台所でお皿を洗いながらちょっと言い合いをした。追い詰めたいわけでもないから言い返さずに小さくため息をついた。
そしたら、肩に何か乗った。
こどものあご。
(もう私より背が高い)
そのあと、何回か肩をもんでくれた。
いい気持ち、
ま、いっか。
ソファに座ったら「少し肌寒いから仕方ないですね」と猫が膝に乗って丸く位置を決めて目を閉じた。
しばらくトイレは行かれない。
あったかいから、
ま、いっか。

台所でお皿を洗いながらちょっと言い合いをした。追い詰めたいわけでもないから言い返さずに小さくため息をついた。
そしたら、肩に何か乗った。
こどものあご。
(もう私より背が高い)
そのあと、何回か肩をもんでくれた。
いい気持ち、
ま、いっか。
ソファに座ったら「少し肌寒いから仕方ないですね」と猫が膝に乗って丸く位置を決めて目を閉じた。
しばらくトイレは行かれない。
あったかいから、
ま、いっか。
風がわあわあ吹き抜けていく。
昨日寝る前に楽しくなってつい遊んじゃった、と娘が言う。
そういえば私も、と答える。
夕食の支度をしていた時も私たちは台所で騒いでいた。
2、3日前までみんなぐったりしてたのが、家の中の気圧も変わったように空気が軽くなっている。
夫は隣の部屋だけれどさっき話したら顔がほっとしていた。
風が変わった。
遠くで台風が通り過ぎていく。
久しぶりに主要区間の鉄道を利用した。
中途半端な時間だけど人はまあまあ乗っている。
窓は少しだけ開いている。
座ってぼんやり景色を眺めるとなにかが意識に引っかかる。
窓ではなくてその上の空間。
いつも色とりどりの広告で賑やかだったスペースが空っぽでがらんとしている。
吊り広告と扉の横、それ以外は全ての枠が空いていた。
(これは東海道線だぞ)
扉の横に毛を抜きましょうという広告と毛を生やしましょうという広告。
まだ何が引っかかる。
(吊り広告がまるで)
文字を見て理解する。
広告主は全て、JRとAC。
(写真は横須賀線)
こんな風になっていたとはとどこかで思っている。
なんて面白いんだろう。
私は今までの流れから離れていくらしい。
何か素敵なことをしているかと言ったらそんなことはなく、洗濯したりソファで昼寝したり動画を見たり猫と遊んだりしている。
不思議なことに前なら感じた(そうなんだ)劣等感や自己嫌悪も感じない。
すばらしいこととすばらしくないことは、今は私には同じように見える。
どれもすばらしくないし、どれもすばらしい。
熱は私を去ってしまっている。
どんどん私は根底に降りていく。
そしてバラバラと解体されていく。
自分のいたらないところ不具合、間違っていたこと、罪。
息をひとつ飲みこむように落ち着いて呑み下す。
全部私が悪かったし、悪かったのは私ではない。
まだまだ降下は続いている。
照明が落ちて
すばらしいものは地に落ちてその輝きを失った
恐ろしいものは浮上してころんと姿を見せている
ドキドキとスペクタクルと
絶望と限りない不安と
波乱バンジョーの舞台装置
その見渡す限りも
こころも平ら
フラット
どんなに「自分」が人をコントロールしようとしていたか
いろんな羽で飾り立てていたか
間違いじゃないことにしがみついていたとか
なのに人には押し付けたとか
でもそれも「自分」をやってただけだとか
「つまらない」日常のありえなさとか
洗濯物に助けられてるなあとか
ひとりひとりが神殿のようだとか
ひろびろと見渡す
(物理的にはソファだけど)
しばらくここにいます