文在寅、支持率下落の大ピンチ…韓国の若者が「タマネギ女騒動」に激怒するワケ
9/24(木) 7:01配信
文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率が伸び悩んでいる。世論調査会社であるリアルメータによれば、9月第3週(調査期間は9月14~16日)の支持率は支持が46.4%、不支持が50.3%であり、不支持が上回っている。
8月第4週は支持が不支持を上回っていたのであるが、9月に入って明るみに出た、秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官の息子の兵役に関する疑惑が影響した。
法務部長官といえば、前任のチョ・グク氏が娘の大学入試に関する疑惑で辞任に追い込まれており、文在寅大統領にとって法務部長官人事は鬼門となっているようである。ちなみに秋美愛長官は、「タマネギ女」と呼ばれている。チョ・グク氏が剥いても剥いても疑惑が出てくる「タマネギ男」と呼ばれていたのに合わせたあだ名である。
韓国で世論の反発を買う疑惑として、兵役に関する疑惑と大学入試に関する疑惑を挙げることができる。兵役については男性であれば原則として就かなくてはならない。近年は少し短くなったものの陸軍であれば18カ月、空軍であれば21カ月の期間、兵役に就くわけであり、大学生はその間休学する。
経済活動人口調査(青年層付加調査)によれば、4年制大学の卒業までの期間は、女性が平均で4年6カ月であるのに対し、男性は6年1カ月かかっている。この差は兵役による休学のために生じている。兵役は本人にとってもその親にとっても負担となるが、全員が対象となるという意味で平等であるため、国民に受け入れられているといえる。だからこそ、この平等が破られたときの世論の怒りは大きい。
大学入試の競争が激しすぎる
韓国・ソウル市内の学校〔PHOTO〕Gettyimages
平等が破られたときの世論の怒りという点では大学入試も同様である。兵役と異なり大学入試は日本にもあるが、(1)日本と異なり大学入試の一発勝負で大学が決まること、(2)日本以上に学歴社会であることから、韓国の大学入試は日本よりはるかに大きな意味を持つ人生の岐路となっている。よって大学入試の平等が破られたときの世論の怒りは兵役同様にきわめて大きい。
以下では韓国における大学入試について日本との違いを中心に解説していきたい。
まず、日本と異なり韓国では大学入試の一発勝負で大学が決まる。韓国ではエスカレータ式で大学に入学する制度がなく、大学に入るためには大学入試に合格しなければならないのだ。一方で日本は、中学や高校、さらには小学校に入学すれば大学までの内部進学が約束されることが珍しくない。韓国にも付属校はあるが大学入試を別途受けなければならない。韓国では早期に大学への内部進学が約束されることがないので、大学入学の機会は高校卒業後(もちろん浪人は可能である)に限定されている。
また韓国では人生において学歴が日本より重い。この要因としては、(a)韓国では若者が目指す職業の画一化が顕著であり、多数が大企業のホワイトカラーを目指していること、(b)大企業のホワイトカラーとなるために求められる学歴が年々高まっていることが挙げられる。
これらは日本にもある程度当てはまるが、韓国は日本より状況は深刻である。韓国では大部分の若者が大企業のホワイトカラー職を望み、ある程度多様化している日本のように早く社会に出て技術を身に着けようとする若者は多くない。大学進学率(専門大学を含む)は2000年代後半には80%を超え、その後下落したが2019年でも70%を超えている。
日本の大学進学率(短大を含む)は、2019年で58.1%であることを考えれば、韓国の大学進学率は高水準といえるが、これは大企業のホワイトカラーの職を得るためには最低限大学を卒業しなければならず、それゆえ大学進学を望む若者が多いからである。
また、韓国では大企業の選考で日本以上に学歴(ここでは大学のランキングといった意味での学歴)が重要である。これは、韓国では学歴が個人の潜在能力を示す明確なシグナルとして機能してきたことによる。
そして、この背景には、韓国における大学入試が、前述したように大学進学時の一発勝負であることがある。小学校や中学で大学の系列校に入学し、そのままエスカレータ式に大学まで進学する場合、幼少時代の成績によって潜在能力が評価されることになり、これが長年維持されているかあやしい。一方、韓国の場合は、大学入学時の一発勝負であるので、少なくとも高校卒業時の本人の潜在能力を測ることができるわけである。
