韓国、膨らむ政府債務と家計負債、募る国民の不満(前)
国際
2021年7月26日
日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏
韓国政府が、コロナ禍で景気を刺激するために取った浮揚策の資金は不動産や株式市場に向かい、政府の価格抑制政策にも関わらず、不動産は高騰を続けている。
しかし、自営業者などを始め、資産をあまり持っていない一般人の家計は負債のみが膨らみ、将来の不安を募らせている。今回は、韓国政府の政策と国民の募る不満を取り上げる。
韓国の新型コロナウイルスの最新動向
韓国では新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、今月7日から17日連続で毎日1,000名以上の新規感染者が発生している(23日時点)。
インドで確認された変異ウイルスのデルタ株が猛威を振るい、感染拡大が衰える気配はない。
23日の感染者は全国で1,630人となり、ピークであった21日の1,842人よりは減少したが、依然として感染数は高止まりである。
韓国の累積感染者は18万5,733人となった。
感染拡大を何とか抑えるため、韓国の防疫当局は首都圏の規制レベル4段階として、午後6時以降の3名以上の会合禁止を、26日から2週間延長することを決めた。
韓国政府・中央防疫対策本部の関係者は、昨年末の3次流行当時の平均感染者数は1日あたり約660人であったが、今回の4次流行の平均感染者数は1日あたり1,410人のため、2倍以上に規模が拡大したと強調した。
とくに、現在は夏の休暇時期であるため、感染拡大が強く懸念されている。ちなみに、韓国でのワクチンの1次接種率は32.6%、2次接種率は13.2%となっている。
感染拡大が続いているなか、政府の厳しい政策はやむを得ないとしながらも、一部では政府の防疫対策に対する不満も噴出している。
規制レベル4段階が実施された後、賑わっていた食堂や居酒屋などは客足が途絶え、閑散としているためだ。
しかし、感染拡大が止まらず規制が2週間延長されれば、店側は1カ月間休業したことと実質的に同じ状況となる。
政府に対する不信感の増加
政府は不動産価格を抑制するため、諸々の政策発表をしているが、不動産価格はそれをあざ笑うように高騰を続け、庶民の政府に対する鬱憤は溜まっている。
ソウル市内のほとんどのマンションは10億ウォン(約9,595万円)を上回り、若年層は親からの支援なしに家を買うことは、ほぼ絶望的となっている。
若年層は職を見つけるのも難しく、仮想通貨への投資に傾倒している。
しかし、韓国政府は仮想通貨の政策にも右往左往し、規制することしか念頭になく、仮想通貨にかけようという若年層の最後の夢まで奪おうとしているため、若年層は政府に対して裏切られたような思いを抱いている。
防疫においても、韓国政府の功績を認めつつも、一部ではこれほど厳しい規制で経済を疲弊させていることに対する疑問の声も上がっている。
「防疫」を言い訳にして、一切の集会を禁じることが実は政府の狙いではないかと、うがった見方をする向きもある。
幸いにして、新型コロナウイルスの致死率は低いため、規制レベルを下げて、正常な経済活動を営みながら、そのなかで感染した人は自身で対応するのが正しいのではないかという意見まで出始めている。
国民の不満の矛先は、防疫や不動産政策のみではなく、対外関係にも向けられている。
それは、韓国政府は北朝鮮に同調し、中国に味方することによって、長年築いてきた米国との信頼関係を損ない、大事な隣国である日本との関係においても軋轢を生じさせており、何1つうまく行っていないという不満である。
現在、「世界半導体戦争」のさなかで、米中は半導体の覇権をめぐって激突しているが、サムスングループの司令塔が刑務所に服役しており、この状況が続くのは好ましくないというのが、世論の主流である。
与党の政策に対して韓国経済を壊すような悪い意図があるのではないか、と疑問を投げかける傾向が一部で強くみられる。
(つづく)
韓国、膨らむ政府債務と家計負債、募る国民の不満(後)
国際
2021年7月27日 06:00
日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏
韓国政府が、コロナ禍で景気を刺激するために取った浮揚策の資金は不動産や株式市場に向かい、政府の価格抑制政策にも関わらず、不動産は高騰を続けている。
しかし、自営業者などを始め、資産をあまり持っていない一般人の家計は負債のみが膨らみ、将来の不安を募らせている。
今回は、韓国政府の政策と国民の募る不満を取り上げる。
時限爆弾になりかねない負債増加の状況
政府は国民から税金を徴収し、公務員の給与、庶民への支援、道路など社会インフラの整備などをそのお金で行い、国家運営をする。
収入に比べて支出が多くなると、国は国債を発行して借金をするが、国も借金が多くなると首が回らなくなる。
国の借金が適切であるかを見極める指標が国内総生産(GDP)と政府の債務の対比である。
韓国のGDP対比一般政府債務比率は2020年が48.7%、21年が53.2%、26年には69.7%と増加することが予想されている。
一般論でいうと、発展途上国は債務比率が高い。
開発などのために外国から資金を借りることが多いためだ。
しかし、債務比率に気を取られて借金を少なくすると、債務比率は低くなるが、発展が遅くなる傾向があるため、全体のバランスが大事である。
従来、韓国はどちらかというと、債務比率は低い方だった。
ところが、文在寅大統領が就任して以降、国家債務が急激に膨らみつつあるようだ。
加えて、家計負債も急激に増えており、専門家は警鐘を鳴らしている。
韓国の家計負債の残高は昨年末に1,726兆1,000億ウォン(約165兆5,000億円)となり、初めて1,700兆ウォンを上回るようになった。
第3四半期と比べて44兆2,000億ウォン(約4兆2,000億円)の増加と、史上3番目の大幅な増加になるという。
不動産が高騰したことにより、不動産を買うために銀行借り入れを増やしたためだ。今は利子率が低いため問題ないが、もし利上げが実施されたら、莫大な家計負債は韓国経済の「時限爆弾」になりかねない。
負債増加の原因とは?
上記のように、不動産の高騰と教育費の負担により、韓国の家計負債は膨らんでいる。
国土が狭く、天然資源に恵まれない韓国では、土地に対する執着心が強く、また教育への投資しか成功への道がないと考えられていた。それが不動産の高騰と異常な教育熱を引き起こしている。
低い出生率と高齢化社会の進展も今後、家計負債の増加につながるだろう。少子化が進んでおり、韓国の合計特殊出生率は、なんと0.84人を記録した。
これは生産人口が減少することを意味しており、社会が衰退に向かうことになる。
加えて、高齢化の進展は社会福祉費の増加を招き、家計に負担をかけることになる。
韓国ではこのような要因が重なり、負債が増加している。
すべての負債の増加が悪いことではないが、負債が「爆発」しないよう注意が必要であることはいうまでもない。