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最期の仕事

2017-07-15 13:24:00 | お話
🍀最期の仕事🍀


この間、1人の男性をお見送りしました。

その方のご家族は最初、病院から療養型の施設を紹介されましたが、

そこは家族が泊まり込めないとういことで、私どもの「母さんの家」に来られました。

いよいよ最期という時、ご家族やお孫さんを含め20人くらいが集まりました。

血圧が下がり、もうほとんど脈もないほどの状態が悪くなっていました。

往診の先生も

「もう、あまり時間がないですね」

とおっしゃって帰っていきました。

そんな中、長男の方が私に

「血圧を上げる注射をしてもらうよう先生に頼んでもらえませんか」

と言われました。

私は、その方にいました。

「血圧が下がるのは心臓が弱っているからです。

おしっこが3日前から出ていないのは腎臓が働いていないからです。

人が亡くなる時、体の機能が少しずつ落ちていくのは普通のことです。

飛行機が着陸する時、車輪を出して着陸態勢に入りますよね。

お父さんは、いわば『もうそこに地面が見えてるような段階』だと思います。

そこでまたエンジンを吹かすようなことをすれば、

きっと大事故になってしまいますよ」

と。

その方は私の話を黙って聴いておられました。

そして

「では、もうダメなんですね」

と深くため息をつき、お父さんのもとに戻っていかれました。


しばらくして4人のお子さんを連れてこられ、

「今僕に話したこと、この子たちにも話してもらえませんか」

と言われました。

私は同じように説明し、最後にこう付け加えました。

「今おじいちゃんは、一つひとつ息をしながら一生懸命生きてるでしょう。

これが本当に『生きている』ということなのよ。

おじいちゃんは、きっとそれをあなたたちに伝えたいの。

だから、目をそらさずにちゃんと見ていてね」

4人は黙って私の話を聴いていました。

それから1時間くらいして、おじいちゃんは息を引き取りました。


翌々日がお葬式でした。

お孫さんの中で大学生の子が、こんなあいさつをされました。

「来週、僕は大学に帰ります。

そしたら、おじいちゃんのことを忘れるかもしれません。

でも、おじいちゃんが一生懸命生きたことは決して忘れません。

僕もおじいちゃんのように、

自分に与えられている命を、一生懸命生きたいと思います。

それから、最後まで介護を一生懸命やった父親を、僕は尊敬します」


私はとても感動して、

「素晴らしいごあいさつでしたね」

と言いました。

するとお父さんが、

「あれは本人が『自分に言わせてくれ』と言い出したんですよ」

と話されました。

「次の世代に、いのちを伝えていくってこういうことなんだな」

と実感しました。

人が死ぬ時に、そういう大きな仕事をしなくてはいけないの。

だからこそ、その最期の大事な仕事をしていただくための場が必要なのです。

人は、亡くなると1時間くらいの間に表情が変化していきます。

だんだん透き通っていき、最後ほんとにきれいなお顔になります。


施設でも病院でも、最期の時間は、ご家族に返していただきたいと思います。

そして、ご家族の方は、その人の人生に対して、

「本当にご苦労さま」

と自然に手を合わせるような敬意の心を持って、

お見送りをしてほしいなぁと思っています。


(「みやざき中央新聞」2017.7.10 ホスピス 市原 美穂さんより)