか。図表2は、政府消費と政府が行った投資が名目GNPに与える寄与度を見ていますが、1932年においては政府が行った投資の寄与が大きく拡大しているものの、財政支出の膨張度合いを示す政府経常支出と政府の投資の合計の名目GDP比(図中の黒線部分)は年を追うごとに低下して安定化しています。

図表2 高橋財政時における財政支出の状況


出所:大川一司編『国民所得 長期経済統計1』第1表及び第4表

図表から明らかなのは、高橋在任時のインフレ率は安定しており、かつ財政支出も経済規模に見合う形で安定的に推移していたという事実です。そして、様々な文献から明らかな通り、高橋は政府支出が膨張することに大きな懸念を抱いていました。

図表1に着目すると、高橋財政時以降のインフレ率が急騰していることが読み取れます。これはなぜ生じたのかといえば、軍部の圧力に屈する形で、高橋の後の蔵相が経済の実態を無視した政府支出を行ったためです。

「一時の弁法」としての日銀の国債引き受けを行ったのは確かに高橋です。

ただし、問題は高橋個人は過大なインフレや財政赤字を嫌っており、景気が回復した際には政府支出を抑制することを念頭に置いていたという点です。繰り返しになりますが、問題は高橋ではなく、高橋以後の蔵相にあったのです。

さて桐山氏が指摘している戦後のハイパーインフレについてですが、これは戦争により生産に必要な生産設備といった資本が徹底的に破壊された一方で、終戦に伴う帰民の増加

などの影響で需要が高まった事が大きく影響しています。高橋が行った政策が端緒となって戦後のハイパーインフレが生じたということではないのです。

そしてもう一つ。

桐山氏はご存じないのかもしれませんが、既に日銀は「政府の財布」でもあります。

これは、日銀法に制約された政府の一部局である日銀にとっては当たり前のことでありましょう。

現在においても借換債の日銀による国債引き受けは毎年行われています。日銀の当座預金残高の内訳にも財政的要因による変動という項目が掲載されていますが、この事も桐山氏の指摘がおかしいことを補強する材料でありましょう。

4.繰り返し蘇る「ゾンビ報道」

最後に高橋財政当時から馬場財政に至るマスコミ報道の動向をみましょう。こちらは中村宗悦氏の研究(「「高橋財政」に対する新聞論調-『東京朝日新聞』社説の分析」『歴史評論』2010年3月号所収、「金解禁における新聞メディアの論調」岩田規久男編『昭和恐慌の研究』所収)で明らかにされているところです。

中村論文(「「高橋財政」に対する新聞論調-『東京朝日新聞』社説の分析」)では、東京朝日新聞を取り上げつつ、金輸出再禁止、赤字公債の引受け、5.15事件、公債漸減主義の採用、2.26事件、馬場財政といった6つの政策転換において『東京朝日新聞』の論調がどのように変化していったのかが分析されています。

金輸出再禁止直後の論調

まず、「金輸出再禁止」直後の1931年12月~32年3月までの論調については、金輸出再禁止の決定(1931年12月13日)と、犬養内閣による「新内閣の予算方針」(1931年12月18日)に対する反応が対象となります。

金輸出再禁止が決定された翌日の社説は、金本位制を「国内及び国際間の貸借関係を公正なものにするための唯一の制度」として、眼前の苦痛、つまり昭和恐慌の苦難を緩和するために撤廃することは好ましくない、と論じています。

また、「新内閣の予算方針」については、増税や緊縮財政の緩和については賛意を示すものの、公債の増加の可能性には批判的で、さらに公債の増加によりインフレが進むことについても批判的でした。

そして金輸出再禁止による為替の下落に際して「対外信用を失墜せしめ、為替を惨落させ、円貨の価値を暴落させ、それによりて国内産業を振興せしめようとすること程不堅実な方策はない」と痛切に批判しています。

さらにインフレに対する懸念も述べられています。例えば「大多数の国民は収入の増加なく、購買力の増進ないのに物価の急落、従つて生ずる生活苦の増進に脅威されている」とあります。

日銀による赤字公債引き受け直後の論調

次の局面は高橋が日銀による赤字公債引受策を表明した1932年3月8日の局面です。

この時期の論調は、インフレ政策が財界の利益となることを評価しつつも、それが一時的な人気取りを人為的な形で引き起こす政策で、放漫財政の旗振り役として機能することを恐れるというものでした。

