「不滅の交響曲大全集」の解説書に元N響の著名なオーボエ奏者、似鳥健彦氏(にとり たけひこ、1933年生まれ)による「燃えます、変身もします!」という記事がありました。
【ベルリン・フィル】
1972年にN響の二回目の欧州旅行がありましたが、ベルリン・フィルハーモニーホールでのことです。N響の演奏会のある前日は、カール・ベーム指揮でベルリン・フィルの公演がありました。我々の半数の人達は、運良く入場券を手にすることができましたが、その指定席の関係でしょうが、他にも偶然日本人の聴衆も多かったこともあって、髪の毛の黒い連中がぐるりと、オーケストラを囲んだようになってしまいました。ベルリン・フィルの人達は、特にマエストロ・ベームも燃えたのかもしれませんが、当地の人も特にほめ上げる位、その夜のシューベルトの2番と、7番のシンフォニーは大変素晴らしいものでした。特に絶品なオーボエのローター・コッホさん(※)は、休憩の時、いろいろな人に「今日はどうだ」と聞いていましたが、我々を意識しての演奏が、ありありとわかりました。
↑ 似鳥氏とローター・コッホ (Lothar Koch, 1935 - 2003 カラヤン時代の首席奏者)
【NHK交響楽団】
今度は同じ旅行での、ロンドンでのお話です。演奏がつまらないと、紙ヒコーキが飛んだり、聴衆が異常に騒いだりする、ロイヤル・アルバート・ホールでの出来事です。私はいつもするように、コンサート・マスターの合図でラの音(Aの音)を出しました。ところがどうでしょう。次に起こったことは、同じ音程で聴衆の「アー」というコーラスが一斉に返ってきたではありませんか。小生やオケの人がびっくりするうちに、それは笑い声に変わり、やがて止んでしまってから、岩城さんの登場です。彼が現れると、今度は最前列(ホールの関係で立席ですが)の人達の中から、さっとプラカードがあがりました。日本語で、「歓迎NHK交響楽団」とか、さっきはがしてきたばかりらしい「楽屋入口」と書いた紙を逆さに掲げたりで、楽員は大笑いになりました。そこで岩城さんはニッコリと何人かの人と握手をしてから演奏に入ったわけです。当夜の演奏は聴衆と一体になった、暖かで後味の爽やかな演奏会になったことは言うまでもありません。
。。。やっぱり演奏家も人間、聴衆との間の見えない壁が取っ払われるとヤル気が何倍にもなるんですね。そんなアタリの演奏会に行きたいものです、というかアタリにするのは聴衆次第!