🍀生物の進化🍀①
私が昔の生物、いわゆる「古生物」に興味を持ったのは小学生の時でした。
学校の教科書や図鑑などを見て、恐竜や化石が好きでたまらなくくなったのです。
大学では物理を専攻し、一度は民間企業のコンピューター部門に就職したものの、
やはり幼い頃からの古生物への思いは断ち難く、30歳で大学に戻りました。
以後、分子古生物学を専門に研究や大学での講義を続け、現在に至ります。
分子古生物学という分野を初めて知ったという方もいらっしゃるかと思いますが、
ごく簡単に言えば、
地層や化石とともにDNA情報やタンパク質なども活用しながら、
昔の生物の生態や進化の過程を明らかにしていく学問です。
特に近年では、DNA鑑定など科学技術の進歩によって、
古い化石を地層からだけでなく、いま生きている生物の情報からも、
昔の生物のことをかなり復元できるようになっています。
例えば、子供がたくさんいれば、容姿が分かっていない親の顔を復元することも、理屈上は可能です。
最初の生物が誕生したのは、
地球が誕生した6億年後、
今から約40億年前。
以来、途方もない年月の中で、生物は進化し続け、
進化の道はどんどん枝分かれしていき、たくさんの生物が現れました。
そして、その中のたった1本の道が、
私たち人類に繋がったのです。
そのことを思う時、
こうして自分が生きていることの奇跡を思わずにはいられません。
これから、分子生物学の最新の成果を踏まえ、
生物の誕生や人類の進化の奇跡をたどり、
生物の進化の営みが、私たちに教えているくれることを考えてみたいと思います。
人類は月に行ったり、携帯電話やiPS細胞をつくったり、様々なことを実現してきました。
しかし、生物そのものをつくることはいまだ現実できていません。
そのため、生命がどのように誕生したのかは、実は、はっきりわかっておらず、
そもそも誕生が1回切りだったのかすら定かではないのです。
ただ、大変な偶然と奇跡に恵まれて生物が誕生し、
進化していったことだけは間違いありません。
初期の地球は非常に熱く、太陽から電気を持った光の粒子(プラズマ)である「太陽風」が、
弾丸のように激しく噴きつけており、
とても地表で生物が生きていける環境ではありませんでした。
なので、最初の生物は深い海の中で誕生し、
海底から噴き出る温泉などに含まれる有機物を利用して生きている細菌だったと考えられます。
ところが、熱で溶けた状態だった地球の内部が固まっていく過程で、
偶然にも「地磁気」ができました。
要するに地球が磁石になったわけですが、
その磁場によって太陽風が地球に直接ぶつからなくなり、
生物が浅瀬や地表近くにまで出てこられるようになったのです。
おそらく地磁気ができたという偶然、奇跡がなかったら、
私たちは存在していないでしょう。
やがて、地表近くで太陽の光を浴びるようになった生物の中から光合成をする生物が現れます。
光合成により、生物は無機物である二酸化炭素や水を利用して有機物をつくれるようになったのです。
とはいえ、
生物にとって光合成はよいことばかりだったわけではありません。
光合成をすれば酸素が排出されますが、
当時の大多数の生物にとって酸素は猛毒だったのです。
そのため、光合成をする生物の出現により多くの生物が絶滅していったと考えられます。
しかし、そのような厳しい環境下でも、DNAを細胞膜で包み込むことで守り、
猛毒である酸素を利用して生きられるよう、進化した生物がいました。
それが、私たち動物や植物の直接の先祖となる「真核生物」に他なりません。
今から19億年前のことです。
それまで、大腸菌や藍藻(らんそう)などといった「真正細菌」、
メタン生成細胞といった特殊な環境にいる細菌からなる「古細菌」の生物グループしかなかったことを考えると、
真核生物の出現が、どれだけ生物の進化にとって重要なことだったかが分かっていただけるかと思います。
(つづく)
(「致知」8月号 更科 功さんより)