つまり、デフレかつ不況に陥っていたという現況において、インフレを伴う財政赤字の拡大を懸念し、「空虚な景気論に迷わされることなく、財政悪化を阻止して立て直しをはかるべき」との論調です。

このデフレ下での赤字公債発行を伴うインフレ政策への批判は、思うように景気が回復しない当時の状況とハイパーインフレへの懸念とが結びつくことで、インフレをコントロールすることの不可能性を指摘する事に繋がります。

以上のように、日銀の赤字公債引受策が発表された当初では、金輸出再禁止直後の清算主義的な論調の影響も相まって、ハイパーインフレと放漫財政への懸念が表明されていたのです。

5.15事件から公債漸減主義の採用時の論調

5.15事件以降に成立した斎藤内閣から公債漸減主義への転換が図られていくまでの時期は、高橋是清により着々と政策が実行され、インフレと実体経済の回復が進んだ時期です。

1933年4月にアメリカが本格的なインフレ政策へと転換すると、新聞の論調が「インフレ政策」に対して親和性を持つものに変わっていきます。しかし、この「インフレ政策」の効果は一時的で、以下のような根本的な日本経済の問題を解決するものではないと捉えられました。

中村論文では、当時新聞が認識していた日本経済の5つの問題点を指摘しています。

一つ目は赤字公債の発行の中での軍事費の膨張についての懸念です。

二つ目は、増発された公債の市中消化能力の限界と増税の必要性についてです。

三つ目はインフレについての懸念です。つまり、インフレが進むことで財政上の悪影響が生じることを懸念していました。

四つ目は財政支出と公債発行そのものが問題の根本であるとの認識です。

五つ目は、為替についてです。貿易が好調に推移したのは為替の急低下によると新聞は指摘していたが、一方でこの貿易の拡大の原因は満州への輸出拡大といった貿易構造の変化にも依ると指摘していたことです。

だが、高橋蔵相が赤字公債漸減を明らかにすると、新聞は高橋の表明に賛意を示すことになります。更に遠慮がちに述べられていた増税策についても明確な肯定が表明されるようになり、財界の一部で増税の余力が生じているとの指摘もなされるようになりました。

1935年初の社説では、1934年の経済状況を総括して、不測の災害を蒙った農村方面の窮迫といった状況は生じたものの、日銀の国債引き受けと低金利の平準化、為替の低位安定に基づく輸出の好調、軍需品及び輸出関係事業の活況を評価しています。

また1935年半ば以降の局面では一時的な景気後退はあるものの、その影響は軽微であるという観測でした。1936年後半においては、高橋が進める赤字漸減政策について新聞の論調は好意的です。だが、一方で軍部をはじめとする圧力も存在しており、健全財政主義を時代遅れと言いふらす論者も少なくないという情勢でした。

2.26事件における論調

そして1936年2月に2.26事件が生じます。これにより高橋は暗殺され、日本の針路は転換点を迎えることになります。

高橋財政に対する新聞の評価は以下のようなものでした。

つまり、「中心は公債価格の維持によるインフレーションのコントロールであり、4年間に渡ってインフレーションを操作するにあたって、さすがの高橋も健全財政の建前まで退却せざるを得なかった、しかもこの政策も根本においては行き詰まりという状態にあった」というものです。

そして今後の財政政策に関しては、高橋財政での健全財政を一歩進めなければ、名人芸により支えられた金融及び為替の安定は不可能であるというのです。

馬場財政における論調

馬場財政においては「庶政一新」、「国民の生活安定」がスローガンとして掲げられました。新聞は馬場財政の増税路線と積極財政主義への転換を好意的に捉えましたが、公債増発による拡大予算が軍部の要求を呑む形で成立すると、新聞の論調も準戦闘態勢へと転じていくことになります。

財政派の高橋が暗殺された後、時局を反映した膨張財政が進んでいくことになります。

さてこうみていきますと、80年後の今日でも似たような報道がゾンビのように繰り返しなされているように感じるのは筆者だけでしょうか。

先程の桐山氏の議論と合わせて、「日銀の国債引き受けによって、財源を簡単にまかなえるという算段だ」といった指摘を読みますと、数十年の時を経ても尚、マスコミ報道は変わらないという諦念を持ってしまうのは筆者だけでしょうか。