また、大学入試の合否が一元的な選抜により行われる傾向が強いことも、学歴が潜在能力を示すシグナルとして重宝されてきた要因のひとつである。韓国では1981年に大学別の入学試験が廃止され、国立・私立問わず、共通の試験(現在の大学就学能力試験)による選抜に一本化された。
最近は大学が多様な手段で合否を判定できるようになり、絶対的であった大学就学能力試験の地位も低下したが、依然として合否に重要や役割を持つ点には変わりがない。すべての大学の合否が全国一律の試験で決まる制度は大学の序列化を進めた。
これは同じ試験で入学に必要な点数がわかることで、大学間の客観的な比較が容易となった結果である。一律の試験で序列化された大学は、企業にとって個人の潜在能力を把握する基準として重宝されてきた。誤解がないように一言加えるならば、潜在能力は多面的な側面を有しており、筆記試験で潜在能力を把握することができるわけではない。しかし企業にとっては限られた時間で採用を行うためには、ある程度客観的な基準で選ばなくてはならず、学歴はその基準として使われているわけである。
若者の怒りが爆発
また近年は、大卒者が増えている反面、大企業ホワイトカラーの求人は減少しており、大企業ホワイトカラーになることが難しくなっており、学生は大学入学後も、成績、留学、インターンといったスペック向上に血眼になっている。
いずれにせよ、若者の多数が大企業のホワイトカラーを目指しているなか、大企業のホワイトカラーとなるために求められる学歴が年々高まっている現状では大学入試は過熱していく一方である。大学入試の機会は若者に平等に与えられている。だからこそ、そのタテマエを裏切って大学入試に関する疑惑が発覚した場合、平等な機会を信じて真面目に勉強した若者の怒りが爆発する。
日本には兵役がなく、兵役に関する疑惑が問題になることはない。また大学入試に関する疑惑で政治家が失脚したという話も近年は聞かない。韓国では兵役と大学入試は人生の岐路といってよいほど重要であるが、兵役は平等に負担され、大学入学の機会も平等であると信じられている。
よって、この平等が破られた時、日本では想像できないような世間の怒りを買うこととなる。これらに対する疑惑が明るみに出れば間違いなく政治生命が絶たれる。それでも兵役と大学入試の不正が後を絶たないのは、これらが韓国人の人生にとって大きな重荷になっており、親としてはできることなら子供が重荷を背負わずにすめばと思ってのことなのであろう。不正の誘惑に打ち勝つことは容易ではなさそうである。
高安 雄一(大東文化大学教授)
9/24(木) 7:01配信
文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率が伸び悩んでいる。世論調査会社であるリアルメータによれば、9月第3週(調査期間は9月14~16日)の支持率は支持が46.4%、不支持が50.3%であり、不支持が上回っている。
8月第4週は支持が不支持を上回っていたのであるが、9月に入って明るみに出た、秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官の息子の兵役に関する疑惑が影響した。
法務部長官といえば、前任のチョ・グク氏が娘の大学入試に関する疑惑で辞任に追い込まれており、文在寅大統領にとって法務部長官人事は鬼門となっているようである。ちなみに秋美愛長官は、「タマネギ女」と呼ばれている。チョ・グク氏が剥いても剥いても疑惑が出てくる「タマネギ男」と呼ばれていたのに合わせたあだ名である。
韓国で世論の反発を買う疑惑として、兵役に関する疑惑と大学入試に関する疑惑を挙げることができる。兵役については男性であれば原則として就かなくてはならない。近年は少し短くなったものの陸軍であれば18カ月、空軍であれば21カ月の期間、兵役に就くわけであり、大学生はその間休学する。
経済活動人口調査(青年層付加調査)によれば、4年制大学の卒業までの期間は、女性が平均で4年6カ月であるのに対し、男性は6年1カ月かかっている。この差は兵役による休学のために生じている。兵役は本人にとってもその親にとっても負担となるが、全員が対象となるという意味で平等であるため、国民に受け入れられているといえる。だからこそ、この平等が破られたときの世論の怒りは大きい。
大学入試の競争が激しすぎる
韓国・ソウル市内の学校〔PHOTO〕Gettyimages
平等が破られたときの世論の怒りという点では大学入試も同様である。兵役と異なり大学入試は日本にもあるが、(1)日本と異なり大学入試の一発勝負で大学が決まること、(2)日本以上に学歴社会であることから、韓国の大学入試は日本よりはるかに大きな意味を持つ人生の岐路となっている。よって大学入試の平等が破られたときの世論の怒りは兵役同様にきわめて大きい。
以下では韓国における大学入試について日本との違いを中心に解説していきたい。
