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ベッドのないビジネスホテル

2017-07-11 13:52:40 | お話
🏨ベッドのないビジネスホテル🏨


あなたは、ベッドのないビジネスホテルを想像できるだろうか?

しかも、そのホテルは、地方都市にありながら、92%の稼働率を誇ると聞いたら?

従来のホテルを大きく超えたイノベーションを実現しているのが、

埼玉県幸手市にある「ホテルグリーンコア」だ。

このホテルは、あらゆる面で常識破りだ。

通常、ビジネスホテルといえば、狭い部屋の多くをベッドが占拠し、

部屋にひとりで帰って寝るだけ。

しかし、ここにはベッドがない。

素足で過ごせるフローリングの床の真ん中に、

掘りごたつ式の机があるだけだ。

ただ、この形にしたことで、12平方メートルの部屋を、

宿泊者は自由に柔軟に使えるようになった。

机で仕事をしてもいいし、出張者同士が集まって鍋を囲んでもいい。

眠くなったら、机を片付けて掘りごたつの床を埋めれば、布団を敷ける。

そんな部屋を作り上げた。

この新しいコンセプトを可能にしたのは、段ボール材でできた家具だ。

グリーンコアの経営元は、金子包装という段ボール材メーカー。

本業を生かして開発した机を含む多くの設備が段ボール材なので、軽くて移動させやすい。

だから、ベットをおかなくてもいいわけだ。

リサイクル率は80%を超え、環境にもいい。


思いきった部屋作りをした理由は、差別化の必要性を痛感したことだ。

老朽化した建物をリニューアルしようとしたところ、

近くの全国チェーンのビジネスホテルと同じ設備を提案された。

全国チェーンは自社よりも安い値段で設備をつくっているはず。

同じことをすれば価格競争になってた時、確実に負ける。

そこで行き着いたのが、ベッドのない部屋だった。

この決断は、予想以上に大きな効果を生み出した。

出張者同士が部屋に集まるので、周辺の飲食店から仕出しを頼めるようにしたところ、

周辺の店の収益もアップ。

部屋のなかで子供を気兼ねなく遊ばせておけるので、

昼間は地域住民のママ会などにも使ってもらえるようになり、

高稼働率を達成できるようになった。


さらに、地域に開かれたことで、地方創生の起爆剤として期待されるようになった。

国土交通省のプロジェクトで、茨木県坂東市の市有地を賃借し、ホテルを建てることが認められた。

素晴らしい景勝地や史跡があっても、

ホテルがなければ誰も来ないから、地域行政側は是が非でもホテルが欲しい。

しかし、坂東市は鉄道が走っていないので、出店する事業者が見つからなかった。

それに対し、グリーンコアは、地域住民の需要も取り込めるので、

駅がなくても十分に経営が成り立つと判断した。

出張ビジネスマン同士の交流を促し、

地域の雇用を増やし、住民にも開かれたホテルに。

駅のない街の、地域活性化は、すべて「ベッドをなくす」という、

1ビジネスホテルの挑戦から始まったのである。


過去から当然に、顧客のために提供してきたものが、未来の顧客にとっては邪魔になってしまう。

あなたの事業から、捨て去るべき常識はないだろうか?

捨てた後の空白に、イノベーションの種は宿るのである。


(「日経MJ」2017.7.10 神田昌典さんより)