目覚めるか“眠れる美女”日本 2023年の成長率はG7トップ!?
谷道健太/和田肇
2022年12月8日
22年10月、大阪・戎橋周辺を散策する外国人観光客
主要7カ国(G7)で2023年の成長率がトップになるのは日本──。国際通貨基金(IMF)が22年10月に発表した「世界経済見通し」は意外なものだった。
世界銀行のデータベースによると、成長率で日本がG7トップだったのは1989年が最後。
IMFの見通しが的中すれば、日本にとって34年ぶりの快挙となる。
>>特集「日本経済総予測2023」はこちら
IMFによると23年の日本の実質国内総生産(GDP)成長率は1.6%。
エネルギーの輸入価格高騰で、貿易の採算性を示す交易条件が悪化したほか、賃金の上昇を上回るインフレで個人消費が抑制され、22年の1.7%から減速する。
しかし、急激な物価高騰やエネルギー不足で、欧米主要国が軒並み成長率が落ち込むのに対し、底堅さが際立つ。
編集部は主要調査会社と金融機関30社に対し、日本経済の先行きに関するアンケートを実施した(アンケート結果はこちら=12月12日公開)。GDPについて回答のあった29社を平均すると、IMFの予想よりやや低いものの実質GDP成長率は22年1.5%、23年1.3%となった。
23年について最も高く予測したのは、大和総研(大和証券)の2.2%。
「サービス消費やインバウンド(訪日外国人客)を中心に経済活動が正常化することによる回復余地は大きい。政府の総合経済対策も下支えする」とみる。
インバウンドは23年に大きく増えることが確実視される分野だ。
政府は22年10月、新型コロナウイルスの水際対策を撤廃し、外国人の個人旅行客に門戸を開いた。
韓国人は同月、コロナ禍前の19年10月の6割に当たる約12万人も入国し、訪日意欲の高さがうかがえる。
東レ経営研究所は「試算では、円安が10%進めば、13%のインバウンド(客数)の増加が期待できる。さらに中国の観光客出国が解禁となれば、かなりの経済効果が期待できるだろう」とする。
穏やかなインフレはプラス
23年の実質GDP成長率を2.1%と予測したSMBC日興証券は
①米連邦準備制度理事会(FRB)による量的金融引き締め政策の影響で原油などの商品価格が低下し、日本のインフレ率が鈍化すること、②交易条件が最大で30兆円もの大幅な改善が見込まれること、
③春闘で3〜4%の高い賃上げ率が予想されること、
④総合経済対策の裏付けとなる国の一般会計歳出規模は29.1兆円と大きく、GDPが1%程度押し上げられること──の4点を挙げた。
23年の最大の注目材料の一つであるインフレだが、アンケート回答者が予測するコアCPI上昇率は22年の2.3%から23年は1.9%に小幅低下する。
1.6%の上昇を見込む三菱UFJ国際投信は「政府によるエネルギー高対策の効果でインフレ率は大幅に低下。
円安・ドル高傾向が反転することで円安に起因する物価の押し上げも減退する」と見る。
物価高騰に苦しむ欧米諸国とは対照的に、「穏やかなインフレは、日本経済にはプラス要因」(大手運用会社)との見方は多い。
インフレの定着により、企業は労働者の賃金を上げやすくなる。
アンケートでは1人当たりの名目賃金上昇率について、22年の1.6%に続いて、23年も1.7%と上昇を見込む。
更に、企業がデフレ時は二の足を踏んでいた設備投資を積極化できることは大きい。
デフレと違い、穏やかなインフレなら売り上げの増加が伴うので、企業は設備投資資金を回収できるからだ。
実際、アンケートの回答では、設備投資が23年のGDPの最大のけん引項目となっている。
設備投資の29社平均の伸び率は22年の2.0%のから3.3%に急増する。
22年の1.9%から23年は5.1%の伸びを予想する伊藤忠総研は「人手不足や脱炭素、デジタル化などの諸課題に対応するため設備投資が加速」と説明。
日本にはグーグルやアマゾンのような巨大なITプラットフォーマーは存在しないが、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)投資は、確実に企業の生産性向上につながる。
一方、脱炭素などのGX(グリーントランスフォーメーション)投資は、次世代産業の中核である電気自動車(EV)や再生可能エネルギーなどへの投資を通じて、企業の売上高を増大させることになる。
適度なインフレは、日本の金融政策の正常化へ道筋を付けることにも貢献する。22年10月、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数)の上昇率は2.5%に達した。
慶応義塾大学名誉教授の竹中平蔵氏は「市場であまり議論されないのが不思議だが、(日銀の黒田東彦総裁が就任してから)コアコアCPIの上昇率が2%を超えたのは初めてのこと。
これが続くと日銀は政策を変えやすくなる」と指摘する。
「サミット後総選挙」の声
竹中氏は「先日参加したロンドンの会合で、参加者から『日本はスリーピングビューティー(眠れる森の美女)』と言われた」と明かす。
「企業にはテクノロジーも、人材もお金もある。円安をきっかけに、改めて日本に進出する機運が高まっている」と話す。
その際に、海外勢の背中を押すきっかけになるのが、「日本の政治」という。
「世界がこれだけ第4次産業革命に向けて動いている中で、いかにプロアクティブ(能動的)な政策をとるのか」を海外の企業や投資家は見ているというわけだ。
編集部では、アンケートの中で「23年中に起きる可能性が高いこと」についても聞いた。
それによると、30社中10社が23年中の岸田文雄首相の辞任、9社が4月の統一地方選での自民党の大敗を選んだ。
旧統一教会問題への対応が後手後手に回る中、岸田首相のリーダーシップ回復は望めないとの声が市場関係者の間では支配的だ。
竹中氏の見方は違う。
小泉政権も第2次安倍政権も、比較的早い時期に解散総選挙に踏み切ったことが、長期政権につながった。
「今の野党の状況からすると、自民党が負けるのは考えられない」
(竹中氏)。
岸田首相も解散総選挙に打って出るのか。
そのタイミングは23年5月の広島サミット後ではないかと竹中氏は予想する。
総選挙で勝てば、経済システム改革への期待感から、株価も先行して上昇する可能性が出てくる。
アンケートでは23年の日経平均株価について、30社中12社が3万円を突破すると回答している。
同様に20社が23年に「電車やオフィスでマスクを着用しない人がする人を上回る」と見込む。
コロナ禍を克服した日本経済はインバウンド復活など明るい兆しが見え始めるなか、「真の成長戦略」が問われる1年となりそうだ。
(谷道健太・編集部/和田肇・編集部)
週刊エコノミスト2022年12月20日号掲載