🍀🍀きいちゃの浴衣🍀🍀
高校2年の「きいちゃん」という女の子と出会いました。
きいちゃんは小さい時の高熱が原因で、手足が思うように動かなくなり、障がいが残りました。
4歳の時、親元を離れて施設に入り、
それからずっと施設で生活していました。
ある日、きいちゃんが元気に職員室に駆け込んで来ました。
私は笑顔のきいちゃんを見たことがなかったので
「どうしたの?」
と聞きました。
すると、きいちゃんは
「お姉ちゃんが結婚するの。
私も結婚式に出るの。何着てこうかな」
と答えてくれました。
ところが何日かして、泣いているきいちゃんを見つけました。
話を聞くと
「お母さんが
『結婚式に出ないでほしい』
って言うの。
私のことが恥ずかしいんだわ。
私なんか、生まれてこなければよかった」
と声を上げて泣くのです。
でも私は、きいちゃんのお母さんが決してそういう方ではないことを知っていました。
だから私は、きいちゃんに
「お姉さんに結婚のお祝いを作ろう」
と提案しました。
きいちゃんは
「着物を縫ってあげたい」
と言いました。
私は
「着物は難しいけど、浴衣だったら縫えるかも」
と言いました。
でも内心、
「浴衣を縫うのは、きいちゃんには難しいかな」
と思っていました。
練習用の布亀をきいちゃんに渡すと、
何度も何度も指を針で刺しました。
私が
「ごめんね、もうやめよう」
と言うと、きいちゃんは、
「大丈夫。お姉ちゃんへのプレゼントだから頑張る」
と言っていました。
きいちゃんは、そのうち上手に縫えるようになりました。
学校でも施設に帰ってからも、
ずっと浴衣を縫い続け、結婚式の10日前に縫い上げました。
それを送ると、お姉さんから電話が掛かってきました。
「きいちゃんだけじゃなく、先生も結婚式に出てほしい」
と言ってくださいました。
結婚式の当日、きいちゃんはお母さんに買ってもらった新しいワンピースを着ました。
とても嬉しそうでした。
でも式に参列された人が、きいちゃんを見て、
「どうしてあんな子を連れてきたんかね」
と話してる声が聞こえてきました。
最初は嬉しそうにしていたきいちゃんも、
それを聞いて、うつむいてしまいました。
しばらくしてお色直しの扉が開くと、
そこには、きいちゃんが縫った浴衣を着たお姉さんが立っていました。
マイクの前に進んだお姉さんはこう話し始めました。
「この浴衣は、私の大切な妹が塗ってくれました。
妹は小さい時の高熱が原因で、重い障がいを持ちました。
そのため親元を離れて生活しなければなりませんでした。
両親との生活してる私のことを、恨んでいるんじゃないかとも思ったけど、
そんなことは、少しもなかった。
こんな素敵な浴衣を塗ってくれた妹は、
私の誇りです」
すると会場から大きな拍手が起こりました。
きいちゃんは恥ずかしそうで、
そして、とても嬉しそうでした。
式の後、きいちゃんのお母さんがやって来て、涙を流しながら私にこう言われました。
「あの子が私に
『生まれてきてよかった。
お母さん、生んでくれてありがとう』
と言ってくれたんです」
と。
お母さんはわずっと
「この子の障がいは自分のせいだ」
と、ご自分を責めてきました。
でもその時、輝くような笑顔のきいちゃんを見て、安心されたのだと思います。
その後きいちゃんは、すごく明るくて自信に溢れる女の子になりました。
そしてあの時出会った「和裁」を一生の仕事に選びました。
(「みやざき中央新聞」H29.6.26 山元加津子さんより)