元NHK交響楽団ティンパニ奏者有賀誠門(あるがまこと, 1937-)氏の、N響時代の面白い話が「不滅の交響曲大全集」というレコードの解説書に載っていました。昭和50年前後のものです。
「定期公演でベートーヴェンの第4番の交響曲をやったときである。私はそろそろ出番だろうと楽屋を出ると、ステージ・マネージャーが『ティンパニー!ティンパニー!』と叫んで来るではないか。どうもステージを確認しないで指揮者を出してしまったらしい。さては、と舞台へと走った。時すでに遅し、音は出てしまった。さてどうしようか?
ベルリン・フィルの元ティンパニ奏者アヴゲリノス(Gerassimos Avgerinos, 1907-1987)氏の話が頭に浮んだ。それはヤニグロ(Antonio Janigro, 1918-1989)が客演した時、氏は開演に遅れてしまい既にオーケストラは鳴っているし、仕方なしにまた自宅へ引き返したというのである。そして翌日の新聞批評には、なんと『ヤニグロはモーツァルトの交響曲をティンパニなしの新しい解釈で演奏した』と出たという。
しかし、4番の場合はどうだろうか、1楽章は良いとしても、2楽章は....そう!ティンパニ・ソロが出てくる。こんなことを考えながら舞台の袖にいる私を見て、指揮者はビックリ仰天。そりゃそうでしょう、ティンパニなしで始めてしまったんだから。1楽章のイントロも長いし、意を決してステージに忍び込んだのであった。」
↑ 有賀誠門さん
。。。。有賀さん、新解釈としての帰宅路線も頭をかすめたわけですね。