ファニア・フェヌロン著『ファニア歌いなさい』(徳岡孝夫訳、文芸春秋)を読んで感動しました。
Fania Fénelon (1908-1983)
アウシュヴィッツ強制収容所での実話なのでキツかったんですが、(読んでいる間はドイツ人が少しキラいに...)収容所にユダヤ人女性楽団員だけによるオーケストラがあったことを初めて知りました。
オーケストラといってもヴァイオリン12、フルート1、リコーダー3、アコーディオン1、ギター3、マンドリン6、ドラム、シンバルという特殊な編成で、平均年齢20歳くらいのほとんど素人集団。アウシュヴィッツに囚われたフェヌロンはその楽団の中心メンバーであり、編曲も担当しました。
指揮者はグスタフ・マーラーの姪、アルマ・ロゼ(Alma Rosé, 1906-1944)。妻のアルマではありません。
マーラーの妹ユスティーネは、ウィーン・フィルのコンサートマスターを57年間務め、ロゼ四重奏団を結成した高名なヴァイオリニスト、アルノルト・ロゼ(Arnold Rosé, 1863-1946)と結婚し、生まれた娘がアルマ・ロゼです。
↑ アルマと父・アルノルト・ロゼ( 1927年。ここより拝借)
(以下ネタバレ注意)
アルマも優秀なヴァイオリニストだったけれど、ユダヤ系ということだけで逮捕されてしまい(彼女は自分がユダヤ系であることを知らなかった)、アウシュヴィッツに送られたが有名なヴァイオリニストであるということで楽団を任せられたということです。芸は身を助く、ですね。
アルマの人物像はといえば、徹頭徹尾非情で冷たいドイツ人で、1日17時間(!)の練習においては出来の悪い楽団員にはあらん限りの悪罵を浴びせた(114ページ)。このへん、伯父マーラーの性格に似ている?
アルマは人と人とが親密になるのに必要な人情というものをもっておらず、だれもアルマの内面にはなかなか入っていけなかった(136ページ)。ただし、ヴァイオリンを弾いているときだけは非情さがかけらもなかったそうです(132ページ)。
人間を愛せないかわりに音楽を心から愛していたような彼女。しかしその厳しさの背後には実は女子楽団員たちの命を守らねばという強い意志があったようです。ヘタクソならすぐ処分されてしまいそうですからね。実際、楽団員は結果的に誰も殺されずにすみました。
彼女が亡くなったとき(死因不明。嫉妬がらみの毒殺?ガス室で殺されたのではない)、めちゃくちゃ厳しく指導されてアルマを恨んでいてもおかしくない楽団員たちはナチの将校たちとともに全員泣いていたらしいです(迫害する側とされる側が同じ涙によって結ばれていた。。254ページ)。
。。。なかなか魅力たっぷしのアルマ。『ファニア歌いなさい』は映画にもなっていて、Netflixで見ることができます。
↑ マーラーと義弟アルノルト・ロゼ
↑ ウィーン・フィルのメンバー表(1898~1901) 『ウィーン・フィルハーモニー』文化書房博文社