まず、日本と異なり韓国では大学入試の一発勝負で大学が決まる。韓国ではエスカレータ式で大学に入学する制度がなく、大学に入るためには大学入試に合格しなければならないのだ。一方で日本は、中学や高校、さらには小学校に入学すれば大学までの内部進学が約束されることが珍しくない。韓国にも付属校はあるが大学入試を別途受けなければならない。韓国では早期に大学への内部進学が約束されることがないので、大学入学の機会は高校卒業後(もちろん浪人は可能である)に限定されている。
また韓国では人生において学歴が日本より重い。この要因としては、(a)韓国では若者が目指す職業の画一化が顕著であり、多数が大企業のホワイトカラーを目指していること、(b)大企業のホワイトカラーとなるために求められる学歴が年々高まっていることが挙げられる。
これらは日本にもある程度当てはまるが、韓国は日本より状況は深刻である。韓国では大部分の若者が大企業のホワイトカラー職を望み、ある程度多様化している日本のように早く社会に出て技術を身に着けようとする若者は多くない。大学進学率(専門大学を含む)は2000年代後半には80%を超え、その後下落したが2019年でも70%を超えている。
日本の大学進学率(短大を含む)は、2019年で58.1%であることを考えれば、韓国の大学進学率は高水準といえるが、これは大企業のホワイトカラーの職を得るためには最低限大学を卒業しなければならず、それゆえ大学進学を望む若者が多いからである。
また、韓国では大企業の選考で日本以上に学歴(ここでは大学のランキングといった意味での学歴)が重要である。これは、韓国では学歴が個人の潜在能力を示す明確なシグナルとして機能してきたことによる。
そして、この背景には、韓国における大学入試が、前述したように大学進学時の一発勝負であることがある。小学校や中学で大学の系列校に入学し、そのままエスカレータ式に大学まで進学する場合、幼少時代の成績によって潜在能力が評価されることになり、これが長年維持されているかあやしい。一方、韓国の場合は、大学入学時の一発勝負であるので、少なくとも高校卒業時の本人の潜在能力を測ることができるわけである。
また、大学入試の合否が一元的な選抜により行われる傾向が強いことも、学歴が潜在能力を示すシグナルとして重宝されてきた要因のひとつである。韓国では1981年に大学別の入学試験が廃止され、国立・私立問わず、共通の試験(現在の大学就学能力試験)による選抜に一本化された。
最近は大学が多様な手段で合否を判定できるようになり、絶対的であった大学就学能力試験の地位も低下したが、依然として合否に重要や役割を持つ点には変わりがない。すべての大学の合否が全国一律の試験で決まる制度は大学の序列化を進めた。
これは同じ試験で入学に必要な点数がわかることで、大学間の客観的な比較が容易となった結果である。一律の試験で序列化された大学は、企業にとって個人の潜在能力を把握する基準として重宝されてきた。誤解がないように一言加えるならば、潜在能力は多面的な側面を有しており、筆記試験で潜在能力を把握することができるわけではない。しかし企業にとっては限られた時間で採用を行うためには、ある程度客観的な基準で選ばなくてはならず、学歴はその基準として使われているわけである。
若者の怒りが爆発
また近年は、大卒者が増えている反面、大企業ホワイトカラーの求人は減少しており、大企業ホワイトカラーになることが難しくなっており、学生は大学入学後も、成績、留学、インターンといったスペック向上に血眼になっている。
いずれにせよ、若者の多数が大企業のホワイトカラーを目指しているなか、大企業のホワイトカラーとなるために求められる学歴が年々高まっている現状では大学入試は過熱していく一方である。大学入試の機会は若者に平等に与えられている。だからこそ、そのタテマエを裏切って大学入試に関する疑惑が発覚した場合、平等な機会を信じて真面目に勉強した若者の怒りが爆発する。
日本には兵役がなく、兵役に関する疑惑が問題になることはない。また大学入試に関する疑惑で政治家が失脚したという話も近年は聞かない。韓国では兵役と大学入試は人生の岐路といってよいほど重要であるが、兵役は平等に負担され、大学入学の機会も平等であると信じられている。
よって、この平等が破られた時、日本では想像できないような世間の怒りを買うこととなる。これらに対する疑惑が明るみに出れば間違いなく政治生命が絶たれる。それでも兵役と大学入試の不正が後を絶たないのは、これらが韓国人の人生にとって大きな重荷になっており、親としてはできることなら子供が重荷を背負わずにすめばと思ってのことなのであろう。不正の誘惑に打ち勝つことは容易ではなさそうである。
高安 雄一(大東文化大学教授)